101 畑開拓班

 俺はヒッポリアスを抱っこした状態で歩いていく。

 ちなみに肩の上にはピイが乗っている。


『ひっぽりあす、おもくない?』

「重くないわけではないが、気にしなくていいぞ」


 元々、長年荷物持ちをしていたのだ。

 重い物を持って歩くことなど、慣れている。


『そっかー』


 しばらく歩くと、ヴィクトルたちの姿が見えてきた。

 拠点から、ゆっくりと徒歩で一分程度歩いた。


 大体、拠点から六十メトルといったところか。

 大声を出せば、聞こえる範囲だ。



「あ、テオさん! どうしました?」


 ヴィクトルが俺に気付いて声をかけてくる。


「昼飯の時間だから呼びに来た。何か問題でも起きたのか?」

「いえ、問題はないですよ。この土地にならば、今からでも収穫が間に合う作物があるとイジェさんが」

「ほう? それは助かるな。イジェ。なにを植えるんだ?」


 冒険者たちと一緒に草を刈っているイジェに向かって尋ねてみた。


「アッ、テオさん。マメならイケル」

「豆か。豆は美味いからいいな」

『うまい? たべたい』


 ヒッポリアスも食べたそうに、尻尾を振っている。


「豆にも色々あるんだなぁ」


 俺の生まれ育った村でも豆を栽培していた。

 だが、春頃には種まきを開始し、秋に収穫していたはずだ。


 そして、今は夏。

 俺の生まれ育った村で栽培していたものとは品種が違うのだろう。


「デモ、ハタケにスルには、ヤルコトタクサンある」

「木を切って、根を取り除き、草を刈って、石をとって土を耕さないといけないよな」

「ソウ。テオさんのイウトオリ。ダカラ、ヒッポリアス。テツダッテ?」

「きゅお?」


 俺に抱かれたままのヒッポリアスは、尻尾をぶんぶんと振る。


『ひっぽりあす、てつだう? てつだう?』

「手伝ってくれると助かるよ」

『てつだう!』

「ヒッポリアスは手伝ってくれるようだぞ」


 ヒッポリアスの言葉をイジェに伝える。


「アリガト」

「おお! ヒッポリアスが手伝ってくれるならすぐ終わるぞ!」

「頼むぞ、ヒッポリアス!」


 冒険者たちから期待の言葉をかけられて、ヒッポリアスはどや顔をしていた。


 そんなヒッポリアスを撫でているとき、ふと気付いた。

「あれ? そういえばケリーは?」

 ヴィクトルやイジェたちと一緒に出たはずのケリーの姿が見えない。


「ああ、生物学者の先生なら、そっちに……」


 冒険者が指さしたのは、畑予定地の向こう側。

 深い藪の中だ。


「トイレか?」


 そう俺が呟くのと同時に、藪からガサガサと音が鳴る。


「……拠点が近いのに、わざわざ外でトイレなどするか」


 出てきたケリーの両手には一匹ずつ蛇のように巨大なミミズが握られていた。


 そのケリーをみた冒険者たちが、思わず呟く。

「うわぁ」

「うわぁじゃない。ミミズさまだぞ。ミミズは土をやわらかくするんだ」


 どうやら、ケリーは魔獣のミミズを捕まえてきたようだ。

 そのミミズをケリーは樽の中に入れる。


「この前、テオたちと散歩したときにミミズの魔獣を捕まえたことがあっただろう?」

「……そうだな。そんなことがあったな」


 フィオやシロ、ヒッポリアスと散歩していたときのことだ。

 ケリーはいつの間にか、魔獣ミミズを捕まえていた。


「あれから、魔獣ミミズの研究してたんだ」

「へぇ……いつのまに」

「魔獣ミミズは、旧大陸のミミズより、土に与える良い影響は数倍、いや数十倍もあるんだ」

「それはすごいな」


 とはいえ、俺たちの知っているミミズより体長が十倍ぐらいあるのだから、当然なのかも知れない。

 体長が十倍なら、体重は縦、横、高さの三つが十倍になるので、十の三乗で千倍になる。

 旧大陸のミミズと全く別の生物と考えた方がいいだろう。


「それに、生命力も強いんだ。だからこいつらを畑に放せば、きっと良いことが起こる」


 そういって、ケリーは目を輝かせている。

 だが、俺は、魔獣ミミズがあまりに大きいので、豆の種子を食べないか心配になった。


「あ、こいつらは豆は食べないから安心するといい」

 俺の心配を察したのか、ケリーはそんなこと言った。


「じゃあ、午後はヒッポリアスと一緒に土を耕して、それが終わればミミズを放せばいいか。イジェはどう思う?」

「イイとオモウ! ミミズ、ハタケのミカタ」


 新大陸で農業を行なっていたイジェたちにもミミズは畑に良い影響を与えると言う認識があるらしい。

 それならば、安心である。


「それでは、決まりですね。まずはお昼ご飯を食べに行きましょう!」

「おお! 昼ご飯を食べに戻るぞ!」


 ヴィクトルが先導して拠点へと戻っていき、冒険者たちもその後をついて行った。


 俺もヒッポリアスを抱っこして、肩にピイを乗せてついて行く。

 すると、ケリーが近づいてきた。


「テオ。シロはどうした?」

「ん? 今は食堂で子守を頼んでいるぞ」

「……まさかとは思うが、朝の散歩をしていない、ということはないだろうな?」

「あっ」


 俺は、とても大事なことを忘れていたようだ。

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