100 ヒッポリアスの家の洗面台
冒険者と学者たちの宿舎四軒全てに洗面台を設置し終えたら、次はヒッポリアスの家への設置だ。
俺とフィオが連れ立って歩き、その後ろをヒッポリアスと子魔狼たちがわちゃわちゃ付いてくる。
そして最後尾は保護者役のシロだ。
「ヒッポリアスの家に洗面台を設置するよ」
「きゅお!」
ヒッポリアスも嬉しそうに鳴いていた。
ヒッポリアスの家に着いたら、フィオと手分けして、ヒッポリアスと子魔狼、そしてシロの足を拭いて、中に入る。
「さて洗面台だが……どの辺りが便利だろうか」
「うーん?」
「きゅおー?」
フィオとヒッポリアスが真面目に考えてくれていた。
その後ろでは子魔狼たちがシロにじゃれついて遊んでいる。
「入り口の近くに設置するか。足も洗いたいときもあるからな」
「あしあらう!」
「そうだなぁ、シロたちの足を洗えるように低い場所にも一つシンクを設置するか」
「わふぅ!」
イジェとフィオが使うので冒険者たちの宿舎に設置した洗面台より低くする。
それ以外は基本的に冒険者たちの宿舎に設置したものと同じだ。
そして、玄関の端に、子魔狼が自分で入れるぐらい低いシンクを設置する。
そちらも、難しいのは配管で、配管自体は冒険者の宿舎に設置したものと同様だ。
だから、大した手間もなく、完成させることができた。
「よし! 完成だ!」
「わふぅ! かんせい!」
早速、フィオは洗面台を使って手を洗う。
「つめたい! ふへへー」
すごく楽しそうでなによりである。
『あらう』
一方、ヒッポリアスが低い位置にあるシンクに入る。
そしてレバーを操作して、頭から水を浴びていた。
『きもちいい!』
海で暮らしていたヒッポリアスは水が好きなのだろう。
だが、シロと子魔狼たちは、冷たい水に濡れるのは嫌がる。
『だいじょぶ?』「……ひぃん」『……ぅゎぁ』
子魔狼たちは、ばしゃばしゃ遊んでいるヒッポリアスを見てドン引きしていた。
ルルなど、人の言葉で「うわぁ」と言っているほどだ。
「きゅぅお!」
ヒッポリアスはそんなことをお構いなくバシャバシャ遊ぶ。
しばらく遊んだ後、満足したようで、シンクから外に出てくる。
「あっと、ヒッポリアス、拭くから待ってくれ」
「きゅお?」
びしゃびしゃの状態で歩き回られたら床が濡れてしまう。
俺が拭くためのタオルを用意していると、ルルがヒッポリアスをペロペロと舐めていた。
ルルは濡れたままにしたらヒッポリアスが風邪を引くと思ったのだろう。
子魔狼の中でもルルは特に面倒見がいい気がする。
「ルルもありがとうな」
「ぁぅ」
そして俺はヒッポリアスの身体を拭いていく。
小さいヒッポリアスを抱き上げて優しく拭いていくと「きゅおきゅお」と鳴いていた。
「さてさて、そろそろお昼ご飯の時間だな。準備を手伝いに行くか」
「ふぃお! てつだう」
「そうか、頑張ろうな」
「うん」
そして俺たちはぞろぞろと、食堂へと向かう。
「イジェとヴィクトルたちも戻ってきているころだろうな」
「いじぇのごはん、うまい!」
「そうだな。だけど、イジェたちは畑にする場所を見つけるので忙しいからな」
イジェたちは朝から農地の選定に向かったのだ。
「ふぃお! ごはんつくる!」
「そうだな、それもいいかもしれないな」
とはいえ、イジェの作るご飯が美味しいので、俺とフィオの作ったまずい料理だとみんなががっかりするだろう。
「はたけ、たのしみ!」
「フィオは畑がなにかわかるのか?」
「いじぇにきいた! ごはんができる!」
「まあ、その解釈で間違ってはいないな」
夏から植えて間に合う作物とかあるのかどうかはわからない。
本格稼働するのは恐らく来年の春になるだろう。
そんなことを考えながら、食堂に到着すると今日休みの冒険者たちが食事の準備をしていた。
ヴィクトルたちはまだ帰ってきていないようだ。
「何か手伝おう」
「テオさん、たすかるよ。でも、食事の準備を手伝うよりヴィクトルたちを呼びに行ってくれ」
「ヴィクトルたちも時間はわかっているはずだが。もしかしたら、戻って来れない理由があるのかもだからな」
冒険者たちは、ヴィクトルが病み上がりだから心配しているのだろう。
「ふむ。そういうことなら、迎えに行ってこよう」
もしかしたら、なんらかの作業で忙しいのかもしれない。
開墾を始めているとは思わないが、草を刈り始めてキリのいいところまで終わらせたい、とかはありそうだ。
もしそういうことなら、手伝った方がいいだろう。
「ふぃおも!」
「フィオは、ここで食事の手伝いをしていてくれ」
「わかた!」
「シロは子魔狼たちの子守を頼む」
「わふ!」
「ヒッポリアスは付いてきてくれ」
「きゅお」
俺はフィオ、シロ、子魔狼たちの頭を順番に撫でてから、ヒッポリアスとピイと一緒に食堂の外に出る。
そしてヴィクトルたちが農地を探しにいった方面に向かって歩き始めた。
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