99 洗面台設置の完了

 若い冒険者は、足元にじゃれつくクロを優しく抱き上げる。

 そして、撫でながら言った。

「扉に近いと、ぶつかるかも知れないし……遠いとそれはそれで面倒だし」

「なるほど。このあたりか」

「はい、このあたりなら、便利かもっすけど、配管とかの問題とかは大丈夫っすか?」

「それは問題ない。どちらにしろ地中に埋設するからな」

「そうっすか! 凄いっすね!」


 設置場所が決まったら、固定して、配管を通せばいい。

 それが難しいのだが、トイレや食堂、浴槽に配管を繋げたときよりは簡単だ。


 俺は地面にヒッポリアスを置くと、洗面台の固定に入る。

 固定を済ませると、配管を通す作業だ。


「気合いを入れるから、少し構ってやれないぞ」

『わかった!』


 ヒッポリアスは俺の邪魔をしないように、フィオとシロの方へととことこと歩いて行く。

 一方、若い冒険者は、食堂には戻らず、子魔狼たちを撫でまくっている。

 恐らく、食堂でのんびりするより、子魔狼たちを撫でている方が癒やされるのだろう。

 気持ちはよくわかる。


 そして、俺は気合いを入れて、鑑定スキルをかける。

 対象は床の下の地面である。

 深さ三メトル、縦横三十メトル四方ぐらいまで一気に鑑定スキルで地中の状況を把握していった。

 地中の状況には、俺が敷設した下水管と上水管の位置と状態も含まれる。


「よしっ!」


 魔法の鞄から金属塊を取り出すと、製作スキルを使う。

 金属管を製作場所を、地中に設定するのだ。

 それにより、土と入れ替わる形で、金属管が伸びていく。


 管は地中の深いところを走らせる。その方が凍結に強いからだ。

 ゆっくりと管を作りながら伸ばしていって、上水の太い管まで到達させて一気に接続させる。

 それも上水の太い管の一部と、新しい管を置き換える形で接続する。

 その作業を冷水と熱水の二通り分実行する。


「上水はこれで良しと」


 今は床から二本の管が生えている状態だ。管の上は金属で蓋をしてある。

 水を流す前に、下水管を通さないと、水浸しになってしまうからだ。


「おわた?」


 フィオが尋ねてくる。


「まだだよ」

「わかた!」


 フィオはヒッポリアスや子魔狼たちが俺の邪魔をしないようにしてくれているようだ。


「ありがとうな」


 俺はフィオにお礼を言って作業に戻る。

 下水管の方が太い。だが、太さ以外は上水と基本は同じである。

 そして、一本で良いので、上水よりも楽なのだ。


 上水と同じように地中に管を通し、大本の管につなぐ。

 それを終えてから、シンクの底面に管をつないだ。


「これでよしと」

「おわた?」

「もう少しだよ」

「わかた!」


 フィオは少し興味があるようで、床から生えている二本の上水の管とシンクにつながった下水の管をちょんちょんと触る。

 そして、ヒッポリアスたちのところへと戻っていった。


「さて、一番大変なところは終わったが……一番面倒なところが残っているな」


 それは蛇口だ。

 蛇口はレバーを使って、出したいときに水を出せるようにする構造を作らねばならない。

 それは少し複雑で、面倒だ。

 しかも蛇口のひねり方で、温水と冷水の出方を変えることで、温度調節も出来るようにしなければならない。


「まあ浴場に取りつけたのと同じ構造でいいか」


 上水の管をさらに延長させて、蛇口を作り、温水と冷水のレバーをそれぞれ付けて完了だ。


「完成だ」

「おわた?」

「ああ、ここのは終わったよ」

「わーい」


 フィオも喜んでくれた。

 フィオに抱かれていた、ヒッポリアスも尻尾をぶんぶん揺らしている。


「完成っすか? ありがとうございます!」

「ああ、実際に使ってみてくれ。使い方は……浴場と一緒だ」

「了解っす!」


 冒険者が実際に冷水と温水を出して、確かめてくれる。


「ばっちりっす! ありがとうございます!」

「無事完成できて良かったよ。じゃあ、次に行くか!」

「わほい!」


 まだ洗面台を設置しなければならない宿舎は三軒あるし、ヒッポリアスの家にも設置しなければならないのだ。


 俺とフィオ、シロとヒッポリアスと子魔狼たちは隣の宿舎へと向かう。

 若い冒険者は、やっと食堂の方に戻るようだ。

 そしてピイは相変わらず俺の肩の上である。


「ぴぃ」

「起きたか?」

『ておどーる。かたこった?』


 そう言われて、肩を回してみる。

 製作スキルの使用ではさほど疲れなかった。

 だが、その前の鑑定スキルで頭を使った。

 頭を使うと肩が凝る、気がする。


「少し凝ったかな」

「ぴぃ~」


 鳴きながら、ピイは肩を揉んでくれる。

 とても気持ちが良い。


「おお、ピイありがとうな。すごく効くよ」

「ぴぴぃ」


 ピイは頭の方まで揉んでくれる。

 肩と頭の凝りがほぐされていく。


「いくらでも鑑定スキルも製作スキルも使えそうだよ」

『よかったー』


 ピイに助けられて、俺は残り三つの宿舎の洗面台の設置を終えたのだった。

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