98 洗面台の配置を考えよう

 作られた大きな合金の塊を見て、フィオは興奮気味に

「ふおー」

 と叫んだ。


「でかい!」

「洗面台だけでなく、配管もこれで作るからな」

「そかー」


 ヒッポリアスと子魔狼たちが金属塊に興味を持ったらしく、駆けてくる。


「これは、だめ」

「ぴぃ」

 ダメと言ったらちゃんと言うことを聞いて、触れないのでとても偉い。


「えらいぞ。これは材料だからね」


 合金が出来たら、洗面台自体は簡単だ。

 構造も複雑でもないし、すごく大きいわけでもない。


 先ほど頭の中に描いた設計図通りに、四本の柱とシンクで作られた洗面台を製作スキルで作っていく。


「すごい!」


 先ほど合金の金属塊を作ったときよりもフィオのテンションが高い。

 難度は合金を作る方が上なのだが、下から生えるように洗面台が出来ていくさまは見ていて面白いのだろう。


 残った金属塊は、重たいのでとりあえず魔法の鞄にしまっておく。


「よしこの洗面台を宿舎内に設置してと……」


 俺は作った洗面台を手で持って、宿舎内へと運んでいく。


「ふぃお、もつ」

「大丈夫だよ。ありがとうな」


 フィオは一緒に持とうとしてくれたが、洗面台自体はあまり重くない。

 子魔狼たちより軽いぐらいだ。


「それより、フィオ。さっきのお兄さんを呼んできてくれ」

「わかた!」


 さっきのお兄さんというのは、この宿舎に住んでいる冒険者の一人だ。

 昨日一昨日と、沢山働いたので今日はお休みらしい。

 食堂で今日お休みの冒険者たちとのんびり過ごしているはずだ。


「わふぅ!」

「クロたちは俺と一緒に待っていような」

「わふ」


 俺は、走って行ったフィオを追いかけようとしたクロを止めた。

 シロがクロのことをベロベロ舐める。


 俺は子魔狼たちのことはシロに任せて、洗面台を宿舎の中へと運ぶ。

 俺が宿舎の中に入ると、シロに付き添われたヒッポリアスと子魔狼たちも付いてくる。


「扉の幅がギリギリだな。今度から中で作ろう」


 宿舎は玄関を入ると、それなりに広い共有スペースとなっている。

 そして、共有スペースから個室につながる扉があるのだ。


「さて、どこに設置するかだが……」


 どこに設置するかは、実際に住んでいる者の意見を聞いた方がいいだろう。

 だからフィオに呼んで貰ったのだ。


 少し待っていると、フィオが扉から入ってきた。


「かんせい?」

「まだだぞ」


 フィオにヒッポリアスと子魔狼たちがじゃれつきにいく。


 フィオから遅れて、若い冒険者が入ってきた。


「テオさん。フィオに呼ばれてきたんだけど……」


 入ってきた若い冒険者に子魔狼たちがじゃれつきに行く。


「お前ら……本当に……」


 若い冒険者は自分の足にまとわりつく子魔狼たちを見て一瞬固まった。


「この世のものとは思えないほど可愛いな」

「ぴぃぃ」「ぁぅ」「ゎぅぁぅ」


 冒険者はじゃれつく子魔狼たちをもふもふと撫でまくる。

 ヒッポリアスは冒険者にじゃれつきには行かず、俺の足元に来る。


 ヒッポリアスより子魔狼たちのほうが人見知りはしないのかもしれない。


 俺はヒッポリアスを抱きかかえると、子魔狼たちにデレデレしている冒険者に声をかける。

「わざわざ悪いな。来てもらって」

「あっ、はい。なんっすか!」

 そういいながらも、子魔狼たちを撫でる手は止めない。


「洗面台を設置する場所について意見を聞きたくてな」

「場所っすか?」

 冒険者は顔を上げる。


「おっ! おお……」


 そして、初めて洗面台の存在に気がついたようだ。

 子魔狼たちにじゃれつかれていたので、気付かなくても仕方がないことだ。


「さすが、テオさん、作るのが早いっすね」

「構造が単純だし、そもそも完成ではないんだ。難しいところはこれからだからな」

「それでも半端ないっすよ。あっそうだ。場所っすよね」

「ああ、俺は宿舎に住んでないからな。実際に住んでいる人に聞くのがいいと思ってな」


 俺がそう言うと、若い冒険者は子魔狼たちを撫でていた手を止めると、洗面台に近寄る。


「なるほど……ちなみにこれはどうやって使うんすか?」

「えっとだな。まだ未完成だからわかりにくいんだが、この辺りに水を出せる装置を取り付けるんだ」

「ほうほう。簡単な洗濯をしたり、水を飲んだりできるってわけっすね」

「まあ、そういうことだ。今は夏だからそうでもないが、冬になったら顔を洗いに外に行くのもつらいだろう?」

「確かに! 学者先生がいうには、この辺りの冬は寒いらしいっすからね」

「そうらしい。イジェもそう言っていたからな」

「こっちに住んでたイジェさんがそういうなら、確実っすね。冬かー」


 そんなことを言いながら、洗面台を観察し始める。


「この辺りから水が出て、まあここで手を洗ったり、顔を洗ったりするんだ」

「ふむふむ。それなら……。この辺りがいいかなぁ」


 そういって、若い冒険者は共有スペースの一角を指さした。

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