97 洗面台を作ろう

 冒険者と学者たちが五人ずつ住んでいる宿舎が四軒。

 加えてヒッポリアスの家と病舎。

 計六軒の建物には水道が引かれていない。


 一方、食堂兼調理場と浴場、トイレには上下水道が既に配備されている。


 俺は拠点の中心にあぐらをかいて座る。

 そして、地下に埋設させた上下水の配管の配置を思い浮かべる。


 敷設したときは、金属が足りなかった。

 だから材料節約のために、配管は最短距離を走っている。


「ふぅむ」

「ぴぃーぴぃー」


 座った俺に気付いたクロがぴーぴー鳴いて甘えてくる。

 俺はクロの頭をわしわし撫でながら、考えた。


「ぁぅ」『あそぶ?』


 ロロとルルもやってきて俺のひざの上に乗ろうとしてくる。

 ロロとルルのことも撫でまくった。

 クロもそうだが、ロロもルルもモフモフでふかふかだ。


「クロ、ロロ、ルル。今、俺は遊んであげられないんだよ」

「きゅ」「ぁーーぅ」「ふんふん」


 甘えている子魔狼たちをフィオが二頭を抱っこし、シロが一頭を咥えて離してくれる。

 そして、遅れてヒッポリアスがひざの上に乗ってくる。


「きゅお」

「ヒッポリアスも甘えたいのか」


 俺はヒッポリアスを撫でながら考える。

 ヒッポリアスの手触りはとても良い。


「今ある上下水道に各戸の水回りを繋げればいいな」


 食堂や浴場、トイレに敷設した上下水道の配管はかなり余裕を持って太めに作った。

 だから、そこから枝分かれさせても、問題ないだろう。


「……金属があると本当に楽だな」

『かんたん?』

「そうだよ。下準備は必要だけどな」


 金属は加工が楽なのだ。

 木材や石材を使うときには、鑑定スキルを丁寧にかける必要がある。

 それは、木や石には一つとして同じ物はないからだ。

 木ならば、生えている場所、樹齢などなどで、性質が変わっていく。

 石も木ほどではないが、細かく見れば成分が異なるし、結晶の大きさが違っていたりする。


「その点、金属は精錬の時点で気合いを入れておけば、比べものにならないほど均一だからな」

『そっかー』


 既に、ヒッポリアスに鉱脈を砕いて貰い製作スキルを使って金属のインゴットを作ってある。

 だから、鑑定スキルをそこまで丁寧にかけなくても、製作に入れるのだ。


「ヒッポリアスに手伝ってもらって採集したおかげだよ」

「きゅぅお!」


 上水道の配管について決めたら、次は実際に各戸に配備する洗面台の設計だ。

 宿舎の洗面台は〇・八メトルぐらいの高さに作ればいいだろう。


 宿舎に洗面台は共有部分に一つあればいい。

 お湯と水を出せるようにすれば、非常に便利になる。

 特に冬場などはお湯が出るのと出ないのとでは快適さが全く違う。


「病舎は……。難しいな」

「むずかしい? なで?」


 フィオに尋ねられた。

 フィオが抱えていたクロとロロは、ルルと一緒に、俺のすぐ近くでシロにじゃれついている。

 子魔狼たちの楽しげな様子を見たヒッポリアスも俺のひざから降りて、シロのところに走って行った。


「うん。難しい」

「どして?」

「病舎は、病人が出たときのための建物だからな。日常的に使うわけでもないし」

「そっかー」

「それに病気や怪我によっては必要とされる機能も異なるんだ」

「ふむう」


 フィオは真面目な顔で考えてくれている。

 大けがした冒険者が運び込まれたら、傷口を洗う場所が必要になるかも知れない。


「洗面台を低くして、大きめに作っておくか」


 足を怪我したときに、傷口を洗うには低い方が色々と楽そうだ。


「後回しにしてもいいんだが……。いつ怪我人病人が出るかわからないし、そのときになって作るのでは遅いからな」

「うん!」

「さて、次はヒッポリアスの家の洗面台だが……」

「ひっぽのいえ!」

「まあ、それは最後にしよう」


 背の低いフィオでも使いやすい高さを探ってから作った方がいいだろう。


 俺は冒険者たちの宿舎へと向かう。

 一応その宿舎を使っている冒険者の一人に報告してから洗面台の作成に入る。


「四本の柱のうえにシンクという形でいいか」


 実際に配備する場所を見て、大まかな形を決める。

 高さ〇・八メトル。横幅と奥行き〇・五メトル。シンクの深さは〇・二メトルぐらいでよいだろう。

 構造が単純なので、製作スキルで作り出すこと自体は難しくない。


 難しいのは、金属の配合だ。

 鉄をそのまま使うのが最も楽なのは間違いないが、鉄は水に弱い。

 すぐに錆びてしまうだろう。


 俺は、フィオたちと一緒に一度宿舎から出ると、


「えーっと……確か」

「ふむふむ?」

 魔法の鞄から金属のインゴットを取りだしていく。

 使うのは、主成分の鉄と、錆対策として加えるクロムとニッケルである。


「まぜるの?」

「そうだよ、この金属を混ぜると錆びにくくなるんだ」

「すごい!」

「本当はものすごく高温にしたり、いろいろな手法で合金にするんだけど」


 製作スキルを使えば合金を作ることも可能なのだ。


 配合比率は、とある工業都市の錬金術師と職人が長年かけて編み出したらしい。

 門外不出の技術だが、俺は作られた合金の加工品を鑑定して理解したのだ。


 とても便利なので、その知識を使わせてもらってはいる。

 だが、錬金術師と職人の商売を邪魔を必要以上にしたくないので、人には教えないことにしているのだ。


「まあ、見ててくれ」


 そして、俺は大量の鉄、クロム、ニッケルのインゴットを並べて、一気に合金へと変化させた。

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