96 子供たち

 俺は木材に丁寧に鑑定スキルをかけて特性を把握すると、一気に製作スキルを発動させる。

 上部が空いた、〇・八メトルの立方体の木箱を作り出す。


「次は蓋だ」


 まず、蓋の部分を製作する。

 イジェはあまり力が強いわけではない。

 だからあまり重くならないようにしなければなるまい。


 蓋と箱を繋げる蝶番には金属を使う。

 この前、金属採集を済ませておいて良かった。

 貴重だった金属を気軽に使えるようになったのは、非常に助かる。


「よし、ひとまず完成だ。イジェ、開けたり閉じたりしてみてくれ」

「ウン! ……スゴク、アケヤスイし、シメヤスイ」

「それならよかった」


 自分でも開閉させてみる。

 不具合はなさそうだ。


「こんなもんかな」


 そして、箱の中に魔法の鞄をセットする。


 もう一度、イジェに使い心地を確かめてもらう。


「ウン! トリダシヤスイよ! アリガト」

「それならよかった。もし、使っているうちに使いにくいところに気付いたらすぐに教えてくれ」

「ワカッタ!」

「ふむふむぅ!」


 フィオも興味があるようで蓋をパカパカさせていた。


「フィオ、ここに調味料とか食料をいれるんだ」

「ごはん!」

「そうだな」


 そして、俺は調味料の樽を魔法の鞄へと入れていく。


「ついでに、採集した山菜とヒッポリアスからもらった肉や魚も入れておこう」


 俺の魔法の鞄から箱の中の魔法の鞄へと移動させていく。


「きゅお?」

 それをみていたヒッポリアスが首をかしげる。


「大丈夫だぞ。ヒッポリアスたちのおやつとご飯はちゃんと入っているからな」

『ひっぽりあすは、おやつなくてもだいじょうぶ!』

「そうか」


 俺はケリーに抱かれたままのヒッポリアスの頭を撫でた。

 すると、尻尾がぱたぱたぱたと勢いよく揺れる。



 その後、イジェはヴィクトルやケリーと一緒に農地にする場所を見に行くことになった。

 イジェの村は農村だったのだ。

 だから、イジェもこの地での農業に詳しいらしい。

 それに、イジェは農具や種も持ってきてくれている。


 新大陸での食事事情を大きく改善させたイジェだが、今度は農業基盤を作るのに、活躍してくれそうだ。


「俺も負けるわけにはいくまい」

『いのししつかまえる?』


 子魔狼たちやシロと一緒に地面を駆け回っていたヒッポリアスが尋ねてきた。


「それもいいけど、とりあえず金属を手に入れたから出来ることをやっておきたいな」

『そっかー』

「夏の間に、冬が来る前にやっておくべきことから順にやっておかないと、後で大変だからな」

『てつだう?』

『くろも! くろも!』「ぁぅ」『てつだう』


 クロが手伝うと騒ぎ出すと、ロロとルルも手伝いたいのか、お座りしてこちらを見る。

 確実にクロは手伝うことと遊びの区別が付いていなさそうだ。


「うーん。今のところは大丈夫だ。ありがとうな」

「きゅお」

「わう!」「ぴぃ」「くーん」

「あ、そうだ。ヒッポリアスはシロと一緒に子魔狼たちのことを見ておいてくれ」

『わかった!』

「わう」


 シロも任せてくれと言っている。心強い限りだ。


「拠点の中からは出ないようにな」

『わかった!』

「わふ」


 ヒッポリアスたちの頭を撫でてから、俺は作業に入る。

 ちなみにピイは俺の肩の上で、プルプルしていた。

 恐らく眠っているのだろう。

 多少、重いが振動で肩がほぐれるので気持ちが良いのでそのままにしておく。


「まずは……水道の整備だな」

「すいど!」


 フィオが興味があるのか。俺にくっついてくる。

 フィオは子供なので、基本的に仕事は与えないのだ。

 やりたい仕事だけやればいい。


「フィオ、好きに遊んでいていいんだぞ」

「ておのみるのたのしい!」

「それならいいんだが……」


 俺達の後ろの方ではヒッポリアスとシロと子魔狼たちが遊んでいた。

 子供は遊んでいるべきなのだ。


 魔白狼であるシロは仕事を与えないと落ち着かないようなので仕事を与えてはいる。

 ヒッポリアスも手伝いたそうだったので、子魔狼たちを見といてと言ったのだ。

 とはいえ、ヒッポリアスは適当に遊んで楽しんでくれるので、その点は安心である。


「イジェも子供なのだし、遊んでいていいんだがなぁ」

「いじぇ、りょうりがしゅみ! いてた」

「そうなのか。ふむ」


 子供でも仕事をしたいならば、仕事をさせてもいいのかもしれない。

 俺自身、冒険者の荷物持ちを始めたのは十歳の頃だ。

 俺が働いたのは、両親が死んで働かなければ生きていけなかったからだ。


「……あまり辛くない仕事の環境を整えればいいか」


 俺の時は本当に辛かった。

 自分の体重より重たい荷物を持たされ、大人の足に必死に付いていくのだ。

 おとりにされたことも一度や二度ではないし、お腹いっぱい食べられたことなどなかった。

 寝ずの番は当たり前だった。


「子供は気楽にお腹いっぱいご飯を食べて、好きに遊ぶべきなんだよ」

「そかー」

「フィオもシロも、クロ、ロロ、ルルも、そしてイジェも子供なのに苦労しすぎだ」

「でも、ふぃお、いまたのしよ?」

「楽しいなら良かったよ」

「ごはん、うまい!」


 そういって、フィオは尻尾を振る。


「それなら、本当に良かったよ」

「うん!」


 そんなことを話している後ろでは、シロにヒッポリアスと子魔狼たちが楽しそうにじゃれついていた。

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