95 調味料の保管場所

 イジェは、魔熊モドキに潰された村から調味料の入った樽を持ってきてくれている。

 数ヶ月放置された村にあったのに、痛んでいないということは正しく保管すれば長期間持つのだろう。


「確かにそれは大切だな。保管に適しているのはどういう環境なんだ?」

「ヒンヤリして、クライところ」


 恐らくイジェの村でもそういう場所に保管されていたから、無事だったのだろう。


「ふむ。そういう場所をつくること自体は難しくないな」

「ホント?」

「ああ、地下室を作れば、日の当たらないヒンヤリとした部屋になるだろうし」


 もし温度が上がりすぎるようなら、水の配管を壁の近くを走らせればいい。

 上水と下水を整備したときは金属が足りなかったので、管を自由に配置させることは難しかった。

 だが、この前ヒッポリアスにも手伝ってもらって、金属採集を行なった。

 だから今は金属にも余裕があるのだ。


「チカシツ!」


 イジェも喜んでくれる。

 だが、食堂の方からヴィクトルの声がした。


「えっと。テオさん、イジェさん。調味料の保管について考えているのですね?」


 病み上がりのヴィクトルは後片付けを免除されている。

 だからヴィクトルは食堂にいたのだ。

 食堂で冒険者たちと今日の活動について話し合いながら、俺たちの話も聞いていたらしい。


「聞いてたのか、ヴィクトル」

「盗み聞きしたみたいですみません」

「いや、それはいい。聞かれてまずいことでもないしな」

「ありがとうございます」

「それにしても、そちらも大事な話していただろうに、良く会話内容把握出来たな」

「たまたまですよ」


 そんなことを、調理場と食堂に別れて話している間に、後片付けが終わる。

 俺とケリー、イジェとフィオ、シロ、それにヒッポリアスと子魔狼たちは食堂へと移動した。


「それで、ヴィクトル。調味料の保管場所について何かいい案があるのか?」

「いい案というほどのことではありません。以前からギルドの魔法の鞄に食料品を保管していたでしょう?」

「そういえば、そうだったな」


 いま調査団が持っている魔法の鞄は、俺の私物とヴィクトルがギルドから借りてきた物の二つだ。

 俺の私物の方は俺が基本的に持ち歩いて、素材やら食料品やら色々便利に使っている。

 ギルドの魔法の鞄には、ヒッポリアスが取ってきてくれた魔猪の肉などを入れてある。


「ギルドの魔法の鞄には食料品を入れていますが、まだまだ余裕がありますし、調味料も保管すれば良いと思いますよ」

「なるほど」

「調理場に常置すれば、便利かと」

「確かにそれは便利だが……ヴィクトルは使わないのか?」

「ギルドに借りた魔法の鞄の最大の目的は、航海を成功させるためですからね」


 つまり、ギルドに借りた魔法の鞄は役目を既に果たしたと言うことなのだろう。


「テオさんの魔法の鞄は採集物や製作スキルに使う素材などを入れるのでこれからも使うでしょうが、こちらは食料庫にした方が有効活用できるでしょう」

「ふむ。そう言われたらそうかもな」


 魔法の鞄は、大容量なだけでなく状態保存の魔法までかかっている。

 食料や調味料の保管には最適だ。


「イジェはそれでいいかい?」

「イイノ?」

「もちろんですよ、イジェさん。自由におつかいください」

「アリガト」


 話がまとまったので、ヴィクトルから魔法の鞄を受け取って、俺は調理場へと戻る。


 調理場に、魔法の鞄を入れるために蓋付きの木箱を作るためだ。

 構造は簡単だし、大きさもさほど大きくない。

 全く難しくないのですぐ作れるだろう。


「イジェ。この魔法の鞄が入るなら、大きさはどのくらいでもいいんだが、どのくらいの大きさが使いやすい?」

「コノグライカナ」


 イジェは〇・八メトルあたりの高さを指さした。



「ふむふむ。蓋を付ける予定なんだが、どちら側に開くと使いやすい?」

「ウーン。ウエかな」


 イジェの身長は低い。一・二メトルぐらいだ。

 高さ〇・八メトルならば、上に蓋が付いていても、あまりかがまずに中身を取り出せる。


「上か、わかった」

「ウエのホウが、コドモタチもイタズラしにくいし」

「なるほど、それは大事だな」


 俺はチラリとヒッポリアスと子魔狼たちを見る。

 いたずら盛りの子魔狼たちが開けやすい位置に蓋があれば、勝手にあけて魔法の鞄をかみかみしかねない。

 ヒッポリアスは、……多分そう言うことはしないが、最近幼い感じがするので万一がある。


「きゅお?」

「わーうわうわぅ」「…………」「あぅ、ぴー」


 ヒッポリアスはこっちを見て首をかしげている。

 いつの間にか、ヒッポリアスを抱っこしているのがフィオからケリーに変わっていた。


 そして子魔狼たちは、シロにじゃれついて一生懸命遊んでいる。

 シロの尻尾を甘噛みしたり、飛びついたり、やりたい放題だ。

 そしてシロは弟妹たちのされるがままになっている。

 子魔狼たちは楽しくて仕方がないといった感じだ。


「たしかに……イタズラ防止は大事かも知れないな」


 子魔狼たちもとてもよい子たちだが、まだ赤ちゃん。

 楽しくなって、テンションが上がれば、やらかす可能性は高い。


 〇・八メトルの蓋を自力で開けられるぐらい成長する頃には、きっと落ち着いているにちがいない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る