93 製作と朝ご飯

 俺は考えながら、机の上に皿を並べる。

 そうしてからヒッポリアスと子魔狼たちのご飯を入れていった。


「きゅお!」

「ぴーぴー」「わふ」『おなかへった』


 ヒッポリアスと子魔狼たちは机に前足をのっけて、食べたいとアピールしてきた。


 現状、ヒッポリアスと子魔狼たちは椅子の上に座っている。

 椅子は人が一人座るのにちょうどいい大きさだ。


 ヒッポリアスと子魔狼たちは小さいが、椅子の上に皿を置くと狭すぎる。


 だからといって、皿を机の上に置くと、小さいので食べにくそうだ。

 体勢も辛そうだし、よくわからないが、消化とかにもわるいのではなかろうか。


 それを防ぐためには机の上にヒッポリアスと子魔狼たちを乗せるのが早いのかもしれない。

 とはいえ、机の上に乗せて食べさせるのはしつけに良くない気がする。



「そうだなぁ。ヒッポリアス。クロ、ロロ、ルル。少し待ってくれ」

『わかった』『はやくはやく』「あう」『まつ』


 クロだけは少し甘えた声で早く食べたいと「ぴー」と鳴いた。

 だが、クロも含めて、みんな待ってくれるらしい。


「みんなえらいぞ」


 俺はヒッポリアスと子魔狼たちを優しく撫でる。


 そうしてから、製作スキルで椅子の上に載せる台を作ることにした。

 材料の木材は魔法の鞄マジックバッグに入れてある予備の木材を使った。


 台は小さくて、構造は極めて単純。

 作ろうと思えば一瞬で作れるのだ。


 鑑定スキルで木材を鑑定してから、製作スキルで一気に作る。


「これでよしっと」


 十秒ほどで、ヒッポリアスと子魔狼三頭、計四つの台を作って椅子の上に載せる。

 その台の上に、子魔狼たちを載せていく。


 ヒッポリアスと子魔狼たちは前足を机の上に載せる。

 そして、はち切れんばかりの勢いで尻尾を振り始めた。


 前足ぐらい載せるのはまあいいだろう。

 俺たちも子魔狼たちにとっての前足にあたる両腕は机の上に載せるのだから。


「食べていいよ」

「がふがふがふ」『おいしおいし』「ぴぃ」『うまい』


 子魔狼たちのご飯は俺がすりつぶしたお肉。

 そしてヒッポリアスのご飯は、焼いた魔猪の内臓である。


「いっぱい食べなさい。ピイはなにが食べたい?」

『もうたべた』

「む?」

『ねてるておどーるをぺろぺろした。おなかいっぱい』

「そ、そうか」


 道理で顔がすべすべしていると思ったはずだ。

 顔などの老廃物などを綺麗に食べてくれているらしい。

 ピイと暮らすようになってから、肌が若返った気がしなくもない。


 一生懸命朝ご飯を食べるヒッポリアスと子魔狼たちを、地質学者や冒険者が優しい目で見つめていた。

「可愛いな。本当に」

「ああ、そうだな」


 ヒッポリアスと子魔狼は本当に癒やされる。

 あまりにかわいいので、きっと食中毒にも効くに違いない。


 そんなことを考えていると、イジェたちが朝ご飯を持って食堂にやってきた。

 どうやら、朝食が完成したらしかった。


 手伝おうとするヴィクトルを止めて、俺は配膳の手伝いをする。

 俺が配膳の手伝いをしている間、ヒッポリアスと子魔狼たちは食べるのをやめてこちらをじっと見ていた。


 配膳を終えて、椅子に座りながら、俺はヒッポリアスたちに尋ねる。


「どうした? お腹いっぱいなのか?」

『たべるとこみてて』

「ぁぅ」「……」「くぅーん」

「わかったよ。ちゃんと見ているからな」


 俺が見ているのを確認して、ヒッポリアスと子魔狼たちはご飯を再び食べ始める。


「きゅむきょむ」

『うまい』「ゎぅゎぅ」『おいしおいし』


 一生懸命食べているヒッポリアスと子魔狼たちはとても可愛らしい。

 手伝いを終えて、近くに座ったフィオもヒッポリアスと子魔狼を撫でる。

 フィオと一緒に行動していたシロも椅子に座って、子魔狼とヒッポリアスを舐めていく。


 どうやら、ヒッポリアスと子魔狼たちは食べているところを見ていて欲しいようだ。

 よくわからないが、甘えの一種なのだろう。


 それから、俺はイジェやフィオ、シロ、それにケリーや冒険者達と一緒に朝ご飯を食べた。


 冒険者たちは、イジェが中心となって作った料理をゆっくり食べている。

「……いやぁ……うまいな」

「昨日の夜ご飯も、絶品だったが……本当にうまい」


 食材はこれまでとほぼ同じ。

 山菜と魔猪の肉を炒めたものだ。

 美味しいのはイジェの村から運んできた調味料と、下ごしらえのおかげだろう。


「へへへ」

 皆に褒められてイジェは照れていた。


「私たち向けの食事も本当に美味しいですよ、イジェさん、ありがとうございます」


 ヴィクトルも丁寧にお礼を言う。


 今朝もヴィクトルや地質学者などの食中毒組は病人食だ。

 山菜と肉を粥状に軟らかく煮たものだ。

 消化にもよさそうだし、食中毒で胃腸の弱ったヴィクトルたちには最適だ。


「イジェさん、ありがとうな! おかげで元気になるよ!」

「へへへ。ソンナ、タイシタコトは」

「いやいや、本当に助かるよ!」


 イジェは、昨日仲間になったばかりだが、完全に仲間として受け入れられたようだった。

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