92 平和な朝

 イジェが仲間になった次の日。

 俺はいつものようにヒッポリアスと子魔狼、ピィに起こされた。

 小さくなったヒッポリアスと子魔狼のクロ、ロロ、ルルは俺の顔をベロベロ舐めてくるのだ。

 そして、ヒッポリアスに影響されたのか、ピィは俺の頭をムニムニしてくる。


 朝になり、目を覚ましたヒッポリアスたちは、

「起きた! あそぼう! お腹が空いた! そうだ! テオの顔を舐めよう!」

 と考えるようだ。


 そして、ピイもそれを見て、楽しそうだからムニムニするのだろう。


「おはよう。ヒッポリアス。クロ、ロロ、ルル、ピイ」

「きゅっきゅ」「ぴぃ」「ぁぅ」「ふんふん」「ぴぃ」

「さてさて、朝ご飯でも食べるか」


 俺が起きると、近くで眠っていたフィオとシロも目を覚ます。

「ごはん!」

「ゎーう」

 フィオとシロは大きく伸びをしていた。


「あれ? イジェは?」


 フィオやシロ、クロたちと一緒に眠っていたイジェは部屋の中にいなかった。


「わかない!」「ぁーーぅ」

 フィオはわからないと言っているが、シロはイジェは先に起きたと言っている。


「そっか。朝ご飯の準備をしてくれているのかな。手伝いに行かないと」

『ひっぽりあすもてつだう!』

「うーむ。あまり手伝うことはないかもしれないぞ」


 意欲はあっても、ヒッポリアスが朝食の準備を手伝うのは難しかろう。


「ぁぅぁぅ」『ごはん』「くーん」「ぴっぴぃ」

 ロロ以外の子魔狼たちとピイも手伝う気満々らしい。

 だが、ヒッポリアス以上に子魔狼たちとピイが手伝うのは難しいだろう。


「そうか。うむ。やる気があるのは良いことだぞ」

 

 そして、俺はヒッポリアスとフィオ、シロ、子魔狼とピイと一緒に家の外に出た。

 すると、調理場兼食堂の方が賑やかだった。


「ソレはムス!」

「ほいほい!」

「ソレはニクとイッショにユデルのにツカウ」

「任せろ!」


 昨日と同じくイジェがテキパキと指示を出しているようだった。


 俺も調理場の方に顔を出す。


「手伝うことはあるか?」

「ダイジョウブ!」

「テオさんは、子供たちのご飯を作ってやってくれよ」

「それもそうだな」


 冒険者に言われて、俺は子魔狼たちのご飯を作ることにした。

 作るとはいっても、もう火を通した肉を潰して、食べやすくするだけだ。

 難しい作業ではない。


 俺は食堂に移動して、肉をすりつぶしていった。


「ヒーン」「ぴぃ」「ぁーぅ」「きゅーぉ」


 子魔狼たちは待ちきれない様子で、食べたい食べたいと鳴いている。

 なぜか、ヒッポリアスも子魔狼たちと一緒に鳴いていた。


 そして、フィオは調理場でイジェを手伝っていた。


「テオさん、おはようございます」

「む? おお、ヴィクトルおはよう。大丈夫なのか?」


 ヴィクトルは毒赤苺ポイズンレッドベリーを食べて食中毒になっていたのだ。


「おかげさまで、もう大丈夫ですよ。テオさんの解毒薬も効きましたし、イジェさんのご飯を食べてとても元気になりました」

「それならいいんだが……。しばらくゆっくりしていた方がいいんじゃないのか?」

「激しく動かなければ大丈夫ですよ」

「そうか。無理はしないようにな」

「もちろんです」

「力仕事はかわりにやるから、のんびり過ごしてくれ」


 病み上がりの間は、元気に見えても体力を消耗しているものだ。

 油断して無理をすると、別の病気になりかねない。


「ありがとうございます、無理はしませんよ」

「それならいいんだが、ヴィクトルは回復したとして、他の皆は?」


 毒赤苺を食べたのはヴィクトルだけではない。

 五名の冒険者と地質学者もヴィクトルと一緒に食べて、床に伏していたのだ。


「冒険者たちは、症状もなく、みな元気になりましたよ。ですが……」

「学者先生はまだか」

「はい。熱は下がったのですが、少しまだ症状が残っています」


 新大陸調査に名乗りを上げるぐらいだから、地質学者も体力がある方だろう。

 それでも、一流の冒険者たちと比べたら、体力で劣るのは当然だ。

 回復までもう少しかかっても仕方あるまい。


 そんなことを話している間に、病気だった冒険者と地質学者がやってくる。

 出歩けるぐらいには地質学者も回復したようだ。


「いいのか? 出歩いて。朝ご飯なら持って行くが……」

「ありがとう、大丈夫だよ。たまには外の空気を吸わないとな」

「無理はするなよ?」

「もちろんだ。朝ご飯を食べたら、また眠りに戻るよ」


 食中毒患者の中で、もっとも回復の遅い地質学者も昨日に比べたら見違えるほど元気になった。

 薬とイジェの病人食が効いたのだろう。


 そんなことを話している間に、子魔狼たちのご飯の準備ができる。


「子魔狼は……子供だから先に食べてもいいだろう」

「きゃうきゃう」『ごはん』「ぁぅぁぅ」「きゅお!」


 子魔狼たちに並んだヒッポリアスも食べたそうに鳴いていた。


「ふむ?」


 俺はヒッポリアスと子魔狼たちにどうやってご飯を食べさせるか考えた。

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