90 イジェとダニ

 イジェの差し出す皿にのった調味料を少しだけスプーンですくって舐める。


「ふむ。うまいな」

「テオさんと同意見だな。俺も好きな味だ」

「酒のつまみになりそうだ」


 冒険者たちからの評判も上々のようだ。


「これはどうやって作るんだ?」

「エット……」


 イジェが教えてくれるには、こちらも大豆を使うらしい。

 大豆を煮たり潰したりして、色々混ぜて発酵させるようだ。


「こっちも大豆なのか」

「ソウ。ダイズ、イイヤサイ」


 イジェたち一族は大豆をよく使うようだ。

 そういえば、イジェにもらった種子には大豆の種子もあった。


「ちなみにこの調味料の名前は?」

「ミィスオ」

「セウユもミィスオもおいしいから、助かるよ」


 俺が感謝を述べると、他の冒険者たちも次々にお礼の言葉を言う。


「エヘヘ」


 みんなに感謝されて、イジェはとても嬉しそうだった。


「イジェ、ゴハンを……」


 イジェはこのままご飯を作ってくれるつもりらしい。


 だが、そんなイジェの手を、ずっと大人しくしていたケリーが取った。

 ちなみにケリーはセウユやミィスオも舐めていたがずっと無言だったのだ。


 腕を掴まれたイジェは首をかしげる。


「ケリー?」

「イジェ。とりあえず風呂に行こう」

「フロ?」

「うむ。だいぶ汚れているからな。ダニがいないかチェックする必要もある」


 調理をするならば身ぎれいにすべきだ。そうケリーは考えたのだ。

 先日食中毒患者も出てしまったことだし、ケリーの指摘は非常に正しい。


 それに先日魔熊モドキから保護されたクロたちにはダニやノミが沢山ついていた。

 そしてイジェも魔熊モドキから逃げてきたばかり。

 ダニなどがついていてもおかしくはない。


「ワカッタ。イジェフロハイル」

「フィオとシロ、それにクロたちも連れて風呂に行くぞ」


 ケリーは、クロたちがイジェからダニを移されている可能性を考えたのだろう。


「テオ。フロイッテキテイイ?」

「もちろんだ。行っておいで」


 ケリーとイジェはヒッポリアスの家にクロたちを迎えに向かう。

 俺とヒッポリアスも一緒に戻る。


 ケリーは扉を開けるや否や大きな声で言う。


「フィオ、シロ、それにクロ、ロロ、ルル! 風呂に行くぞ!」

「わかた!」「わふぅ!」


 フィオとシロはクロたちを抱きかかえると駆け出した。

 フィオもシロも、そしてクロたちもお風呂が大好きなのだ


 そしてヒッポリアスの家には俺とヒッポリアスとピイが残った。


「さてさて、俺は今のうちに掃除でもするか」

「きゅお!」「……ぴぃ」


 ヒッポリアスの家は広いので掃除は大変だ。

 小さいヒッポリアスを床に置き、ピイを服の中に入れたまま拭き掃除を始める。

 すると、ぴょんとピイが服の中から飛び出した


「どうした? ピイ」

『だにがいた』

「ダニか。よく見えたな」

『ぴい、めがいい』

「すごいな。もしかしてイジェのダニとかも見えたか?」

『ねてなかったらみえた……とおもう』


 今日のピイはよく眠っていた。疲れていたのだろう。

 そのせいで、イジェとはほとんど触れあっていない。


「そうか。今度気がむいたら、クロたちの毛づくろいとかしてやってくれ」

『うん。さっきもした』


 服の内側に一緒に入れてた時、クロたちの毛づくろいもやってくれていたらしい。


「それは助かる。ありがとうな」

「ぴ~」


 ピイに手伝ってもらいながら掃除を進める。

 途中からはヒッポリアスも手伝ってくれるようになった。

 小さい身体のまま、雑巾がけをしてくれるのだ。


 時折ピイは素早く動く。


『のみ!』

「本当にピイは目がいいな。凄く助かるよ」

「ぴぃ~」


 俺がピイを褒めていると、ヒッポリアスが素早く動き始めた。

 そしてバシッと尻尾を床にたたきつける。


「きゅお~ぅ」


 ヒッポリアスはこちらを見て、どや顔をしている。


「もしかして、ダニを潰したのか?」

『つぶした。きゅお!』

「ヒッポリアスも凄いな」

「きゅっきゅお!」


 本当に尻尾でダニを潰したのかは分からない。

 そもそも、尻尾でダニを潰せるのだろうか。

 だが、ヒッポリアスが嬉しそうなので何でもいい。


 そんな感じで手分けして掃除を進めていった。


 フィオたちが戻ってくるまで、掃除をしようと思っていたのだが中々帰ってこない。

 おかげで、結構念入りに掃除することができた。


「ヒッポリアスもピイもありがとうな。きれいになったよ」

「きゅお~」「ぴぃ~」


 俺はヒッポリアスとピイを撫でる。


「それにしてもフィオたち遅いな。お風呂が気に入ったのか?」

「きゅお?」

「そうだな、俺たちは夜ご飯の準備でもしに行くか」

『ごはん!』「ぴぃ~」


 俺はヒッポリアスとピイを抱えると、食堂へと向かうことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る