87 ヴィクトルに紹介しよう
ヴィクトルは調査団のリーダーである。
拠点が出来てからは、実質的な村長のようなもの。
やはり最初に、イジェのことはヴィクトルに紹介すべきだろう。
俺たちが病舎に向かって歩いている最中、ヒッポリアスはずっと嬉しそうだった。
元気に尻尾を振って、俺の顔を舐めてくる。
「きゅお~」
「よしよし、ヒッポリアスはかわいいなぁ」
「きゅっきゅ!」
大きくて強いが、ヒッポリアスは赤ちゃんカバ。いや赤ちゃん竜。
甘えたいときは甘えるべきなのだ。
病舎の前に到着すると、俺はイジェに言う。
「ここのリーダーは病舎で寝ているんだ。先に紹介しておこう」
「ビョウシャ?」
「ああ。この前、毒のある木の実を食べてお腹を壊してな」
「……カワイソウ」
「薬が効いたから、もうほとんど元気になったよ」
「ソウナノカー」
俺がイジェを連れて、病舎の中に入ると真っ先にケリーが駆け付けてくる。
「その子は? その子は一体?」
「仲間になってくれた人族のイジェだ」
「イジェ、イウ。……ヨロシク」
「イジェっていうのかい? 私はケリーだ。よろしく頼む」
そういって、ケリーはイジェと握手した。
それから「耳とか触ってもいいかい?」とか尋ねながら触ろうとする。
俺はそんなケリーをイジェから引き離した。
「ケリー。落ち着け。まずヴィクトルたちに紹介しないといけないからな」
「おお、そうだな。すまない」
「それに、いきなりべたべた触ろうとするな。怯えさせかねないぞ」
「す、すまぬ。そうだな。気をつける」
ケリーは相変わらずだ。
そして俺は改めてヴィクトルたちの方へと向かう。
そのころには、ケリーが騒いだおかげで、皆がイジェに気づいていた。
ヴィクトル以外の食中毒で療養中の冒険者や、治癒術師も集まってきてくれている。
「話は聞こえていたと思うが、この子がイジェだ」
「イジェさん。歓迎しますよ。私はヴィクトルといいます」
ヴィクトルたちと、イジェは互いに自己紹介を済ませていく。
それが終わったのを確認して、俺はイジェの事情を説明しはじめる。
魔熊モドキに一族を滅ぼされたあと、捕まって捕虜になっていたことなどだ。
クロたちがお世話になっていたことも伝えておく。
「そうでしたか。それは大変でしたね」
「苦労したんだな……」
「クロたちの面倒を見てくれてありがとうな」
「ああ、歓迎するよ。仲間になってくれてありがとうな」
「ナカマシテクレテアリガト」
イジェはヴィクトルたちに仲間として認めてもらえた。
一安心である。
俺はイジェから貰った農具や種子、それに調味料がある事も伝えた。
それにもみんな喜んでくれた。
一通り報告が終わったので、次は相談だ。
「ところで、ヴィクトル。イジェの部屋なんだが……」
「そういえば、空き部屋はありませんでしたね」
今ある住居用建物は、冒険者用の宿舎五軒にヒッポリアスの家だ。
冒険者用の宿舎は一軒あたり個室四つである。
つまり、二十人分だ。
調査団の構成はヴィクトルと十五名のBランク冒険者に加えて三名の学者と俺。
つまりは、ちょうど二十人。空き部屋はない。
「だが、俺はヒッポリアスの家に住んでいるからな」
俺の部屋は使われていない。
だから、イジェが住むのに全く支障がない。
俺は、そのつもりで建物には余裕があると言ってイジェを誘ったのだ。
「俺は、俺が使っていない部屋に住んでもらうつもりだったんだが……」
「そうですね。どうせなら、ヒッポリアスさんの家に一緒に住むのはどうでしょう?」
ヴィクトルはイジェがクロたちと仲がいいと聞いたのでそう思ったのだろう。
だが、ケリーが
「私と同じ部屋に住むのもいいと思うがな!」
そんなことを言い始める。
「ケリーの部屋は一人用で狭いだろう」
「私は気にしない」
ケリーが気にしなくてもイジェが気にする。
「……イジェはどう思う?」
「ウーン。ワカンナイ。ナニかチガウノ?」
確かに違いを説明しなければわかるまい。
「実際に見てイジェに決めてもらおうか。それでいいか? ヴィクトル」
「はい。それでお願いします」
そのとき、ケリーが言う。
「ところでイジェ。一つ聞きたいのだが」
「ナニ?」
「……男と女。イジェはどっちなんだ?」
全員の視線がイジェに集まる。
イジェは二足歩行の犬のような姿。俺たちとはだいぶ外見が異なる。
それゆえ、正直なところ、俺たち、旧大陸の人族には性別がわからない。
だからといって、直接聞くのは失礼な気がして、誰も聞けなかったのだ。
イジェの回答に、息をのんで皆が注目する。
「きゅお」
俺に抱っこされたヒッポリアスも気になるようだ。
じっと、イジェを見ながら尻尾をぶんぶん振っていた。
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