86 拠点への帰還

 しばらく進むと、シロはヒッポリアスの背から降りて、自分の足で走りはじめる。

 狼だから走るのが好きなのだろう。

 狼の場合、日々の散歩もかなりの距離を走る必要がある。


 楽しそうに走るシロを見ながら、フィオが尋ねて来た。


「おいしいくさ、もうだいじょぶ?」


 今回の遠出の目的は、元々美味しい山菜集めだ。


「山菜もキノコも結構手に入ったからな。大丈夫だ」

「よかた」

「それどころか金属やら道具も手に入ったからな。そのうえ新しい仲間まで増えた」

「すごい!」

「大収穫だな」

「だいしゅかく!」

「わふぅ!」


 ヒッポリアスの隣を軽快に走っていたシロも嬉しそうに吠える。

 先ほど悲しそうに鳴いていたが、切り替えられたのかもしれない。

 いや、フィオたちの手前、元気にふるまえっているだけだろうか。


「シロも疲れたらいつでも言うんだぞ、一緒にヒッポリアスに乗せてもらおう」

『きゅお。のる?』

「わふわふぅ」


 どうやら、シロは自分の足で走りたいとのこと。

 おもいっきり身体を動かしたい気分なのかもしれない。


「そうか。シロ。好きなペースで走っていいよ」

『だいじょうぶ。しろがおもいっきり走ってもひっぽりあすちゃんとついてく』

「わふわふうぅぅ」


 シロは全力で走る。矢のように速い。

 その後ろをヒッポリアスが追う。速いのだがあまり揺れない。

 さすがはヒッポリアス、背の上に乗る俺たちのことを考えてくれているのだろう。


 シロは拠点まで休まずに走った。

 おかげで、あっというまに拠点に到着することができた。


 ヒッポリアスは、ヒッポリアスの家の前で止まった。


『ついた』

「お疲れ様。ありがとうな」


 俺たちがヒッポリアスの背から降りると、ヒッポリアスはすぐに小さくなった。

 そんなヒッポリアスとシロの前に水をお皿に入れて置く。


「がふがふがふがふ」「わふわふわふ」

 ヒッポリアスとシロは水を勢いよく飲む。

 かなり走ったので、喉が渇いたのだろう。


 俺とフィオがヒッポリアスとシロを撫でていると、クロたちが

「きゅーんきゅーん」「……くぅー」「ぁぅ」

 鳴いてもぞもぞ動きはじめた。


 クロたちは充分眠ったので、いまは遊びたいようだ。

 一方、ピイはまだ眠っていた。スライムの睡眠時間は長いらしい。


 俺はクロたちを服の内側から外に出す。

 そして、クロたちの前にも水を置いた。

 フィオとイジェにも水をコップに入れて手渡してから、俺も水を飲んだ。


「フィオとイジェも水でも飲むといい」

「ありあと!」「アリガト」


 全員で水を飲んで休憩する。

 水を飲み終わったヒッポリアスは後ろ足で立って、俺の足に飛びついてくる。


「きゅおっ。きゅおっ」

「どうした。ヒッポリアス。疲れたのか?」

『きゅお! つかれた!』


 そう言ってヒッポリアスは口を開けて、尻尾を振る。

 ヒッポリアスの力から考えて、このぐらいでは疲れたりはしないだろう。

 つまりヒッポリアスは甘えたいのだ。


「そっか、疲れちゃったか」

「きゅおー」


 俺はヒッポリアスを抱きかかえた。

 嬉しそうに俺の顔を舐めてくる。


「さっきまで、ヒッポリアスには背中に乗せてもらったからな」

 次は俺が抱っこしてあげる番である。


「きゅおー」

 ヒッポリアスも嬉しそうで何よりだ。


「フィオ、シロ。クロたちを頼む」

「わかた」「わふ!」

「これはクロ、ロロ、ルルのおやつだ。お腹が空いていそうならあげてくれ」

「わかた!」

「フィオとシロの分もあるぞ」

「やた!」「わふぅ!」


 フィオとシロは、クロたちを抱えるとヒッポリアスの家の中に入っていく。

 しばらく、クロたちは室内でゆっくり遊ぶのがいいだろう。


「さて、イジェ。みんなに紹介しよう」

「ワカッタ。オネガイ」


 俺はヒッポリアスを抱きかかえて、イジェとともにヴィクトルのいる病舎へと向かった。

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