84 魔石

 イジェは魔石をつんつんと指でつつきながら、首を傾げる。


「コレ、マセキ?」

「うん。魔獣などの体内にある石だな」


 魔石は貴金属の下、宝石類と一緒にまとめて置かれていた。

 魔石の数は数十個あった。

 恐らく魔熊モドキが倒した魔獣の魔石だろう。


 魔石は魔獣だけでなく、濃厚な魔力を持つものは体内に持っていることが多い。

 生物ではないアンデッドや魔神の類も落とす。

 魔熊モドキの体内にも魔石はあった。


「魔石は色々使えるから、回収しておこう」

「ワカッタ」

「だが、少し待ってくれ。一応鑑定スキルをかけておこう」

「ウン」


 俺が気になったのは、シロたちの家族の魔石があるかもしれないということだ。

 魔石は製作スキルの貴重な材料になる。

 だが、シロたちの家族の魔石は形見だ。ただの材料にするわけにはいかない。


「……ふむ」


 多種多様な魔石だ。

 魔猪のような草食動物系魔獣の魔石や、魔熊のような肉食動物系魔獣の魔石もある。


「見事な魔石があるな」


 その中でも特に綺麗で輝きの強い魔石がいくつかあった。

 そのうちの一つを俺は手に取って、鑑定スキルをかけてみる。


「……これは魔狼の魔石だな。恐らくシロたちの家族の魔石だろう」

「カゾク?」

「ああ、シロやクロたちの家族は魔熊モドキにやられてしまったんだ」

「……ウン」


 イジェの一族と同様に、シロの一族も魔熊モドキにやられている。


 魔石の数は八個。ちょうどシロたちの家族の成狼たちの数と同じ。

 ここに魔石があるということは、シロたちの家族はやはり全滅したのだ。


 ほぼ確実に全滅しただろうとは思っていた。

 だが、明らかな証拠品が出てしまうと、受け入れなければなるまい。


「シロとフィオにこの魔石を見せてもいいだろうか……」


 シロとフィオは、しっかりしているがまだ子供なのだ。

 親や兄姉など家族の魔石を見るのはつらくないだろうか。

 シロよりさらに幼いクロたちに見せるのは、さらに慎重になるべきだ。


「……ひとまず、大切に保管しておこう。シロたちには内緒だ」

「ワカッタ。ナイショ」


 普通の魔石をどんどん魔法の鞄に放り込む。

 そして、シロの家族の魔石は、傷がつかないよう綺麗な布に丁寧にくるんでおいた。

 魔石は非常に硬くて傷もつきにくいのだが念のためだ。


「……さて、これも魔法の鞄に入れてと」

「わふ」


 シロたちの家族の魔石を鞄にちょうど入れようとしたところで、声が聞こえた。


「……シロか。見に来てくれたのか」

「わぅ」


 時間がかかったので、大丈夫か様子を見に来てくれたのだろう。

 クロたちやフィオにはヒッポリアスがついているので安全だ。


「こっちの作業もちょうどおわったところだ。フィオたちのところに戻ろう」


 俺は自然な仕草でシロたちの家族の魔石を魔法の鞄に入れようとしたのだが、

「ワウ」

 シロに強めに吠えられてしまった。


「……この魔石に気づいていたか」

「わふ」


 シロには匂いなどでわかるらしい。

 気づかれたのなら、見せるしかない。


「シロ。これだ。確認してくれ」


 俺はシロの前に布に包まれた魔石を置いた。

 それをシロはクンクンと匂いを嗅いでいく。


「……ゎぅ、……わう、……ぅう。……ぅぅ、……ぁぅ」


 シロは匂いを嗅ぎながら、悲しそうに鳴く。

 家族の魔石だとシロにもわかったのだ。


「……シロ」


 なんと声をかけていいかわからない。しゃがんでただ優しく体を撫でた。


 すると、シロは

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉォぉ」

 大きな声で長い長い遠吠えをした。

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