83 魔熊モドキの巣 その2

 俺はイジェが手に持っている物を見る。

 それはとても綺麗でキラキラした短刀だった。

 キラキラしていたおかげで、魔熊モドキのコレクションに加わったのだろう。

 そのおかげで捨てられることがなかったと考えることも出来る。



「見事で立派な短刀だな」

「ウン。アリガト。イジェのトウサンカラモラッタノ」

「そうか、見つかって本当によかったな」


 大切な形見の短刀なのだ。

 嫌な思い出のある魔熊モドキの巣であろうと取りに行きたいという気持ちはわかる。


「鞘はないのか?」

「……ナイ。アクマがステタ」

「……そうか」


 やはり魔熊モドキはキラキラしていない物には興味がないようだ。


「イジェ。鞘を作ろうか?」

「ウレシイケド、……ツクレルの?」

「ああ、さほど難しくない。寸法を測るから、その短刀を貸してくれ」

「ワカッタ」


 俺は短刀に鑑定スキルをかける。

 刀身の長さや幅など、ハバキの大きさなどを正確に把握した。

 そして、俺は魔法の鞄から木材を取り出し、製作スキルで鞘を作った。


「テ、テオ、スゴイ」

「俺は製作スキル持ちなんだ」

「フェー」


 感心して変な声を出しているイジェに鞘と短刀の両方を渡す。


「イジェ。使い心地をたしかめてくれ」

「ウン」


 イジェは鞘に短刀を納めたり抜いたりする。

 そして傾けたりひっくり返したりして、自重で抜けないかとかをチェックする。


「テオ、アリガト! スゴクイイ!」

「それならよかった」

「ウン、アリガト! テオスゴイ!」


 イジェは尻尾をぶんぶん振って喜んでくれた。


「改めて思ったのだが、イジェの短刀は凄く出来がいいな」

「テオ、ナイフクワシイの?」


 短刀の大きさを鑑定スキルで測った時、頭に入ってきたのは寸法だけではない。

 寸法に付随して、刀身の素材や製法なども頭に入ってきたのだ。


「俺は製作スキルだけでなく、鑑定スキルも持っているから、わかるんだ」

「テオ、スゴイ!」


 イジェの短刀の素材は、オリハルコンとミスリルの合金だった。

 素材となっている金属自体、非常に貴重なものだ。

 そして、とても高い加工技術を求められる。

 だが、イジェの村を見る限り、高い金属加工技術があるようには思えなかった。


「イジェ。その短刀だが、先祖代々伝わっている物なのか?」

「ソウダとオモウ。……タブン」


 イジェ自身あまり確信はないらしい。

 つまり、短刀を受け継いだ時、父から由来を教えてもらわなかったということだ。


「……イジェたちって文字は使うのか?」

「モジ?」

「言葉を記録する技術なんだが……」

「ムムゥ?」


 イジェは首をかしげている。

 文字とは何か、文字を知らない人に説明するのは難しい。

 俺は地面に指で「テオドール」と自分の名前を書いてみせる。


「エ?」

「絵と言うより記号、いや、そう絵みたいなものだ」

「ソッカー」


 文字を知らない者に、記号と言っても伝わるまい。

 絵のようなものと言った方が伝わるだろう。


「文字ってのは、決められた絵で言葉を伝えたり記録するための物なんだ」

「フムゥ?」

「イジェたちにはこういうのは無いのか?」

「ナイ」

「そうか」


 文字がないと昔のことを記録するのが難しくなる。

 イジェたちがどういう経緯でここにいるのか。

 オリハルコンとミスリル製の短剣はいつから伝わっているのか。

 その理由や経緯などを、イジェが知らなくても仕方のないことだ。


 イジェに聞いても歴史はわからないだろう。


「謎が深まったな」

「ソナノ?」

「そうだな。さて、他にも何か必要な物があれば持って行くか」

「ウン」

「イジェは何か欲しいものはないのか?」

「ナベとかホシイケド……オモタイカラ」

「魔法の鞄があるから、重さは気にしなくていいぞ」

「マホノカバン?」

「魔法で中身を大きくした鞄なんだ」


 そういって、俺は魔法の鞄に大きな農具などを適当に突っ込む。

 二メトルちかい長い柄が、〇・五メトルほどの鞄に入れてみる。

 農具がすっと入るのを見てイジェは目を見開いた。


「スゴイ!」


 イジェは嬉しそうに鍋などを集める。

 鍋もきれいに磨かれたキラキラしたものばかりだ。


 俺も一緒に魔法の鞄に色々詰め込みながらイジェに尋ねてみる。


「……イジェ。これからどうするんだ?」

「……ワカンナイ。ムラにモドルカナ」


 イジェの村には誰もいない。

 廃墟と化した建物と、雑草が生い茂る広場と道。荒廃した畑しかない。

 そこに一人で暮らすのは寂しすぎる。


「もしよかったら、俺たちと一緒に暮らさないか?」

「…………イイノ?」

「いいぞ。住処には余裕があるしな」

「ミンナのゴハンヘラナイ?」

「それも気にしなくていい。ヒッポリアスは狩りがうまいし、食料は不足していない」

「ホントにメイワクナイの?」

「ああ、迷惑ではないよ」

「アリガト。イッショにイク」

「よかった。みんなも喜ぶよ」


 イジェが新たな仲間になってくれた。とても喜ばしいことだ。


「よしっ。ヒッポリアスたちも待っているし、手早く使えそうなものを回収しよう」

「ワカッタ」


 俺とイジェは手早く使えそうなものを回収していく。

 鍋や農具などの道具を中心に集め終わった後、金銀財宝が残された。


「コレはドウスルノ?」

「金銀銅や白金か。俺たちが住んでた大陸ではめちゃくちゃ高価なんだが……」

「ソウナンダ。キレイダモンネ」


 新大陸では売ることは出来ないので貴金属としての価値はない。


「金銀の類も合金を作るときに役立つからな。一応回収しておこう」

「ワカッタ」


 俺とイジェは手分けして貴金属を魔法の鞄に放り込んでいく。

 貴金属をあらかた集めた終わった時、俺は別のものに気が付いた。


「おや、魔石があるな」


 魔石もキラキラしているので、魔熊モドキは集めていたに違いない。

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