80 キノコを食べよう

 俺は嬉しそうにしているフィオの頭を撫でる。


「そうだな、塩を振ると、一気にうまくなるよな」

「きゅお!」

「ヒッポリアスも塩を振って欲しいのか?」

「きゅ~~お」


 俺が塩を振ると、ヒッポリアスもパクパク食べる。


『うまい!』

「それならよかった。シロはどうする?」

「わふ」

「そうか、じゃあ少しかけような」


 野生の狼の主食は生肉だ。当然だが狼は血抜きをしない。

 それゆえ生肉には血が大量に含まれている。そして血液の塩分濃度は中々高い。

 だから、塩分の摂りすぎは良くないが、適度な塩分は狼にも必要なのだ。


「わむわむ」


 俺が塩を振ると、シロは美味しそうに食べる。


「シロは、塩を振ったのと、そのままどっちが好みなんだ?」

「わふ~う」


 どうやら、シロはどっちも同じくらい好きらしい。


 俺もキノコを食べてみた。まずは塩をかけずに食べる。


「意外とうまいな」

「ぴぃー」「……わふぅ」「くぅー」


 クロたちが食べたいとアピールしてくる。

 だから、俺の分のキノコを少しちぎって、クロたちの口に入れていった。


「わむわむわむ」


 クロたちも嬉しそうに尻尾を振っている。クロたちの口にも合ったのだろう。

 それから俺はキノコに塩を振る。


「ふむ。塩を振るとさらにうまくなるな」

『たべる!』『るるも』「わふわふ!」


 クロたちも塩付がたべたいというので食べさせる。


「クロ、ルル、ロロは小さいから、少しずつだからな」

「わむわむ!」


 そんなことをしていると、キノコを食べ終わったイジェがおずおずと言う。


「……アノ」

「どうした? イジェ。おかわりたべるか?」


 イジェは魔熊モドキの巣から鎖をちぎって何とか逃げてきたばかり。

 食事も満足に取れていなかったはずだ。空腹に違いない。


「オカワリシテイイノ?」

「もちろんだ」


 そう言って、俺はイジェのお皿にキノコを乗せる。

 イジェは塩も振らずにパクパク食べる。

 よほどお腹が空いているのだろう。


「もっと食べたいなら追加で焼こう」


 俺はもっと食べたいとイジェは言うと思ったのだが、

「ツギもコノママヤクの?」

 イジェが首をかしげながら言う。


「そうだが、塩とか使ってもいいぞ」

「シオもダケド……。キノコ、イジェならモットオイシクデキル」


 そう言ったイジェは自信がありそうだ。

 美味しくできると聞いたフィオは、キノコを食べながらイジェを真剣な目で見つめる。

 ヒッポリアスも興味津々と言った様子だ。


「イジェ。おいしくできると言うのは?」

「リョウリスル。モットウマクナル」

「ほう。イジェはこのキノコのおいしい調理法を知っているのか」

「シッテル」

「そういうことなら、もしよかったら調理してくれないか?」

「ワカッタ。デモ、ドウグがナイ」

「調理器具か。何が必要なんだ?」


 イジェが必要な調理器具を教えてくれる。どれも極々当たり前の調理器具だ。

 そのほとんどは魔法の鞄に入っている。

 俺が今持っていない調理器具も拠点に戻ればあるものばかりだ。


「アト……。チョウミリョウがホシイ」

「塩以外のってことだよな?」

「ソウ」


 確かに調味料を使えば、味は格段に良くなる。


「拠点に戻れば色々と調味料はあるのだが、いま手持ちにあるのは塩と胡椒ぐらいだな」

「ウーン。イジェのムラにイケバアル」

「イジェの村か。今から行こうか?」

「……イク」


 少しためらった後、イジェはうなずいた。

 イジェの村は魔熊モドキに滅ぼされた。戻るのが少し怖いのだろう。


「なんだったら、場所さえ教えてくれれば俺だけで取りに行ってくるが……」

「……ダイジョウブ」

「無理はするなよ」

「アリガト。ホントにダイジョブ」

「やっぱり嫌ってなったらいつでも言ってくれ」

「ワカッタ」


 蒸し焼きし終えたキノコを全部食べてから、イジェの村に向かうことになった。


「イジェ。キノコ以外にも肉とかもあるが、食べないか?」

「イイノ?」

「もちろんだ」

「アリガト」


 お腹が空いているはずのイジェの皿に、鞄から肉を取り出して乗せた。

 焼きたての肉を魔法の鞄に入れておいたものだ。

 状態保存の効果もあるので、肉は焼きたての状態だ。


「好きなだけ食べていいぞ」

「……アリガトアリガト」


 そういって、イジェはパクパクと肉を食べた。

 ついでに俺はクロたちにも肉を細かく切って、食べさせる。

 クロたちは、まだまだ赤ちゃんなのでこまめにご飯を上げた方がいいのだ。


 その間に、俺はキノコの採集を済ませておく。

 毒がないだけでなく、おいしいと判明したからには、沢山採っておくべきだ。

 フィオにも手伝ってもらって、それなりの量を採集できた。


 採集が終わったころには、イジェやクロたちも肉を食べ終わっている。

 そして、俺たちはイジェの村に向かって移動を開始した。

 ヒッポリアスはわざわざ大きくなってから、ついてきてくれる。


「イジェたちの村は遠いのか?」

「トオクナイ」


 その言葉の通り、十分ほど歩くと、イジェの村が見えて来た。

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