78 新大陸二人目

 俺が何者かの気配に気がついたということは、当然シロもヒッポリアスも気づいている。

 フィオとピイはまだ気づいていなさそうだ。

 俺は気配にまだ気づいていないふりをすることにした。


「……ということで、この大きな葉っぱは色々使えるからもう少し集めておこうか」

「ふぃおも!」「ワウ」


 フィオは無邪気で元気な返事だが、シロの返事からは少し緊張が伝わって来た。

 俺が気づいていないふりをしていることに、シロは気づいて合わせてくれているのだ。

 そしてヒッポリアスは、わざとらしくあくびをしていた。

 これは気づいていない演技をしてくれているのだろう。

 だが、尻尾が不自然にピンと上向きに伸びている。明らかに変だ。


「フィオもシロもありがとうな。助かるよ」

「わふぅ!」「…………」


 葉っぱを集めながら、蒸し焼きにの完成を待つ。

 すると、近づいて来た気配は俺たちの後方の木陰で止まる。

 どうやらこちらの様子をうかがっているらしい。


「キノコの蒸し焼きはもう少しかかりそうだな」

「わふぅ!」

「……」

「わう?」


 シロが大人しいので、フィオは不審に思ったようだ。


「ふむふむ」

「…………」

「わふ!」


 近くに誰かがいるとシロから説明されたらしくフィオはきょろきょろし始めた。

 フィオの動きが怪しすぎる。

 この状況になったら、こちらが気づいていることを相手にも悟られてしまうだろう。

 一応テイムスキルも発動しつつ、語り掛けることにした。


「……そこにいる奴。何か用か?」

「――ッ!」

「安心してくれ。危害は加えるつもりはない。だから、姿を見せてくれ」

「ホ、ホントウ?」


 テイムスキルは通じていない。それでも、はっきりと言葉が返ってきた。

 俺たちとは発音やイントネーションは異なるとはいえ、言葉はしっかりと通じている。


 そして、言葉が通じるということは、言語神の加護の下にいるということ。

 つまり、人族と言うことである。


「ああ。本当だ。何か問題があるなら話し合おう。理不尽なことは言わないつもりだ」

「……ワカッタ。ホントウにランボウはシナイ?」

「もちろんだ。約束しよう」


 俺がそう言うと、物陰からその人族が出て来た。


「……ふむ」


 その人族は初めて見る人種だった。

 服は粗末だがちゃんとしている。貫頭衣という奴だ。


 身長は子供ぐらい。一・二メトルほどで獣耳と尻尾が生えている。

 そして顔は犬そのものだし、服で隠れていない手足や首までモフモフだ。

 一目見た印象は、二足歩行の犬である。


 太めの尻尾はしっかりと股の間に挟まっている。

 おそらく怯えているのだろう。


「ひ~、ひーん」「わふわふ」「ふぃ~」


 その人物が近づいて来ると、クロたちが騒ぎ出す。

 警戒しているのでも怯えているのでもない。喜んでいるようだ。

 明らかに甘えた声を出している。


「ミンナ……。ゲンキナノ?」

「ふぃぅ~」

「……ヨカッタ」


 クロたちが元気な様子を見て、その変わった人族は安心したようだった。


「クロたちと知り合いなのか?」

「クロ?」

「この子たちのことをクロ、ロロ、ルルと名付けたんだ」

「ソウダッタンダ。ウン。シリアイ」

『ごはんくれた!』『おいしい!』「くぅーん」

「ふむ?」

『えっとねえっとね』


 クロたちがテイムスキルを通じて教えてくれる。

 どうやら魔熊モドキに捕まったクロたちの世話をしていたのがこの人族らしい。


「ボクもツカマッタ」

「魔熊モドキにか?」

「マクマモドキ?」

「クロたちをいじめていた魔物のことだ」

「アイツはマクマモドキとイウンダ。ハジメテシッタ」

「……ああ、ちょっと熊っぽいから、そう俺が名付けただけなんだ」

「ソウナノ?」

「アイツは本当はなんて種族なんだ?」

「シラナイ。ダケド、アクマってヨンデタ」

「……確かに、あれは悪魔だわ」

「ウン」


 話をするうえで、名前を聞いておかないと色々不便である。

 俺は人族に自己紹介することにした。


「名前を教えてくれないか? 俺はテオドールという。テオと呼んでくれ」

「テオ、ヨロシク。ボクはイジェ」


 それから俺はイジェに、みんなのことを紹介する。

 フィオとシロ、ヒッポリアスにピイのことも忘れずにだ。

 ピイはどうやら眠たいらしい。紹介をすませると服の中に入れて休ませておく。


「イジェは魔熊モドキの子分だったのか?」

「チガウ」


 そういって、イジェは首をフルフルとふる。

 それからイジェは事情を説明してくれた。


「アレは……。ユキがトケハジメタコロ……。アクマにツカマッタ」

「ほほう」


 イジェとその仲間たちはこの辺りで平和に暮らしていたのだと言う。

 魔狼たちと争うこともなく、共存していたようだ。


「縄張り争いはなかったんだな」

「イジェタチ、クサタベル。ニクもタベル」

「そうか。魔狼たちは草も食べるが、主に肉を食べるからな」


 肉食寄りの雑食と草食寄りの雑食。

 好みの餌が違うから争わずに済んだのだろう。


「ソレニ、ドチラもオオカミダカラ」

「……イジェは狼だったのか」


 犬だと思ったのだが、狼だったらしい。


「ウン」

「イジェの仲間たちはどうしたんだ?」


 そう尋ねると、イジェは悲しそうな表情になった。

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