77 キノコを採ろう

 俺はフィオとシロの後をしばらくついていく。


「ここ!」「わふ!」


 フィオとシロが案内してくれ場所には柔らかそうな山菜が生えていた。

 俺が旧大陸で見たことのあるおいしい山菜にそっくりだ。

 俺は念には念を入れて、鑑定スキルを発動させる。

 毒もない。ちゃんと食べられる山菜だ。


「うん、ちゃんと食べられる。それに見た目もおいしそうだな」

 今まで俺が採集した山菜は、山菜と言うよりも食べられる野草と言った方が正確だ。


「わふぅ!」

 フィオが尻尾をぶんぶんと振る。そして、ぱくりと食べた。

 シロもがふがふ食べながら「わふぅ」と鳴いて尻尾を振っている。


「お、おい。生で食べるのか?」

「はむはむはむ。うまい」

「そうか。うまいか」


 確かにフィオとシロは「おいしい山菜」があると言っていた。

 魔狼たちがいくら賢いとはいえ、調理できるわけがない。

 食べているのなら生だろう。


「てお。たべる」

「じゃあ、俺もいただこうかな」


 俺も生で食べた。みずみずしくて山菜とは思えないぐらいうまい。


「生野菜……キャベツに似た味だな」

「うまい!」

「……ひーん」


 甘えた声を籠の中のクロたちが出し始めた。

 クロたちも「食べたい」と主張しているのだ。


「クロ、ロロ、ルルも食べるか?」


 俺がキャベツに似た山菜をクロたちの鼻先に持っていくとパクパク食べ始めた。


「おいしいか?」

「……わふぅ?」


 クロたちは「まずいとは言わないけど、肉の方がおいしいよね?」と言っている。


「まあ魔狼は基本的には肉食だもんな」

『きゅお。うまい』


 ヒッポリアスも少しだけ味見して気に入ったようだ。

 だが、ヒッポリアスは雑草もおいしく食べられる種族である。


「今までの山菜とどっちがおいしい?」

『どっちもうまい』

「そうか。ピイも食べるか?」

『おなかいっぱい』

「そうか。とりあえず沢山採集しておこう」


 俺は半分ぐらい採集する。沢山生えているので充分な量がある。


「この山菜を食べられてないということは、この辺りには猪とかいないのか?」

「いる」「わふ」


 フィオの言葉をシロが補足してくれる。

 どうやら魔猪も猪もいるが、魔狼の縄張りだったのでさほど多くはなかった。

 猪の繁殖力と魔狼が食べる早さが釣り合っていたということだ。


 魔狼が追い出されてからも、魔熊モドキがこの辺りにはいた。

 だから猪は増えなかったのだろう。


「これから何もしなればどんどん増えるのかもしれないな」

「わふぅ!」


 シロが自分が狩るから大丈夫と言ってくれる。

 だが、シロ一頭では難しかろう。


『きゅお! ひっぽりあすもがんばる!』

「ありがとうな」


 ヒッポリアスも狩ってくれるなら生態系は維持できそうだ。


「ておてお!」

「どうした?」

「もとある」

「もっと生えている場所があるのか?」

「ちが!」


 フィオはぶんぶんと大げさ気味に首を振る。

 どうやら違う種類の山菜があるらしい。


「よし、フィオ、シロ。その場所まで案内してくれ」

「わかた!」「わふ!」


 フィオとシロは元気に走り出す。

 その後をついてしばらく走ると、フィオとシロは足を止める。


「ここ!」「わふぅ!」

「これは……キノコか」

「きのこ!」「わう!」


 キノコはただでさえ毒を持つものが多い。

 おいしいキノコと見た目がそっくりなのに致命的な毒を持つものも少なくない。

 食べられるキノコの中でも、生でそのまま食べられるものはほとんどないのだ。


「念入りに鑑定しよう。食べるのは待ってくれ」

「わかた!」「わふ」


 フィオとシロはクンクン匂いを嗅いでいるが、口にはしない。


「偉いな」

「わふ!」「はっはっはっ!」


 俺はフィオとシロの頭を撫でて、キノコの鑑定を開始する。


「……ふむ。毒ではないな。だが生では食べない方がいいかもしれない」

「やく!」「わ~う!」

「……ほほう。群れの成狼が炎のブレスで調理してくれてたのか」

「わふ!」


 意外にもシロたちの種族は調理するという概念があったらしい。


「凄いもんだな」

「これ! このくさ!」「わぅわーう」

「なるほど、この葉っぱで包んでから炎のブレスをかけるとうまいのか」

「わ~ふ!」


 恐らく蒸し焼きにして楽しんでいたのだろう。

 まったくもって予想外だ。ここまで賢いとは。

 旧大陸の魔狼と比べても、はるかに賢い。


「そうか。そういえば、フィオに服も作っていたぐらいだもんな」

「わふぅ」


 シロたちの種族には、どうやら道具の概念も調理の概念もあったらしい。


「本当にシロたちは凄いな」

「わふ」

「じゃあ、これは蒸し焼きして食べてみようか」

「わふぅ!」


 俺はフィオとシロに教えてもらった植物の葉っぱでキノコを包んだ。

 それから薪を並べて焚火をおこした。

 焚火の中央あたりに置いて待つ。


「三十分ぐらい待った方がいいよな」

「わぅ~」


 シロが言うには、群れで調理したときはもっと速かったらしい。

 恐らく炎ブレスの火力調節がうまかったからだろう。


「この方法だと少し時間をかけたほうがいいな」

「わ~ふ」


 そんなことを話していると、何者かがこっそり近づいてきていることに気がついた。

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