75 食堂を作ろう

 フィオは山菜料理を見ながら、尻尾を振っている。


「どうした? フィオも食べたいのか?」

「たべる!」

「聞いていたと思うが、おいしくはないぞ?」

「たべる!」

「そうか。食べたいなら止めはしないが、最初は少しだけにしなさい」

「わかた!」


 そういって、フィオは山菜をむしゃむしゃと食べ始めた。


「おい、だいじょうぶか?」

「わむわむわむ」


 結構な量の山菜を次から次へと食べていく。


「お、おい! だいじょぶか?」


 冒険者たちも心配そうに声を上げる。


 もしかしたら、フィオは食事の好みが俺たちとは違うのだろうか。

 いや、そもそも味覚自体が違う可能性もある。


「フィオ。もしかして、おいしいのか?」

「まずい!」

「……そうか。そうだよな」

「わむわむ」

「無理して食べなくていいんだよ?」

「わふ?」


 フィオは右手に肉、左手に山菜を持って交互に食べている。


「そうか。フィオはシロと一緒に食事に困る日々を送っていたから……」


 フィオとシロが拠点の残飯漁りに来たことで、俺たちは出会ったのだ。

 群れが魔熊モドキにやられてからは常に飢えていたのだろう。

 だから、好き嫌いとかがないのかもしれない。


 フィオは全種類の山菜料理を少しずつぱくぱくと食べると、水をごくごく飲んだ。


「まずい!」

「そうだな、だが、食べるものが無かったらこれを食べるしかない」

「わふぅ~。しろ、わふ」

「わう」


 なにやらフィオはシロと会話する。

 そして、話がまとまったのか、こちらを見て言う。


「うまい、くさ。ある!」

「本当か?」

「ほんと!」「わふ!」


 人間であるシロだけでなく、魔狼であるシロまでうまいと鳴いている。

 これは期待できる。


「どのあたりに生えているんだ?」

「わふぅ~。おふろ、ちかく!」

「あの天然温泉近くか」

「そ!」


 天然温泉は魔熊モドキを倒し、クロたちを保護した場所だ。

 つまり魔熊モドキの縄張りだったところである。

 フィオとシロは、当然入れなかったのだ。


「なるほど。午後は食堂を整備したあと、それを採りに行こうか」

「いく!」


 おいしい食材は皆欲しているのだ。

 俺もおいしい山菜を久しぶりに食べたい気分だ。


「ヒッポリアス。午後は大きくなってついてきてもらえるかな?」

『きゅお、わかった!』


 その後、残ったまずい山菜料理は全部ヒッポリアスが食べてくれた。


『うまい』

「……そうか。いっぱい食べていいよ」

「きゅる~」


 ヒッポリアスは雑草もおいしく食べられるぐらいだ。

 まずい山菜だって、おいしく食べられても何の不思議もない。



 昼ご飯を食べて、後片付けを終えたあと、俺は食堂の建設作業に入る。

 冒険者たちには、食堂から離れてもらった。


「さて、食堂とはいえ、炊事場でもあるからな……」


 かまどだけでなく、まな板や鍋といった調理器具も用意しておこう。

 食堂にはテーブルと椅子も必要だ。


「材料はほとんど木材だな。あとは金属」

『ておどーる。きをあつめてくる?』


 ヒッポリアスが作業を申し出てくれた。

 木材にはまだ余裕がある。とはいえ、潤沢と言うほどではない。

 それに木材はいろんな用途に使うのだ。燃料としても必要だ。


「そうだな。ヒッポリアス、頼めるか? 今日の分はあるが……燃料にも使うからな」

『わかった! きゅる~』


 すぐにヒッポリアスは元の大きさに戻る。

 そして、拠点の外に向かって走っていった。


 そして俺は作業を再開する。

 食堂も炊事場を含めた建物を建築してから、家具と調理器具を作ればいいだろう。

 建物自体は宿舎などと大差ない。材料を並べて製作スキルで一気に建築していく。


「建築が終われば次は家具と調理器具だな」


 テーブルも椅子も鍋もまな板も構造は単純だ。

 製作スキルがあれば、作ることは難しくない。


「……ついでに燻製器も作っておくか」


 魔法の鞄があるので、生肉の保存は比較的しやすい状況だ。

 だから、保存食としての肉の燻製づくりは必須ではない。

 とはいえ、燻製はうまいので、それなりに大きな燻製器を作っておく。


 すべての作業は三十分ほどで完了した。


「おお、相変わらずテオさんはすげーな!」

「これで雨の日も快適にご飯を食べることができるよ!」

「調理も楽になるな! 燻製も作ってみたいもんだ!」

「テーブルと椅子もいいな。酒盛りがしやすくなるぜ」


 冒険者たちも喜んでくれた。

 椅子に座ってみたりして、感触を確かめている。


「喜んでもらえてよかったよ」


 そして俺は完成した食堂から外に出る。

 そのころにはヒッポリアスが戻ってきていた。


『ておどろーる、き、あつめた!』

「ありがとう。ヒッポリアス。助かるよ」


 そして俺はヒッポリアスと一緒に資材置き場に向かう。

 ヒッポリアスは十本の大きな木を資材置き場に並べてくれていた。

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