74 山菜を食べよう

 一番複雑な構造のせきが完成したので、あとは簡単である。


「これで下水槽に穴を開ければ完成だ」


 大きな穴を開ければ、スライムが流れてしまう。

 だから幅〇・〇三メトルほどの格子状に穴を空けていく。

 製作スキルを使えば、そういうことも簡単にできるのだ。


 すべてが終わったので、問題なくちゃんと動くかどうか、確かめることにする。

 俺はハンドルを動かし、堰を開けて水を実際に流してみた。


「うむ。問題なく完成したようだな」


 俺が満足していると、

「「「ぴぴいぴいぴい」」」

 下水槽の中にいるスライムたちが鳴き始めた。


 水を流したことで起こしてしまったのだろう。


「あ、すまない」


 俺は慌てて堰を閉じる。

 そして、下水槽の中のスライムを覗きに行く。


「「「ぴいぴいぴい」」」


 スライムたちは元気に鳴いている。


「起こしてしまったな。大丈夫か?」

『ぴぃ~、みんなだいじょうぶ!』


 俺の肩に乗ったまま、ピイが教えてくれた。


「そうか。それならよかったが……。スライムは無事か?」


 安全には充分配慮して色々設計した。

 だが、何か見落としなどがあるかもしれない。そう考えてピイに尋ねる。


『だいじょうぶ! みんなみずがながれてたのしいって!』


 そういうことなら問題ないだろう。下水槽の排水部分の処理が完成した。


 俺は改めて下水槽を覗き込む。

 水位は少しだけ下がっているだけ。スライムたちは楽しそうにバチャバチャしていた。


「ピイ。水はいったん全部抜いた方がいいのか? ある程度残した方がいいか?」

『すこしだけあったほうがいい! ぴぃ~』


 水が沢山あれば、あとで下水が流れてきたときに薄まってしまう。

 スライムにとって薄い下水は、やはり味はいまいちなのだ。


 とはいえ、完全に水がないのも困る。スライムは乾燥に弱いわけではない。

 乾燥どころか炎にあぶられても大したダメージにはならないぐらいだ。

 だが、好き嫌いで言えば、湿っぽい場所の方を好む。


「ピイ、これから水を抜いていくから、水位を見ていてくれないか?」

『ぴい! わかった』

「ちょうどよくなったら教えて欲しい」

「ぴぃぃ!」


 ピイは下水槽の上でピョンピョンと跳びはねる。


「じゃあ、水を抜きはじめるぞ」

「ぴい!」


 そして俺はハンドルを回して堰を開ける。

 すると下水槽の中のスライムたちが「ぴいぴい」と楽しそうに鳴きはじめた。

 しばらく水を抜くと、ピイが声を上げる。


『ちょうどいい!』

「わかった」


 ピイの声に従って、俺は堰を閉める。

 そして下水槽の中を覗いて水位を確かめた。深さは〇・〇五メトルほど。


「結構浅くても、いいんだな」

『いい!』


 どうやら、スライム的にはもっと浅くても深くてもいいらしい。

 〇・〇二から〇・一メトルぐらいがちょうどいい範囲のようだ。



 下水槽の処理が終わったので、次はトイレの下水槽も同様の処理をしておく。

 トイレの方もスライムたちのおかげで飲めるほどきれいな水に変わっていた。

 本当にスライムたちには頭が下がる。



 一通り作業を終えて、魔獣たちを撫でまくっていると、

『おなかへった』『ごはんごはん!』『ごはん!』

 クロ、ルル、ロロがそう鳴き始めた。


 クロたちは俺の足にまとわりついている。

 特にクロは動きが激しい。俺の服を噛んで引っ張っている。


「クロ。服を噛んだらだめ」

「わぅ~」


 噛むのをやめたので撫でて褒める。


「さて、お昼ご飯を食べに行こうな」

「わふわふぅ!」


 みんなでかまどのある場所へと向かう。


「食堂兼炊事場も作ったほうがいいな」

「きゅお?」

「大丈夫。ありがとう、ヒッポリアス。資材はまだ足りてるよ」

「きゅお~」

「午後は食堂兼炊事場を整えようか」


 そんなことを話していると、あっという間に炊事場に到着する。

 そこには、いつもの肉料理とは別に山菜料理がたくさん並んでいた。


「おお、山菜料理をこんなに作ってくれたのか?」

「試作品ってやつだ。テオさん、どうぞ食べてみてくれ」

「ああ。だが、その前にクロたちにご飯を上げてからな」


 子供たちにご飯を配膳してから、俺は一番近い山菜料理を口に運ぶ。


「…………ふむ、これは」

「な、テオさん、まずいだろう?」

「まずいな。渋みがすごいな。身体には悪くはないんだが」


 むしろ健康にはよさそうな成分である。

 だが、ひたすらまずい。


「これでもだいぶましになったんだ。最初なんて吐いたからな」

「確かにこれは吐くほどではない。飢え死にするぐらいなら食べられる」

「俺もテオさんと同意見だ。食えるものがあるってのはそれだけで幸せだ」


 ベテラン冒険者がしみじみとそう言った。

 きっと昔飢え死にしかけたことがあるに違いない。

 長い間、冒険者をやっていると、飢え死にしかけることは珍しくはない。

 俺も五回ぐらいある。


「まあ、他にも山菜はあるからな」


 そういって、他の料理も食べてみる。

 どれもこれも、非常にまずかった。


「テオさんが最初に食べたのが一番ましだろう?」

「……確かにな。調理法を工夫すればなんとかなるか?」

「どうだろうなぁ」

「わふ」


 そのとき、フィオが期待のこもった目で、こちらを見ていることに気がついた。

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