73 下水設備を整えよう

 俺は魔法の鞄から金属のインゴットを取り出す。

 そして、木や石などの他の材料も資材置き場から運んでくる。


「トイレ自体は簡単だ。問題は配管だよな」


 俺は拠点全体を流れる上下水道網をイメージする。


「ついでに配管が凍らなくなる仕組みも考えておこう」


 ヴィクトルの熱湯を作り出す魔道具を利用して、温水を流せば行けそうだ。

 加えて、配管自体の断熱効果を高めておこう。

 熱伝導率の低い木で配管を包めばましになるはずだ。


「木が腐らないようにしないとな」


 木をそのまま地中に埋めれば水分であっというまに腐ってしまう。

 しかも土の中には木を食べる虫などもたくさんいる。


「虫対策は虫除けの香を混ぜ込めばいいが……」


 水対策はどうすればいいだろうか。

 俺はしばらく考える。


「……石英を加工したもので覆っておくか」


 失敗したら、その時に改良すればいいだろう。


「ついでに上水の配管も各戸に巡らせておこう」


 家で顔を洗えると便利だ。夜中に喉が渇いたときも凄く助かるはずだ。


 構想が固まったので、俺はイメージ固めに入る。

 地面に胡坐をかいて座り、目を瞑って思考を深くしていく。


「わふ?」「ゎぅゎぅ?」「わーぅ」


 クロ、ルル、ロロが遊んでもらえると思ったのか、俺の足の上に乗り始めた。


 集中が乱れるので、大人しくするよう頼もうと思ったのだが、

「……」「……わふ」


 フィオとシロが静かに弟妹たちを遠ざけてくれた。


「わぅ?」

「……わふ」

「きゅーん」「きゅおー」


 クロたちが「どうして?」と聞いて、シロに「邪魔したらだめ」と教えている。

 どうやらヒッポリアスもフィオに甘えているようだった。


 今朝からヒッポリアスはますます甘えん坊になったように感じる。

 身体が小さくなって思う存分甘えられるようになったからだろうか。

 そんな子供たちをフィオとシロが相手してくれる。頼りになる姉たちだ。


 俺はフィオとシロに、子供たちの世話を任せるとイメージ固めに集中する。

 製作を施す範囲が広いので、拠点を十の区画を分けて考えていく。


「さて、いくか」


 そして製作スキルを発動。指定した区画の製作物を一気に作る。

 地下の配管の配備、凍結防止処理から地上のトイレまで一気にだ。

 それを十回ほど繰り返して、作業を終える。


 各戸へのトイレと上水設備を配備し、各配管の凍結防止処理だ。


「よし、これで終わりだ」

「きゅんきゅん」「きゅおー」


 終わったと言った瞬間。クロたちとヒッポリアスがじゃれつきに来る。

 だから順番に撫でまくった。


「フィオとシロもありがとうな」

「わふぅ」


 フィオとシロにもお礼を言って頭を撫でる。

 ちなみにピイは俺の肩の上でずっとフルフルしていた。作業中もである。

 ピイの振動は心地よく、集中の妨げにもならないのだ。


「ピィ、肩をもんでくれてありがとう」

『ぴい! ておどーる! みずがあふれる!』

「……ああ、そうだったな。忘れていたよ。ありがとう」


 ピイが教えてくれたのは、スライムたちが入っている下水槽。

 それらの出口をまだ作っていないということだった。

 あと二、三日放置したら、あふれてしまうことだろう。


「急いで排水の機構を作ろう」

『ぴぃ! それがいい!』


 俺はすぐに下水槽へと向かう。

 子供たちはみんなついてきてくれた。


 下水槽に到着すると、俺は中を覗き込む。


「スライムたちは元気にしているかな?」


 スライムたちは水の中にぷかぷか浮いていた。

 テイムスキルで意思を読み取ってみようとしたが、どうやらみんな眠っているらしい。


「起こしても悪いな。なるべく静かに作業しよう」

「わかた」


 真面目な表情でフィオはうんうんと頷く。シロは無言で尻尾を振っていた。


 俺は作業を始める前に、水に鑑定スキルをかけてみる。


「凄いな。普通に飲めるほどきれいな水だ」

「ぴぃ」


 褒めるとピイは嬉しそうに鳴きながらフルフルする。


 それから、俺はスライムたちを起さないよう静かに作業を始めた。

 まず下水槽の下部に穴をあけて、開閉可能なせきを取り付けなければならない。

 それに排出した水を流す管も取り付けなければなるまい。


「穴は最後に開けたほうがいいな」


 俺は構造の簡単な排出した水を流す物から作る。

 外部にあるので、何かあったときにも交換や修理がしやすい部分だ。

 耐久性は高いに越したことは無いが、さほど重要でもない。

 断面を上部が空いたコの字状にする。

 上部を空けておけば、冬季に凍結し破裂することがないからだ。


「素材は石でいいか」


 俺は石を魔法の鞄から取り出して、イメージを固めて一気に製作スキルを発動させる。

 水路の先は河原まで伸ばしておいた。


「次は堰だな。堰の素材も石でいいかな」


 ヒッポリアスが石を沢山集めてくれたおかげで石材には余裕があるのだ。

 穴あけ予定の場所に、ぴったりと取り付けるのがよいだろう。


 水漏れしないように、隙間ができないように作らなければならない。

 開閉するための機構も作る必要がある。

 ハンドルと歯車を組み合わせて、あまり力を入れなくても開閉できるようにする。


 構造をしっかり考えた後、具体的で精確なイメージを固める。

 そして製作スキルで一気に作り上げた。

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