72 小さくなったヒッポリアス

 俺は眠っている子供たちを見ながら考える。

 ヒッポリアスは強くてもまだまだ子供。

 遊んであげる時間を増やした方がいいかもしれない。


「明日にでも、時間を見つけて温泉に連れて行ってあげようかな」

「……きゅぉ~きぅぉ~」


 安らかに眠るヒッポリアスを見ながら、俺も眠りについたのだった。



 次の日の朝。俺は顔を舐められて目を覚ました。

 胸の上や顔の周囲に小さな生き物が沢山いる。


「くーんくーん」「きゅーん」「きゅーおきゅーお」

「クロ、ロロ、ルルか。起こしてくれてあり……ん?」

「きゅぉ?」


 クロたちと一緒に見たことのない生き物が俺の顔をべろべろ舐めていた。

 尻尾を除いた大きさは〇・五メトルほどで中型犬ぐらい。

 ちょうどクロたちと同じぐらいの大きさだ。

 そして、ヒッポリアスにそっくりだった。


「………………えっと」

「きゅ?」

「もしかして、ヒッポリアス、小さくなった?」

『なった!』

「どうやったの?」

『わかんない! きゅお!』


 そういって、ヒッポリアスは嬉しそうに顔をべろべろ舐めてくる。


「……ふむ?」


 身体の大きさは変えられる魔獣は、珍しいが存在する。

 ヒッポリアスもそういう能力を持っていたということだろう。


『きゅお! ずっといっしょ!』


 そういって、ヒッポリアスは尻尾をぶんぶんと振る。

 昨日、身体の大きさが小さければ、もっと一緒にいられるというようなことは言った。


 身体の大きさを変化させるのは、スキルのようなもの。つまり先天的な能力だ。

 だからスキルと同様に本人はスキルを持っていることに気付けないのだろう。

 そして、スキルと同様に、いつ目覚めるかもわからない。


「ヒッポリアス、寝ている間に気づいたら小さくなっていたのか?」

『んー。ちいさくなりたかった!』

「ふむ。小さくなりたいと強く願って、目覚めたら小さくなっていたと」

『そう!』

「ヒッポリアス。大きくもなれるのか?」

『なれる! なってみる!』


 そういって、ヒッポリアスが巨大化しようとする。


「ちょっと待て、今大きくなったら俺が潰されてしまう」

『そっかー』

「少し離れて大きくなってくれ」

『わかった!』


 ヒッポリアスは俺から少し離れると、「きゅおぉぉ」と言いながら元の大きさに戻った。


「おお。凄いな」

「わふぅ、すごい」「わぅ」


 フィオもシロも感心していた。


「きゅぅお~」


 ヒッポリアスはすぐに小さな姿に戻ると、俺の身体の上に乗って顔を舐め始める。

 よほど甘えたかったに違いない。

 ヒッポリアスはその巨体ゆえに、抱っこしてもらうこともできなかったのだ。


「よーしよしよしよし」

「きゅぅきゅぅ」


 俺が全身を撫でまくると、ヒッポリアスが嬉しそうに尻尾を振りながら鳴く。

 ヒッポリアスが口を開けるので、俺は口の中に手を入れた。

 カバと同じく、海カバも口の中を撫でられるのが好きなのだ。


 思う存分ヒッポリアスと戯れていると、クロたちが『おなかすいた!』と鳴き始めた。

 だから、皆で朝ご飯を食べに行くことにした。


 俺たちがかまどの方へと歩いていくと冒険者たちがざわめく。


「おお!? ヒッポリアスか?」

「竜とは聞いてはいたが、小さくもなれたんだな」


 俺に抱かれた小さいヒッポリアスを見て、みな驚愕しているようだ。


「ヒ、ヒッポリアス! 小さくなったのか!」


 魔獣学者のケリーがものすごい勢いでかけてくる。


「さ、さわってもいいか?」

「きゅ?」


 ケリーは返事を聞く前に、触り始める。


「ふむふむ? ふむふむふむ」

「きゅお~」


 ヒッポリアスは気持ちよさそうに鳴く。

 ケリーはやはり獣を撫でるのがうまいらしい。



 みなで朝ご飯を食べたあと、俺はヴィクトルたちの様子を見に行く。

 ヒッポリアスを抱っこし、子魔狼たちを引き連れてである。

 やはり小さなヒッポリアスの姿は皆を驚かせた。


 一応経緯を軽く説明してから病状を尋ねる。

 どうやら皆順調に回復しているようだ。

 一番元気なヴィクトルは明日にでも活動を再開できそうなぐらいだ。


 病舎訪問を済ませると、俺はかまどの方へと向かう。

 昨日採集した山菜を、かまどの近くにいた冒険者たちに手渡すためだ。


「昨日、金属採集のついでに、食べられる植物を集めて来たんだ」

「ほう? それはいい!」


 冒険者たちは目を輝かせる。

 肉ばかり食べているので、植物に飢えているのだろう。


「……味はわからないがな。毒はない。」

「とてもまずかろうが、飢え死にするよりはましだろうさ」

「ちげえねえ!」「ガハハハハ!」


 冒険者たちは楽しそうに笑うと、相談を開始する。

 どうやら冒険者たちは山菜がおいしく食べられるか、色々試してくれるらしい。


「すまないな。助かるよ」

「いやいや、自分たちのためだからな!」

「ああ、テオさんがお礼を言う必要はないさ」

「こっちがお礼を言うべきところだよ!」


 そんなことを言ってくれる。

 俺は冒険者たちに山菜調理の試作を任せると、各戸へのトイレ設置を進めることにした。

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