70 子魔狼テイム

 俺はフィオに尋ねる。


「シロと同じく、子魔狼たちもフィオがテイムした方がいいんじゃないか?」

「うーん。しろ、おおきい!」

「そうだな、それはそうかもしれないが……」


 フィオは、子魔狼たちはまだ赤ちゃん。

 だから、俺にテイムされた方がいいと考えているらしい。

 子狼ではあるが、ある程度大きいシロと、子魔狼たち違う。


「なるほどなぁ。だが、子魔狼たちもすぐ成長すると思うが……」

「わふぅ。ゆっくり」


 フィオは子魔狼たちの成長は遅いと考えているようだ。


「確かに強い生物の方が成長が遅い傾向はあるが……」


 ネズミより猫、猫より獅子、獅子より象の方が繁殖可能になるまでの時間は長い。

 鼠は三か月、猫は六か月だが、獅子は四、五年、象は十年以上だ。


 象よりもずっと強い魔狼は、象よりも成獣になるまでの期間は長いのかもしれない。


「こまろ、しんぱい」

「そうか……。ならば、俺がテイムすることにしようか」

「わふ! いい!」「わふぅ」


 どうやら、俺がテイムすると言ったので、フィオとシロは嬉しそうに尻尾を振る。

 従魔になるということは保護下に入るということでもある。

 だから、フィオとシロは安心したのだろう。


「子魔狼たちもそれでいいかい?」

「ぁぅぁぅ!」


 どうやら、子魔狼たちもそれでいいらしい。

 となると、次は名前を考えなければなるまい。


「名前、どんなのがいい?」

「わふぅー」「わぅ」「ぁぅ」


 フィオもシロも子魔狼たちも悩んでいる。


「そうだなぁ。姉の名前がシロだからな。それに似た名前がいいかな」

「ぁぅ!」


 俺は子魔狼三頭を順番に抱き上げて、よく観察した。

 三頭とも恐らく同じ両親から生まれた兄妹もしくは姉弟だが、それぞれ細かな違いはある。

 子魔狼たちの性別は、男の子が一頭、女の子が二頭だ。


「男の子は、他の子に比べてちょっと毛並みが黒いかな」


 黒いと言っても、比較的というだけである。

 シロと子魔狼たちは、みんな毛並みは綺麗な銀色だ。

 男の子は比較的黒めの銀色の毛並みをしている。

 並べて比べてみたら黒っぽいことがよくわかった。


「男の子の名前はクロにしよう。いいかい?」

「わぅ!」


 抱きかかえられたまま、男の子魔狼はびゅんびゅんと元気に尻尾を振っている。

 とても嬉しそうで何よりだ。


「そしてこの子は……」


 女の子二頭は、シロと同じぐらいの色味である。

 色から名前を考えるのは難しい。


「うーむ……。フィオたちも何かいい名前の案はないか?」

「わふぅ~」「わぅ~」「きゅお~」「ぴぃ~」


 みんなで考えたが、なかなかいい案が浮かばない。


「……ルルとロロはどうだろうか」


 特に意味はない。音で考えた。

 姉がシロで男の子がクロ。共通しているのはロで終わることだ。

 だから、ロロにした。ルルの方は、ロロに似た響きと言うことでそれにした。


 適当すぎて、反対されるかと思ったが、

「わふぅ! いい!」「わぅ!」「ぁぅぁぅ」

 どうやら、フィオもシロも、そして肝心の子魔狼も賛成してくれた。


「じゃあ、ルルとロロだな」

「ゎぅ!」


 名前も決まったので、次はいよいよテイムである。


「順番にテイムしていくからな。並んでくれ」

「わふ」「あぅ」「くーん」


 子魔狼は三頭共、俺の前にきちんとお座りして並ぶ。

 そして、俺は右手に魔力を集める。


「我、テオドール・デュルケームが、汝にクロの名と魔力を与え、我が眷属とせん」

『われくろ! ておどーる・でゅるけーむのけんぞく!』

「我、テオドール・デュルケームが、汝にルルの名と魔力を与え、我が眷属とせん」

『われるる! ておどーる・でゅるけーむのけんぞく!』

「我、テオドール・デュルケームが、汝にロロの名と魔力を与え、我が眷属とせん」

『われロロ! ておどーる・でゅるけーむのけんぞく!』


 順番に手早く三頭共テイムしていく。

 テイムの完了した子魔狼たちは「くんくん」鳴きながら、嬉しそうにじゃれつきに来る。


「くろ、るる、ろろ! げんきになた!」「わふぅ!」

 フィオとシロも嬉しそうだ。


「俺の魔力が流れ込んだからだろうな」

「あうあう!」


 子魔狼たちは、見違えるように元気になったように見える。

 テイムの瞬間、俺と子魔狼たちの魔力回路がつながった。


 そして、俺の魔力が子魔狼たちに流れ込んだのだ。

 子魔狼たちは元気に俺にじゃれつき、俺の指をかんだりしている。


 俺は撫でながら、子魔狼を改めて観察した。


「それにしても、だいぶ魔力持っていかれたな」

「くーん?」


 テイムした相手が強ければ強いほど魔力を持っていかれるのだ。

 とても強いヒッポリアスをテイムしたときは半分近く魔力を持っていかれた。

 子魔狼の場合、三頭合計で二割ほど持っていかれた。


「クロ、ルル、ロロは赤ちゃんなのに凄いな」

「わふ?」

「フィオはシロをテイムしたとき魔力をどのくらい持っていかれたんだ?」

「うーん」


 そう言ってフィオは首をかしげていた。

 シロもまだ子供だが、クロたちよりはだいぶ成長している。

 シロならば子魔狼三頭分、つまり俺の魔力二割ぐらい持っていくだろう。


「はんぶん!」


 どうやら、フィオは俺の四割ぐらいの魔力量のようだ。

 それは、子供としては破格の魔力量である。

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