66 金属を採集しよう

 俺は再び鑑定スキルを発動させて、鉄とは別の鉱脈の位置を正確に探る。

 鉱脈の位置さえ正確に把握すれば、後は基本的に鉄と同じである。


 ヒッポリアスにお願いして指示を出して、岩を砕いてもらうのだ。

 鉱脈までたどり着けば、再び鑑定スキルで組成を把握しインゴットを製作する。


 鉄より含有率が低い金属を抽出する場合は、魔力消費の差は大きい。

 だが、やることは同じだ。どんどん金属を採掘していく。


「それにしても……」

「きゅお?」

「ヒッポリアスの魔力量は凄いな」

『すごい?』

「想像していた以上に凄い」


 ヒッポリアスには魔力弾を何度も撃ち込んでもらって、岩を砕きまくってもらっている。

 俺は、ヒッポリアスの魔力弾の威力をみて、そう数は撃てないと判断した。

 いくらヒッポリアスが高位竜種であったとしてもだ。


 だが、ヒッポリアスは元気に軽々と岩を砕いてくれる。

 合計で数十発もの魔力弾を放っているのに、平然としていた。


「本当にすごい竜だな、ヒッポリアスは。まだ子供だとは思えないよ」

「きゅうきゅお~~」


 ヒッポリアスは嬉しそうに尻尾を振る。


 俺もヒッポリアスに負けるわけにはいかない。

 岩を砕くことは俺にはできない。

 その分俺は金属を抽出して採集することに全力を尽くす。


 そんなことをしばらく続けていると疲れてきた。

 魔力にはまだ余裕があるのだが、頭が疲れていると感じる。

 鑑定スキルで組成などを頭に叩き込み続けていたからだろう。


『ぴぃ。つかれた?』

「すこしな」

「ぴい」


 すると俺の左肩に乗っていたピイが変形する。

 俺の首をまたいで、左肩と右肩に同時に乗っかった。

 そしてピイは、俺の肩を揉むかのように動き始めた。

 肩こりがほぐされていく。首も一緒にもまれるのでとても気持ちがいい。


『ぴい? どう?』

「おお、気持ちがいいぞ。ピイは肩を揉むがのうまいな」

「ぴぃ~」


 ピイはご機嫌になって、肩を揉んでくれる。


「ピイは肩こりに詳しいのか? 人と交流があったり?」

『ちがう~』

「そうなのか。その割にはうまいな」

「ぴぃ」


 すると、ピイはなぜ肩こりをほぐすのがうまいのか説明してくれた。

 どうやら、肩が凝ると魔力の流れがよどむらしい。


「そういわれたら、そうかもしれないな」

『そこをもむ!』


 ピイは魔力の流れをみて、澱んでいるところを揉みこんでくれていたらしい。

 鑑定スキルや製作スキルを使っていると、姿勢よくしていても肩が凝るのだ。

 なぜか理由は分からなかった。

 だが、魔力が澱んでいたと考えれば、腑に落ちるというものだ。


「勉強になるよ」

『ておどーる、よくなった?』

「ああ、肩がだいぶ軽くなった。肩こりが取れたら脳みその疲れも軽くなったよ」

『よかった!』

「ありがとうな」


 お礼を言うと、ピイはしばらくフルフルしていた。

 そして、近くでのんびりしていたヒッポリスの頭の上にぴょんと飛び移る。


『ひっぽりあすもこってる?』

「きゅお?」


 きょとんとするヒッポリアスの頭の上で、ピイはムニムニと動く。


「きゅおぉおぉおぉおぉおぉ……」

 ヒッポリアスは気持ちよさそうに口を開けて、目をつぶっている。


「ヒッポリアス、気持ちがいいのか?」

『きもちいい!』

「そっか。それなら良かった。ピイはマッサージが得意なんだな」

「ぴぃ~~」


 俺は嬉しそうに鳴くピイの体を優しく撫でる。

 そしてヒッポリアスが休養している間に、俺は金属採集の作業を再開する。

 それからは非常に順調に採集が進んだ。

 ピイのマッサージで、肩こりが解消したおかげだろう。


「肩こりがこれほど作業効率を落としていたとはな……」

『ひっぽりあすもげんきになった!』

「そうか。ピイ、ありがとうな」

「ぴぃ~」


 昼過ぎになって、俺たちは必要な量の金属を採集し終えることができた。

 作った各種金属のインゴットは全て魔法の鞄に入れていく。


「作業は終了だ!」

「きゅおー」「ぴぃ!」

「軽くご飯を食べてから帰ろうか」

『たべる!』「ぴい!」


 拠点まではそれなりに距離がある。

 しかも道らしい道がない。徒歩で普通に帰れば三時間ぐらいかかるだろう。

 だが、ヒッポリアスに乗せてもらえば、二十分程度で戻れるかもしれない。


「急いで帰って拠点でご飯を食べてもいいが、途中で食用の植物を採取したいからな」


 その場合、ゆっくり帰ることになる。

 だからお昼ご飯はこの場で食べて行った方がいいだろう。


「ピイも食べるだろう?」

『たべる!』


 ピイは元気に返事をする。

 ヒッポリアスもピイも、必ずしも食事をとる必要はない。

 だが、ヒッポリアスとピイにとって、食べることは娯楽なのだ。

 人間にとってのおやつのようなもの。


 俺は頑張ったヒッポリアスとピイは食事を与えることでねぎらおうと考えたのだ。

 焼いた肉を魔法の鞄から取り出す。

 それを二枚のお皿に乗せて、ヒッポリアスとピイの前に置く。


「いつも通りの肉ですまないな」

『おいしい!』「ぴぃ」


 嬉しそうに肉を食べるヒッポリアスとピイを見ながら、俺も肉を食べたのだった。

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