65 鉄を採集しよう

 崖をかけのぼると、ヒッポリアスはぶんぶんと尻尾を振った。


「きゅお!」


 ヒッポリアスは「ドヤッ!」と背中に乗っている俺の方を振り返り気味にうかがう。


「凄いな、ヒッポリアス」

「ぴぃ~」


 油断したら振り落とされてしまうぐらい速い動きだった。

 ピイもびっくりしたようだ。


『すごい? ひっぽりあす、すごい?』

「ああ、凄いぞ。だが急に動くと、俺が振り落とされちゃうぞ」

「きゅお……」

「だけど、凄かった。偉いぞ」

『きゅお! きをつけるね!』

「ああ、特にフィオとかを乗っけてるときはな」

『わかった!』


 背中の上に乗ったまま、しばらくヒッポリアスを撫でてながら言う。


「よし、ヒッポリアス、あちらに向かってくれ」

『わかった!』


 ヒッポリアスの足取りは軽い。険しい岩場をやすやすと歩いていく。

 しばらく進むと、険しい岩壁に突き当たった。


「ヒッポリアス、この辺りだ。ありがとう」

「きゅお!」


 俺はヒッポリアスの背から降りて、周囲を改めて鑑定しなおす。

 距離が近づいたことで、鑑定の精度は飛躍的に上がるのだ。


「この岩壁の奥に鉱脈がありそうだな」


 岩壁の奥にかなり豊富な資源がある気配がある。

 足元の岩の下にも反応があるが、メインは壁の向こう側だ。


 俺は直接岩壁に手を触れて、鑑定する。


「ふむ……。なるほど」

『鉄ある?』

「鉄ももちろんあるぞ」

『すごい!』


 鉄、チタン、銅、亜鉛、アルミニウム、クロム、ニッケルなどなどがある。

 それどころか、ミスリルやオリハルコンすらあるようだ。


「凄い豊富な鉱脈だな……」


 拠点で使う分は充分に賄える量が埋蔵されている。


『どうやって採るの?』

「そうだなぁ。ヒッポリアス。この辺りの岩を砕くことは可能か?」


 鉱脈まで岩を砕いてもらえれば、直接抽出することができる。

 ヒッポリアスが砕けなければ、また別の手段を考えなければなるまい。


 岩を素材に製作スキルを発動して別のものを作ることで削るのが一番早いだろうか。

 だが、魔力はかなり消耗することになる。

 金属採掘のペースは大きく落ちることになるだろう。


 だから、ヒッポリアスに尋ねたのだが、

『できるよ! くだく?』

 ヒッポリアスは尻尾を振りながら答えてくれる。


「無理はしなくていいんだからな」

『わかった!』


 それから俺はヒッポリアスに砕いてほしい範囲を細かく伝える。


 するとヒッポリアスは「きゅおぅー」と鳴き始めた。

 同時に角が光り始める。どんどん光は強くなっていった。


 そして、まぶしいぐらい光が強くなったとき、

「きゅおっ!」

 ヒッポリアスの角から魔力弾が放たれた。


 ――ドドドドドドドド!!


 強力な岩をも砕く魔力弾が連続で撃ち込まれる。

 砕けた岩が周囲に散らばった。


『もうすこしくだく?』

「ひとまず大丈夫だ。ちゃんと鉱脈まで届いている。凄く助かったよ」


 そういって、俺はヒッポリアスを撫でる。


「きゅお~」


 ヒッポリアスは嬉しそうに尻尾を揺らす。

 さすがのヒッポリアスでも楽に放てるものではないはずだ。


 俺は労わるために、魔法の鞄から水とお肉を出してお皿に乗せる。

 それをヒッポリアスの前に置いた。


「ヒッポリアス。これでも食べて、しばらく休憩していてくれ」

『わかった! ありがと』

「量が少なくてすまないな」

『だいじょうぶ! おいしい!』


 ヒッポリアスは良く味わうようにして、肉を食べて水を飲む。

 そして、ピイにも少しのお肉をあげる。


 それから俺はピイを肩に乗せたまま、自分の仕事を始めた。


「それにしても、立派な鉱脈だな」


 岩の間に鉄の多く含まれる層とケイ素の多く含まれる層が縞状に重なっている。

 その鉄の多く含まれる層を素材にして、製作スキルを発動することで鉄を抽出するのだ。

 製作物は鉄のインゴットにすればいいだろう。


「そのためには……」


 まず鉄の多く含まれる層に向けて念入りに鑑定をかける。

 組成などを徹底的に頭に叩き込む。

 それから鉄のインゴットをイメージした。

 鉄のインゴットは構造が単純なので、イメージ自体は単純で簡単である。

 この場合は、素材の鑑定の方がはるかに重要なのだ。


 準備が終わると、一気に製作スキルを発動させる。


「きゅお~~」「ぴぃ~」


 次々に製作の終わった鉄のインゴットが積みあがっていく。

 その様子を見て、ヒッポリアスもピイも感心して声を上げていた。


 しばらく鉄のインゴットの製作を続けて、充分な鉄を集めることができた。


「鉄はこれでいいとして、他の金属も集めたいな」

『ひっぽりあす、いわくだく?』

「お願いしたいが……、ヒッポリアスは魔力の残りは大丈夫か?」

『だいじょうぶ!』

「無理してないか?」

『むりしてない!』

「鉄は集まったし、日を改めてもいいんだよ?」

『よゆう!』


 そういって、ヒッポリアスは尻尾をぶんぶんと振る。

 どうやら、随分と張り切ってくれているようだ。


「じゃあ、お願いしようかな!」

「きゅお!」


 俺たちは金属採掘を続行することにした。

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