64 金属採集に向かおう

 俺とヒッポリアス、それにピイは拠点を出ると川に向かう。

 ピイは俺の肩の上に乗ってプルプルしていた。


『かわでなにするの?』

「金属採集だ」

『かわで?』

「川からは砂鉄が採れたりするからな」

『そっかー』


 河原に到着すると、俺は周囲や川の中の石や砂、泥などに鑑定スキルをかける。

 そして、ヒッポリアスは川の中にじゃぶじゃぶ入っていった。

 ヒッポリアスは水遊びが好きなのだろう。

 子海カバのヒッポリアスには沢山遊んでほしい。


 しばらくヒッポリアスを眺めている間に、俺は鑑定スキルを周囲にかけ終わる。


「ふむふむ。鉄の含有量は普通の川より多めだな」

『そなの? あつめる?』


 ヒッポリアスは尻尾を振りながら、俺の近くまでバチャバチャ走ってきた。


「そうだなー。それもいいが……」


 鉄を含有する石や砂をかき集めて、それを材料として鉄の何かを製作スキルで製作する。

 そうすれば、鉄を抽出することは可能だろう。

 だが、含有率が高めと言っても、比較的高いと言うだけの話。

 絶対量が微量なのは変わりない。


 海水を真水に変えるのと同じ手法だ。

 だが、海水と比べて、砂や岩に含まれる鉄は微量である。


 海水に塩は質量比で百分の三程度含まれる。

 だが、花崗岩に含まれる鉄は千分の二とかその程度だ。

 それが色々な他の岩石とまじりあって川を流れてくるのである。

 鉄の比率はもっと少なくなるだろう。


 だから、周囲から大量の石や砂をかき集める必要がある。それはとても大変だ。

 それに大量の石や砂から少しずつ抽出するには、大量の魔力が必要になる。


「鉄を抽出する前に、まず砂鉄を集める装置を製作した方がいいかな……」


 砂鉄を集める装置を作って、かき集めてから抽出すれば魔力の消費は抑えられる。


「まあ、ひとまずは、上流に向かおうか」


 川底に鉄を含む石や砂が多いということは、上流にその元があるということだ。

 その本元から抽出した方が効率はいいだろう。


「恐らく花崗岩とか閃緑岩みたいな鉄を含む岩が川沿いにあるんだろうさ」

『そっかー。ておどーる、ひっぽりあすにのる?』

「じゃあ、乗せてもらおうかな」

『わーい』


 俺が背中に乗ると、ヒッポリアスは嬉しそうだ。


「きゅおきゅ~おっ」


 ご機嫌に鳴きながら、上流に向かって川の中を歩いていく。

 俺はその最中、川の近くに生えている植物や岩石類に鑑定スキルをかけて行く。


「本当に新大陸は食べられる植物が多いな」

『おいしい?』

「それは食べてみないとわからない」

『そっかー』

 ――ビチビチッ


 いつの間にかヒッポリアスは大きな魚を咥えていた。

 ヒッポリアスは本当に狩りがうまい。


『ておどーる、あげる!』

「いいのか? ヒッポリアス、お腹空いてないのか?」

『だいじょうぶ!』

「ありがとう。お昼ご飯にでもみんなで食べよう」

「きゅお!」


 ヒッポリアスにもらった魚を絞めると、魔法の鞄に入れておく。


 さらに上流に進むと、どんどん川幅は狭く水深は浅くなっていく。

 そして、渓谷が険しく深くなっていく。


「ふうむ。だいぶ山の方に登って来たな」

『ひっぽりあすはもっとみずがあるほうがすき』


 ヒッポリアスとしては、もっと水深がある方が楽しいのだろう。

 そして、ピイは俺の左肩の上で楽しそうにプルプルしていた。

 ちょうどいい振動で、凝りがほぐれる。


「ピイはマッサージうまそうだな」

「ぴぃ?」


 そんなことを話していると、鑑定スキルに大きな反応があった。

 大量の金属反応である。


「む? なんだこれは? この辺りに鉱脈があるぞ」

『こうみゃく?』

「鉱石とかが沢山あるところだ」

『すごい』


 旧大陸で鉱山に沸いた魔物を退治するクエストに参加したことがある。

 そのときも周囲に鑑定スキルを使った。

 その際に捉えた金属の反応よりも大きな反応だ。


『てつもみつかった?』

「ああ、鉄どころか、いろんな金属がありそうだ」

『すごい!』

「ヒッポリアス、あちらの方向に向かってくれ。そう遠くはない」


 俺は川の右岸の方向を指さした。

 その方向に少し進んだあたりに、鉱脈が存在しているのは間違いない。


『わかった!』

「登れそうなところを探そうか」


 今、俺とピイはヒッポリアスの背に乗って渓谷の中を歩いている。

 俺の指さした川の右岸は特に険しい。

 五メトルほどの岩が垂直に近い角度で切り立っているのだ。


『わかった! のぼれるところさがす!』


 そう言いながら、ヒッポリアスはまっすぐ右岸に向かって走り始めた。

 傾斜の緩い箇所を探す気配は皆無である。


「お、おい、ヒッポリアス」

「ぴぃいぃ」


 俺は思わず叫ぶ。ピイも驚いて叫んでいる。

 そしてピイは俺の左肩に必死にしがみつく。


 ヒッポリアスは速度を緩めずに壁に向かって走ると、思いっきり跳んだ。

 岩壁の途中を蹴り、尻尾を川底にたたきつけると、ヒッポリアスは右岸を駆けあがった。

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