63 下水槽の排水機構の整備

 それから俺とヒッポリアス、ケリーとピイは拠点へと戻る。

 拠点ではすでに朝ご飯の準備ができていた。


 フィオが二頭の子魔狼を抱え、シロが一頭の子魔狼を咥えてかまどの近くにやってきている。


「今、子魔狼の食事の準備するからな」

 

 俺は子魔狼たちの分の食事を作る。肉を細かく切ってすりつぶすのだ。

 そして、食事の準備が終わると、お皿に入れて子魔狼たちの前に置く。


 それから、フィオたちにも朝ご飯を配膳して、自分も朝ご飯を食べ始める。

 魔狼の習性なのか、俺が食べないとフィオとシロが食べ始めないからだ。


 フィオたちが食べ始めたのを確認してから、俺は立ち上がって語り始める。


 まずはみなが興味を持っているピイの紹介から。

 紹介した後、皆にピイが仲間になった経緯の説明を始める。

 シロに起こされたところから、ピイをテイムして家で眠るまでだ。

 そして、ピイとスライムたちの能力も説明した。


「そいつはすげーな。ピイが居れば残飯処理方法を気にしなくてよくなるじゃねーか」

「ぴぴい」

「それにしてもそんなスライムがいたんだな。俺の知っているスライムは……」

「ああ。私の知っているスライムも凶暴で知能が低い」

「学者先生のケリーでもそうなのか、なら新種って奴かもしれねーな」


 ピイの珍しさについて色々冒険者たちは語り合う。


「それから皆ももう知っていると思うが、昨日、子魔狼たちを保護した」

「……かわいい」「なんという愛くるしさだ」


 冒険者たちは子魔狼の可愛さに参ってしまっているようだ。

 子魔狼たちは「あうあう」鳴きながら、ご飯を食べている。


 俺は魔熊モドキを倒したことと、どんな奴だったかも説明する。

 冒険者たちは真剣な表情で聞いてくれたのだった。


 説明が一通り終わると、近くにいた冒険者がシロの頭を撫でに来る。


「シロ。お前さんは偉いな。弟たちを助けるために頑張ったな」

「わふ」

「フィオも偉いぞ」

「わふぅ!」


 冒険者たちに褒められて、フィオもシロも誇らしげに尻尾を振っている。


「それにしてもシロは凄いな。俺はピイが来ていたことに気づかなかったよ」

「わふ」

「下水槽は拠点から離れているからな。気づけなくても仕方ない」


 俺がそう言うと、冒険者たちはうんうんと頷く。


「だからこそ、シロは凄いんだ」

 褒められて撫でてもらって、シロは嬉しそうに尻尾を振った。



 和やかな朝食の時間が終わり、皆それぞれ自分の仕事をしに向かう。


 俺はピイと子魔狼たち、フィオとシロを連れて病舎に向かった。

 ヴィクトルに説明するためだ。


 ヴィクトルはだいぶ回復していた。

 下痢はまだ少し続いているが、嘔吐は収まったようだ。


「回復の早さが尋常ではないな」

「テオさんのお薬のおかげですよ」


 そう言ってヴィクトルはほほ笑む。

 他の病人である冒険者たちと地質学者も、ヴィクトルほどではないが回復している。

 二、三日ほどで全快しそうな勢いだ。


 俺は朝食の場にいなかった者たちに、改めて昨日から今朝にかけての報告をした。

 魔熊モドキの戦いと子魔狼たちの保護。

 ピイを仲間にしたことと、スライムの能力。


 それらの報告を、ヴィクトルたちは「ふんふん」と聞いてくれていた。

 聞き終わったヴィクトルが言う。


「風呂場の洗い場のわきにある洗濯場にもスライムに来てもらえばいいのでは?」

「洗濯もスライムにお願いするのか? ピイどうだ?」

『まかせて!』


 そして、ピイは「ぴぃ~~~」と長く鳴いた。


『いっぴき、あらいばにいった』

「凄いな。遠くから指示出せるのか?」

『だせる。ぴぃ~』


 スライムの王というのは伊達ではないらしい。


 それからヴィクトルに尋ねられる。


「テオさん。今日はどうされるのです?」

「スライムたちが下水槽を浄化してくれたからな。水を排出する機構でも作るかな」

「そうですね。このままだと二、三日であふれるかもしれないですし」

「本当は浄化する機構から作るつもりだったから、ピイたちのおかげで楽になった」


 スライムたちが、下水を飲料水にできるほど浄化してくれるのだ。

 そのまま川に垂れ流しても何の問題もない。


 そして俺は近くでプルプルしていたピイを撫でる。


「だが、金属が尽きたからな。今日の作業は採掘からになりそうだ」


 それを聞いていた地質学者が、身体を起こす。

 地質学者は病人の中でも一番消耗しているが、昨日に比べたらかなり元気になっている。


「何か俺に協力できることがあれば言ってくれ」

「ああ、その時は頼む」


 そして、俺たちは病舎を後にする。


「フィオとシロは子魔狼たちと留守番していてくれ」

「わかた」「わふぅ」


 フィオとシロは聞き分けよく、素直にうなずく。

 子魔狼たちを引き連れて拠点の外に向かうわけには行かない。

 それを理解してくれているのだ。


 ついでにケリーにも頼んでおく。


「ケリー。子魔狼たちとフィオ、シロを頼む」

「ああ、万事任せてくれ」


 そして、俺はヒッポリアスとピイを連れて、金属の採掘へと向かうのだった。

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