67 ついでの山菜採集

 ヒッポリアスは大事そうにゆっくり肉を食べる。

 ヒッポリアスの大きな身体の割に肉が少ないのだ。


 ピイもゆっくり溶かすようにして食べている。

 ピイの能力ならば、一瞬で溶かすことができるだろう。

 きっと味わっているに違いない。


「ピイは腐っている肉の方が好きなんだろう?」

『そう!』

「こんどピイのために腐らせた肉も用意しとこうかな」

『だいじょうぶ! ておどーるのほうがうまい!』


 そのまま受け取ると、少し怖いことをピイは言う。

 だが、ピイは俺の風呂の残り湯などがうまいと言いたいのだ。


「じゃあ、今日風呂に入ったときにでも存分に食べてくれ」

「ぴっぴぃ!」


 そんなことを話しているうちに、みんなご飯を食べ終わる。

 いや、俺にとっては昼ご飯だが、ヒッポリアスにとってはおやつと言った方が正確だ。


「ヒッポリアス。食べられる草を採集しながら帰りたいから、ゆっくり歩いてくれ」

『わかった!』


 ピイは俺の肩に乗り、俺はヒッポリアスの背中に乗って歩いていく。


「きゅお~きゅーお~」


 ヒッポリアスはご機嫌に鳴きながらゆっくり歩いていく。


 帰りながら、俺は鑑定スキルを使って、植物を調べていった。

 

「ヒッポリアス、右の方に向かってくれ」

「きゅお!」

「ありがとう、この草は食べられるはずだ」


 食べられるというのは、毒がなく体に害はないということ。

 味がいいとは限らない。

 食べられる植物が思わず吐き出してしまうほど、まずい場合も珍しくない。


「実際に食べてみるのは、拠点に帰ってからだな」

「きゅむきゅむ」「ぴっぴっぴ」


 俺が採集していると、それをヒッポリアスがハムハムし始めた。

 ピイも草を体内に取り込んで溶かし始めている。


「食べられるが、おいしいとは限らないんだよ?」

『うまい!』

『ぴぃ~~。おいしい!』

「そうか。なら多めに採っておこうか」

「きゅお!」「ぴぃ~~」


 ヒッポリアスとピイは嬉しそうに鳴く。

 もちろん、海カバとスライムの味覚と人が同じとは限らない。

 牛やヤギの食べる草を人が食べてもおいしくないことの方が多いようにだ。

 それにピイたちスライムは下水すらおいしく食べれるのだ。


「ま、人の口に合うかは改めてチェックしないとだな」


 そんな調子で、どんどん道中にある食べられる植物を採集していった。

 ヒッポリアスはそのたびにむしゃむしゃ食べる。

 ピイも取り込んで味を確認していた。


 そのたびに、ヒッポリアスもピイも「うまいうまい」と言うのだ。

 ピイはわかる。スライムだから有機物ならなんでもうまいのかもしれない。


 だが、ヒッポリアスも思っていたよりも草が好きなようだ。


「もしかして、ヒッポリアスは草食寄りの雑食なのか?」

『きゅー。にくのほうがすき』

「そうか。一応確認なんだが、人が食べられない植物もヒッポリアスは食べられるのか?」

『たべれる!』

「やっぱり、そうなのか」


 人と海カバは種族が違う。当然と言えば当然だ。

 そんなことを話しながら採集しつつ、拠点へと戻る。


 拠点についたときはもう夕食時だった。

 ヴィクトルに採集成果の報告をして、夕食の準備を手伝う。

 そして、フィオやシロ、子魔狼たちも一緒に、みんなでご飯を食べた。


 その後、俺はフルフルと男性冒険者たちと一緒にお風呂に入る。

 脱衣所で服を脱いでいると、冒険者の一人が言う。


「そういえばテオさん。スライムが洗濯を頑張ってくれることになっただろう?」


 今朝、スライムたちの王であるピイが一匹のスライムに洗濯担当になるよう命じていた。


「そうだな。もう活躍しているのか?」

「ああ。そうなんだが……。思った以上にすごくてだな……。ちょっと見ていてくれ」


 そういうと、冒険者は自分の脱いだ服を洗い場のわきにある洗濯槽に入れた。

 洗濯槽には水が入っていて、そこに一匹のスライムが浮いていた。


「ぴぃ~」


 服が入ると、洗濯槽のスライムは鳴きながらブルブルする。

 そうしながら、服自体を体の中に取り込んでいく。


「食べてる……わけではないよな?」

「ああ。凄いのはここからだ」


 十秒ほど経つと洗濯スライムはぶうという音とともに服を吐き出した。


「ありがとうな。凄く助かるよ」

「ぴ~」


 お礼を言って冒険者はその服を取り上げる。


「テオ、触って確認してみてくれ」

「ふむ……なに? もう乾いているだと?」

「そうなんだ。体の中に取り込んだ際に水分を吸収してくれているみたいだ」

「……すごいな。しかも汚れ一つない」


 皮脂汚れなどの有機的な汚れ以外の土汚れなども綺麗になっていた。


「俺も洗濯してもらおうかな」

「ああ、それがいい」


 俺が脱いだ服全部を洗濯槽に入れようとすると、

『ぴい! それはぴいがやる!』

「む? それならお願いしようかな」


 俺についてはピイがやるというようなことを言っていた。


 俺は魔法の鞄から、大きめの桶を取り出すと脱衣所において水を入れた。

 そして、下着まで服を全部入れた。するとピイがびょんと飛び込む。


「ぴぃ~~~~~」


 あっという間に俺の身に着けていたものはは全部綺麗になり乾燥も済んでいた。

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