55 子魔狼のお昼寝

 俺は突然眠った子魔狼たちに異常がないか一応調べる。

 本当に単に眠っているだけのようだ。


「……本当にぱたりと眠るんだな」


 まるで魔力切れを起こしたゴーレムのようだ。

 俺はフィオとシロにあげた毛布の上に子魔狼たちをのせた。

 すぐにフィオとシロが子魔狼たちを温めるように寄り添う。


 子魔狼のことは基本的に姉たちに任せておけばいいだろう。



 俺はヒッポリアスと一緒に自分たちの毛布に横たわる。

 これまではフィオたちから離れた場所に毛布を敷いていた。

 だが、子魔狼のことも心配だし、今回はフィオの毛布の隣に敷いた。


「……今日は疲れたな」


 朝からトイレと病舎を作り、薬草を採取し、魔熊モドキを倒したのだ。

 疲れても仕方ない。


「きゅお~~」


 さすがのヒッポリアスも疲れているようだ。

 魔熊モドキとの戦いで魔法を沢山使ったからかもしれない。


「そうだ。ヒッポリアス、魔力を上げよう」

『だいじょうぶ?』

「ああ、体力的にはしんどいが、魔力的にはまだ余裕がある」

『すごい!』


 俺はヒッポリアスに魔力を分け与えた。

 ヒッポリアスは幸せそうにほんわかしている。


『……ておどーる』

「どした?」

『なまえつけないの?』

「子魔狼たちにか?」

『そ』

「まあ、落ち着いてからだな、フィオとシロと相談しないといけないし」

『そっかー』


 ヒッポリアスがこのタイミングで名付けについて語る意味も分かる。

 テイマーが魔獣に名前を付けるということは、従魔化とほぼ同義だ。

 ヒッポリアスは「子魔狼たちに俺の魔力を分けてあげたら?」と言いたいのだろう。


「フィオと俺のどちらがテイムすべきかという問題もあるし」

「きゅお~」


 そんなことを話しながら、俺はヒッポリアスを撫でまくる。

 すると、ヒッポリアスも「きゅーきゅー」寝息を立て始めた。

 子供たちのお昼寝の時間だ。みんなもっと眠って休んだ方がいい。


 俺はというと、しばらく横になったので、だいぶ疲れが取れた。


「……さてと」


 俺はいい歳なので、仕事をすることにする。

 ヒッポリアスの家を静かに出ると、冒険者たちの作業を手伝うった。


 ヴィクトルが食中毒で倒れているので、拠点内の作業が主だ。


 夕食の準備や、装備品の点検、傷んだ装備の修復なども大切だ。

 集めて来た原木を薪に加工する作業も忘れてはいけない。


 そんな作業は、俺の製作スキル、鑑定スキルがあると非常にはかどるのだ。

 みんなの作業を手伝っていると、気候学者がやってくる。


「テオさん。もしお手すきでしたら観測機器を設置したいので手伝ってくれませんか?」

「もちろん、手伝おう。何かつくればいいのか?」

「はい、これを……」


 気候学者はすでに設計図を準備していてくれていた。


「これは百葉箱ひゃくようばこというのですが……」

「ほほう」

「この箱の中に観測機器を入れるのです」


 それは木製の小さな箱だ。

 屋根はしっかりしていて、壁は日光と雨は通さないが風は通すようになっている。


「色は白で、場所はこの辺り、高さはこのぐらいに設置したいと考えています」

「なるほどなるほど」


 設計図があると、イメージしやすく作りやすい。


「結構、複雑ですが、大丈夫ですか?」

「もちろんだ。複雑と言っても素材は一種類だ。このぐらいならすぐ作れるよ」

「本当ですか? 助かります!」


 俺は原木を厳選する。

 よい素材を選び出し、イメージを固めて一気に作る。

 それから、航海中に食べた貝の殻を加工して白く染めた。


「これでどうだろうか」

「素晴らしいです、ありがとうございます!」


 その後気候学者はその箱の中に観測機器を設置する。


「新大陸の各地に設置して回りたいのですが……。落ち着いてからですね」

「そうだな。ヴィクトルも臥せっているしな」

「はい。ですが、この近くでも色々とデータは取れますから」


 気候学者は真面目で、前向きなようだ。

 ついでに俺は気候学者にこの地の気候について尋ねた。

 すると、気候学者は、まだはっきりとは言えないと前置きしてから答えてくれる。


「そうですね。夏は過ごしやすいですが……冬は厳しくなりそうです」

「どうしてそう思う?」

「真夏である今の気温や、遠くに見える山の標高と万年雪の位置などでしょうか」

「なるほど」


 高い山ならば暖かい地域でも雪は融けない。

 寒い地域ほど、標高の低いところまで雪が残る。

 そこから判断したようだ。


「それにしても、あんな遠くの山の標高などよく調べられたな」

「三角測量っていう技法です。あくまでも概算ですけどね」


 詳しく聞いてみると、地質学者と協力して標高を計算したらしい。

 山頂と現在地の角度を測り、そこから山頂に向けて直線移動して再び測る。

 そんなことを行ったらしい。


 俺が宿舎を建てたりしている間に、学者たちも忙しく働いていたのだ。


「あとはシロの毛皮が厚かったので。冬はきっと寒くなると思いました」

「ああ。確かにな。夏毛のはずだが、もふもふだもんな」

「はい」


 冬が厳しくなるのは確実として、どのくらい寒くなるのか。

 それが大切である。


「ところで、俺たちのいた王都よりどのくらい寒くなると思うか?」


 俺もヴィクトルも、学者たちも基本的に皆王都在住だった。

 冒険者たちの元の活動場所はバラバラだ。それでも王都を拠点にしていたものが一番多い。


「王都よりは確実に。こちらは雪が連日降るかもしれません」

「それは大変だな」


 本当に冬は厳しいものになりそうだ。

 今から冬の備えを勧めなければなるまい。

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