54 子魔狼たちの治療

 俺は子魔狼たちを撫でながら、ケリーに向かって頭を下げた。

 ケリーは優しい目をして、食事をしている子魔狼をじっと見つめている。


「ケリー、ありがとう。世話になった」

「気にしないでくれ。貴重な観察ができたよ」

「それならよかった。子魔狼たちを観察した結果はどうだった?」


 ケリーが細かく観察した結果を教えてくれた。


 年齢の割に痩せている。

 その上小さな怪我を沢山負っている。だが幸いなことに大きな怪我はないそうだ。

 それに何かの病気にかかっているわけでもないとのこと。


「怪我をしているのか。みんなで採って来た薬草で怪我薬を作るか」

「それがいいかもしれないな」


 小さい傷とはいえ、子魔狼の身体も小さいのだ。

 それに痩せているということは栄養も不足しているということ。

 小さな傷が大事になることもありうる。そうなったら大変だ。


 俺は改めて、ご飯をがふがふ食べている子魔狼たちを観察する。

 食事を邪魔しないよう気を付けながら、全身を触り怪我などを調べた。


「確かに大きな怪我はないな」

「ああ。打撲とか切り傷とかそういうものだな」


 魔熊モドキに殴られたりしてできた怪我だろう。


 俺は子魔狼たちから少し離れると、魔法の鞄から薬草を取り出す。


「基本的な怪我用ポーションでいいかな」


 基本的なポーションはこれまで数えきれないぐらい製作してきた。

 勇者パーティーにいたころは、一日に何十回と作ったこともあるぐらいだ。


 だから手慣れたものである。

 怪我用ポーションは、あっという間に完成させることができた。


 今後も何かと使うだろうから、怪我用ポーションは余分に作っておく。

 余った分は瓶に入れて魔法の鞄で保存する。


 その作業が全部終わったころには、子魔狼たちはご飯を食べ終わっていた。


「よし、子魔狼たち。お薬の時間だよ」


 そう言って俺がポーションの瓶を開けると、

「くーんくーん」

 不安そうに鳴きながら子魔狼たちは逃げようとして、フィオとシロに捕まった。


「大丈夫、痛くはないからね。少し臭いかもだが……」


 人にとっても、このポーションは多少臭い。

 鼻のいい魔狼にとってはかなりのきつさなのだろう。

 少しだけかわいそうになるが、治療に必要なことである。


「フィオ、シロ、そのまま捕まえておいてくれ」

「わかた!」「わふ!」


 フィオとシロは力強い返事をして、しっかりと弟妹たちを抑えている。

 そして俺はポーションを子魔狼一頭ずつの怪我に塗っていった。


 塗り終わると、俺は子魔狼たちへ諭すように言う。


「これで怪我の治りは速くなるよ。それとポーションを舐めたらだめだからね」

「あふ!」

 

 子魔狼は「こんな臭いの舐めるわけない」と言っている。


「うん。それでいい。味もおいしくはないからな」


 そして、俺は子魔狼たちをわしわしと撫でる。

 子魔狼たちは嫌がることもなく大人しくしていた。


「シロ、フィオ、子魔狼の体中にポーションを塗ってあるから舐めたらダメだよ」

「わかた!」「わふ!」

「シロは塗ってないところは舐めても大丈夫だ」

「わふぅ!」


 治療が終わったら、次はケリーと相談である。


「ケリー。子魔狼たちへのご飯はどのくらいの頻度で与えればいいんだ?」

「子狼だからな。少なくとも一日三回ぐらいは食事を与えた方がいいだろう」


 普通の成犬の場合、ご飯の頻度は一日二回程度だ。

 だが狼の場合は一日一回程度が適切だ。

 その上、適度に餌抜きの日も挟んだ方がいいらしい。

 野生の狼は毎日餌が獲れるとは限らないから、そういう感じなのだろう。


 魔狼の場合は、もっと柔軟性がある。

 一日五回食べてもいいし、三日何も食べなくても支障はない。

 従魔になった魔狼なら、魔力供給だけで数か月は元気に過ごせる。


 だが、子魔狼たちは、子供だし今は痩せている。


「ケリー。朝昼晩に間食も適度に挟むぐらいでいいか?」

「うむ。それでいいが一回の量は少なめにしたほうがいいだろうな」


 子魔狼たちについての相談がおわると、魔熊モドキについての報告だ。

 俺は細かなスケッチを描き、鑑定スキルでわかったことを細かく伝える。

 子魔狼のトラウマを刺激しないように、会話を聞かれないように配慮した。


 ケリーはものすごい勢いで俺の言った言葉をすべて書き留めていく。

 魔熊モドキの情報はケリーの興味を引いたようだった。


「新大陸は、もしかしたら生態系が違うのかもしれないな」


 しみじみとそんなことを言う。


「では私は戻るよ。情報を整理したいし、ヴィクトルたちの様子も気になるしな」

「ありがとう。助かった」

「なに礼には及ばないさ」


 それからケリーは子魔狼たちとシロを撫で繰り回してから去っていった。

 子魔狼たちは、楽しそうに姉のフィオとシロにじゃれついている。


「本当に子狼は可愛いな」

「かわいい!」


 弟妹を褒めると、フィオは本当に嬉しそうにする。

 尻尾もビュンビュンと揺れていた。


「シロも可愛いぞ」

「かわいい!」「わふぅ」


 シロは照れているようだった。


「フィオもヒッポリアスも可愛いぞ」

「かわいい……」「きゅお~」


 フィオも照れるようだ。

 ヒッポリアスは素直に嬉しそうに尻尾を振っている。


 そんなことをしていると、遊んでいた子魔狼たちは眠り始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る