51 子魔狼たち

 子魔狼を一頭咥えたシロの上に、二頭の子魔狼を掴んだフィオが乗っている。

 子魔狼たちは暴れることもなく大人しい。

 フィオとシロは子魔狼たちの姉である。掴まれても怖くないだろう。


 シロたちはあっという間に俺たちのところまでやって来た。


「フィオ、シロ、大活躍だったな」


 フィオとシロは尻尾を振りながら、子魔狼たちを地面に置く。


「「「あう、あうっ」」」


 地面におろされた子魔狼たちは一生懸命鳴いている。

 尻尾を除いた頭胴長は〇・五メトルほどだ。

 中型犬ぐらいの大きさはある。


 だが、犬ではなく魔狼なのだ。

 声も幼いし、手足もずんぐりしている。

 そんな姿かたちを観察する限りやっと固形食を食べられるようになった程度に見える。

 子犬でいうと、生まれて一、二か月程度の成長度合いではないだろうか。

 詳しいことはケリーに尋ねよう。


「大丈夫か? 子魔狼たち」


 子魔狼たちは俺とヒッポリアスを見て尻尾を股に挟んでいる。

 そんな子魔狼たちにフィオとシロがわうわう言って安心させていた。


「フィオ、シロ、この子たちは弟妹で間違いないか?」

「そ」「わふ」


 シロからは弟妹が生きていたことに対する驚きと喜びの感情が流れ込んできた。

 フィオの感情はテイムスキルではわからない。

 それにフィオは語彙力が不足しているので、うまく表現できないだろう。


 だが、驚きと嬉しさはフィオもシロと同じに違いない。

 はちきれんばかりに尻尾を振っている。

 シロは本当に嬉しそうに尻尾を振って、弟妹たちをぺろぺろ舐めてあげていた。


 フィオも舐めようとしたので、一応止めておく。


「フィオ、ちょっと待ってね」

「わふ?」


 拠点にはお腹を壊したヴィクトルたちがいるのだ。

 フィオもお腹を壊したら困る。


 俺は一頭ずつ子魔狼を抱き上げて調べる。

 細かい怪我だらけだ。ノミもダニも大量についていた。

 それにとても痩せている。


 魔熊モドキにひどい扱いでいじめられていたのだろう。


「もう安心だからな」


 そう優しく話しかけるが、子魔狼たちは尻尾を股に挟んだままプルプルと震えていた。

 安心できるまで、気長に優しく見守ってあげなければなるまい。


 一通り調べたあと、フィオとシロに子魔狼たちを託す。

 そして俺は今後のために魔熊モドキの死骸を調べる。

 死骸といっても、もはや灰なので調べるのが難しい。


 サンプルにするために灰の一部と、禍々しい魔石を回収しておく。


「死骸から魔石が回収できるということは……」


 死骸から魔石が獲れる生物を一般的に魔獣と分類する。

 だが、これは一般的な魔石ではない。

 鑑定スキルを発動させると、全く別の系統の魔石ということが分かった。


 そもそも、我らの神に寄れば、魔熊モドキは生物ですらないのだ。

 新しい分類を作ることになるのだろう。


「新しく分類するために標本として剥製が欲しいとかケリーは言わないだろうか」


 それだけが少し心配だったが、非常事態だったのだ。

 納得してもらうしかない。

 あとでスケッチを書いて、鑑定スキルでわかったことを細かく報告しておこう。


 死骸の処理を終えると、俺たちは帰路に就く。


 俺が両手で二頭子魔狼を持ち、フィオが一頭を抱きかかえる。

 ヴィクトルたちが待っているので小走りだ。


「フィオ、シロ。拠点に帰ったら、俺は急いで解毒薬を作らないといけない」

「わふ」

「その間は、子魔狼たちは頼むな」

「わかた!」


 俺たちの後ろを走っていたヒッポリアスが言う。


『ておどーる、ひっぽりあすのせなかにのって』

「いいのか?」

『いい。ふぃおとしろものる』


 確かにヒッポリアスはとても速い。

 皆でバラバラで走るよりも、ヒッポリアスの背に乗ったほうが速く到着しそうだ。


「じゃあ、ヒッポリアス。頼む」

『まかせて』


 ヒッポリアスは俺たちの前に回って、足を止める。

 そして、尻尾を地面に垂らして、登りやすくしてくれた。


「フィオ、シロ登ってくれ」

「わふ!」「わぅ!」


 フィオとシロが登った後、俺もヒッポリアスの背に上る。

 するとヒッポリアスはすぐに走り出した。

 揺れないように気を付けて走ってくれる。だが、それでもヒッポリアスはとても速い。


 俺は抱えている二頭の子魔狼を優しく撫でて、声をかけた。

「大丈夫か? 子魔狼たち」

「「…………」」


 子魔狼二頭は鳴きもせず大人しくしている。プルプルしているので怯えているのだろう。

 まだ、俺に心を開いていないのだ。

 俺が抱っこすることが、ストレスになったら可哀そうだ。


「フィオ。この子たちも持てるか?」

「もてる!」


 フィオは力強く返事をしてくれた。

 身体能力が高いとはいえ、フィオは子供。三頭抱えて走るのは難しい。

 だが、今はヒッポリアスの背の上。抱っこするだけならできるだろう


「じゃあ、フィオ。この子たちも頼む」

「わふ!」


 フィオはしっかりと三頭の子魔狼を抱きかかえた。

 フィオに抱えられた子魔狼たちをシロが舐めていた。

 やはり、フィオとシロに触れられることで、子魔狼たちは安心したようだった。

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