52 食中毒の治療

 ヒッポリアスは走るのが速い。あっという間に拠点に戻ることができた。


「ヒッポリアス、助かった」

「きゅお!」

「フィオ、シロ。子魔狼たちを家に連れて行くのは待ってくれ」

「わかた」「わう」


 子魔狼たちを家に連れて行くと、ノミ、ダニが大変なことになってしまう。

 そして、俺は大きな声で呼びかける。


「ケリー、いるか?」


 ケリーは治癒術師の補助として、ヴィクトルたちの治療の指揮にあたっているのだ。


「どうした?」

「子魔狼を保護した。他にもいろいろ報告があるんだが……」

「なんと! この子たちについては万事任せろ」

「ケリー、虫よけの香を渡しておこう。フィオの衣服についたダニを落とすのに使ってくれ」


 子魔狼たちを抱きかかえていたので、フィオにもノミやダニが移ってしまっているだろう。

 シロや子魔狼は風呂に入ることでダニを落とせるが、フィオの服はそうはいかない。


「ああ、助かる。風呂に入っている間にでも使っておこう」

「ヴィクトルたちの様子は?」

「今朝から容態は変わらずだ」

「わかった。ヴィクトルたちは俺に任せろ」


 俺は病舎にダニとノミを持ち込まないために自分の服に向けて素早く虫よけの香を焚く。

 それを済ませると、急いで病舎へと入る。

 ヴィクトルたちは床に毛布を敷いて横になっていた。

 発熱のせいで汗をかき、しんどそうだ。


「テオさん。お帰りなさい」

「今から薬を作るから待っていてくれ」

「テオさんの薬ですか。それは期待できますね」


 治療の総指揮をとっていた治癒術師もやってくる。

 簡単に俺の持っている情報と、治癒術師の情報を交換した。


「私の解毒魔法は効かなかったので……お願いしますね」

「ああ」


 俺は魔法の鞄から、必要な薬草を取り出していく。

 最後に温泉近くで採った主材料の他にも何種類か薬草を並べる。

 副材料は効果を高めたり胃腸の負担を軽減させたりするのに使う。


「念のために毒赤苺ポイズンレッドベリーの現物をもう一度見せてくれ」

「どうぞ」


 治癒術師は毒赤苺を持っていたようで、すぐに手渡してくれた。

 俺は改めて毒赤苺に鑑定をかけて詳しく調べる。

 毒素の構成物質、作用機序などを特に調べた。

 それが終わると、採集した薬草に改めて鑑定をかけて詳しく調べる。


 一通り頭の中に情報を叩き込むと、解毒薬を詳しくかつ精確にイメージする。

 そして、イメージが固まると一気に製作スキルを発動させる。

 こういうのは、雑念が入らないよう一気に作るのがいいのだ。


 そして完成した薬を清潔な器にまとめて入れる。


「できた……。すぐに飲むから瓶はいらないな」


 いつも薬を作った後は瓶に詰めて封をして魔法の鞄に保管する。

 使う時まで品質が落ちないように、かつ持ち運びができるようにだ。


「おお、完成しましたか。早速病人のみんなに飲んでもらいましょう」


 解毒薬の作成を近くで見守っていた治癒術師は少し興奮気味だ。

 俺は落ち着くように治癒術師に言う。

「すぐに飲ませるのはちょっと待ってくれ。一応ちゃんと作れているか調べてからだな」

「ならば、私が最初に飲みましょう。体力がありますから」


 そうヴィクトルが申し出てくれた。

 万一のことがあった時、つまり薬製作が失敗していた時のことも考えなければならない。

 もし失敗していた場合、体力があったほうが生き残りやすいのだ。


 俺はヴィクトルを含めた病人たちを軽く観察する。

 ヴィクトルを含めて病人は体力をかなり失っているようだ。

 それでもやはり、病人の中でヴィクトルが一番体力残っているように見えた。


「じゃあ、最初にヴィクトルに飲んでもらうことにするが……」


 俺は自分の作った解毒薬に改めて鑑定スキルをかけて詳細に調べた。


「うん。ちゃんとできているはずだ……」

「テオさんの作った物ですから。信じていますよ」


 そういってヴィクトルは力なく笑っている。


「恐らく大丈夫なはずだが、念のためにヴィクトル頼む」


 俺は大きな器に入れた解毒薬をコップに移す。


「この解毒薬は結構な量飲む必要があるんだ。つらいかもしれないが、飲み干してくれ」

「はい、任せてください」

「コップ一杯とはいえ、味は苦い。ゆっくりでいい」

「お気遣い感謝します」


 そういうと、ヴィクトルはためらいなく俺の作った薬を飲み干した。


「苦いですね。だからこそ、ゆっくり飲むより一気に飲んだ方が楽かもしれません」


 俺たちの様子を見ていた、病人の一人が言う。


「俺にも飲ませてくれ。苦かろうが、何だろうが、ましになるならいくらでも飲む」

「ヴィクトルの症状が良くなるか見てからだな」

「テオさんが作って鑑定してくれた物だろう? 信じているさ」

「そうはいってもだな……」


 だが、ヴィクトルが良くなるか確かめるためには数時間は様子を見る必要がある。

 だからといって、数時間もつらいまま病人を放置するのはかわいそうだ。


「ひとまず三十分ぐらい待ってくれ」

「わかった。テオさんがそう言うなら待つさ」


 それから俺は横たわるヴィクトルに、魔熊モドキを倒したことを報告した。

 病人たちも自分の寝床に横たわったまま黙って聞いている。

 黙って眠っているのはつらい。気を紛らわせたいのだろう。


「それはすごくいい知らせです」

「魔熊モドキはかなり強かった。詳しい報告は元気になってからだ」

「はい、楽しみです」


 シロの弟妹を保護したことも伝えておく。

 聞いていた皆がシロの弟妹が無事だったことを喜んでくれた。


 そんなことをしている間に、ヴィクトルが薬を飲んで三十分たった。


「ヴィクトル、どうだ? 体調に異常はないか?」

「……だいぶ楽になりましたよ。熱が下がった気がします」

「他は?」

「下痢と嘔吐が治まる気配はありませんが……」

「体内から全部出るまではな。止めない方がいいんだ」

「そうでしたか。ですが、熱が下がっただけで随分と楽になりましたよ」


 どうやら、解毒薬の製作は成功していたようだった。

 改めて病人たちに解毒薬を飲んでもらう。


 それから、見る見るうちに病人全員の熱が下がっていったのだった。


 外からは子魔狼とフィオ、シロの鳴き声が聞こえて来た。

 あっちも元気にやっているようだ。一安心である。

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