47 天然の温泉へ

 胃腸薬の材料の採集をおえると、俺はフィオとシロの頭を撫でる。

 ヒッポリアスも交互にフィオとシロの顔を舐めていた。


「ありがとうな。フィオ、シロ。他に薬草はないか?」

「わふ~」「わぅあぅ」


 話し合いをしたあとフィオが「こち」と言って、フィオを乗せたシロが走り出す。

 しばらく走ってシロが薬草のある場所で足を止める。

 そして俺が薬草を採集しおえると、また走り出す。


「元々の魔狼の縄張りは凄く広かったんだな」


 立派な成長した魔狼が八頭の群れの縄張りだから、相応な広さが必要になるのだろう。

 魔狼ではない狼の縄張りですら、面積で言うと縦横二万五千メトルぐらいあるらしい。

 狼より身体の大きな魔狼の群れの縄張りならば、さらに広かったに違いない。


 それにしても、シロたちの群れは薬草の位置をかなり把握していたようだ。

 自分たちの治療にも使っていたのだろう。やはり知能が凄く高い。


 俺の知っている人族と魔族の大陸の魔狼よりも知能が高そうである。

 仲間になったときにフィオが着ていた衣服などを作るぐらいだ。

 道具の概念すらもあったのかもしれない。

 今度、シロとは詳しくお話ししてみたいものだ。


 そんなことを考えているとき、向かっている先に湯気が見えた。


「お、例の温泉、天然のお風呂ってやつか?」

「おふろ!」「わう」

「きゅお~」


 シロたちは温泉の方向へと走っているようだ。


 温泉に到着するとフィオは、

「あれ!」

 と温泉を挟んで向こう側を指をさす。

 そこには今までとは違う種類の植物が繁茂していた。

 遠すぎるからまだ鑑定スキルで調べることは出来ないが、薬草であるように思える。


 遠回りになるが濡れないよう温泉を避けて進まなければならない。

 一応、温泉のお湯に鑑定をかける。


「温度もちょうどいい。疲労回復と皮膚病にもよさそうだな……、気持ちがよさそうだ」

「いい」「わふ!」


 フィオとシロも気持ちよさを保証してくれている。


「そうか。また改めて遊びに来よう。濡れたら乾かすまで時間がかかるからな」

「わふぅ」「わふ」


 フィオとシロは、時間がないことをわかってくれているようだ。

 賢い子たちである。


 すると、ヒッポリアスが俺の方を見て尻尾を揺らしながら言う。

『ておどーる。のって』

「ヒッポリアス、いいのか?」

『いい! きゅお』


 俺がヒッポリアスの背中に乗ると、フィオとシロも乗った。

 するとヒッポリアスは「きゅおー」と鳴いて、じゃぶじゃぶと温泉の中に入る。

 温泉はとても広くて中心あたりはそれなりに深いらしい。

 少なくとも、水深五メトル程度はあるだろう。


「あったかそうだな。温度はどうだ? ヒッポリアス」

『きもちいい!』

「そうか、また来ような」

「きゅおぅ!」


 ヒッポリアスの運んでもらって、対岸に到着する。


「ありがとう。ヒッポリアス」

「あいあと!」「わふ」

「きゅお!」


 ヒッポリアスは温泉の中をぐるぐるし始めた。

 お湯につかれて、ヒッポリアスも気持ちがいいのだろう。


 そして俺は薬草を直接手に取って鑑定を開始する。


「おお、この薬草を材料にすれば、毒赤苺に対する解毒薬をつくれそうだ」

「わふぅ!?」「わふわふわふっ」

「きゅおお!」


 みんな喜んでくれる。


「フィオ、シロ、お手柄だぞ。ヒッポリアスも乗せてくれてありがとうな」


 俺は改めてお礼を言って、薬草採集を開始する。

 ヴィクトルたち患者は合計七名。治るまで数日かかるだろう。

 加えて予備も欲しい。それなりの量が必要だ。


 それでも沢山生えているので、全体に比べたら必要な量は少しである。

 あっという間に集め終わる。


「これでよしと。急いで帰ろうか。お腹壊したヴィクトルたちが待っているからな」

「わふぅ!」


 フィオは嬉しそうに尻尾を振っているが、

「シロ? どうした?」

 シロは尻尾をピンとたてて、姿勢を低くしていた。


「がぅ」

 シロは敵が来たと言っている。


「……ヒッポリアスは?」

「きゅお?」


 温泉でバチャバチャしていたヒッポリアスは、こちらを見て首をかしげる。

 それから、耳を細かく動かして鼻をクンクンし始めた。


『……なんかいる!』


 ヒッポリアスも気配を探ったら気づけたらしい。

 シロより強い分、ヒッポリアスは警戒心が薄いのだろう。


 ちなみにヒッポリアスは意思を言語化して俺に伝えてきているが声には出していない。

 魔導師たちが使う念話テレパスのようなものだ。


「ヒッポリアス。敵か?」

『わかんない!』

「ガウ!」


 シロは「敵だよ!」と言っている。

 フィオも尻尾をピンとたて四つん這いになって姿勢を低くしている。

 だが、フィオはまだ敵を察知できてはいないようだ。


「ふむ。俺もまだ感知できていないんだよな。ヒッポリアス、シロ強いやつか?」

『つよい!』

「うぅーっ、がうっ」


 ヒッポリアスと同様にシロも強いと言っている。

 シロはともかく高位竜であるヒッポリアスが強いというのなら、相当強いと考えた方がいい。


「……魔熊か?」

「がう」

「そうか、魔熊か」


 シロの仲間の成狼八頭を倒した魔熊だ。可能ならばやりすごすのが安全かもしれない。


「ヒッポリアス、温泉の中で伏せて気配を隠してくれ」

『わかった』


 ヒッポリアスはカバみたいに目と耳と鼻以外を水の中に沈めている。

 気配を消すのが苦手なヒッポリアスでも、この状態では見つかりにくい。


「フィオ、シロ。気配を隠して俺の後ろに隠れろ」

「「わう」」


 そして、俺たちは茂みの中に隠れた。

 しばらく隠れていると、俺にも気配を感じ取れるようになった。随分と禍々しい気配だ。


 さらにしばらくして、大きな二足歩行の化け物が歩いて来るのが見えた。

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