46 熊の縄張りへ

 フィオたちの後ろを俺が走り、その後ろをヒッポリアスがついて来る。

 走りながら鑑定スキルをかけた限りでは、食用に適した植物はそれなりにありそうだ。


 この「食用に適した」というのは、味はともかく食べられるという意味である。

 味を確かめるには詳しく鑑定するか、実際に食べてみるかしないとわからない。

 だが、食べられる植物が多いということは飢え死にしにくいということだ。


 しばらく走って、フィオを乗せたシロが止まる。


「これ!」「わふ」

「ちょっと見せてくれ」

「わふぅ!」


 フィオとシロは、濃いめの緑が目立つ草を指さしていた。


 手に触れる前に鑑定スキルを軽くかける。触れても害はなさそうだ。

 改めて直接手にふれて鑑定スキルを発動させる。


「薬草ではあるな。だが……解毒薬ではないかも」

「わふぅ~……」「わふ……」


 フィオとシロは、がっかりしていた。

 そんなフィオとシロの頭を撫でる。そして草も採集して魔法の鞄に入れる。


「これでよし。ありがとう」

「「わふぅ」」

「これも怪我や病気の治療に使えるからな。お手柄だぞ」

「わふわふっ」「わふ」


 フィオとシロは尻尾をぶんぶんと振って喜んでくれた。


「他にも、薬草が生えているところがあったら教えてくれ」

「わう」「わふぅ~」


 何やらフィオとシロは会話すると、走り始めた。

 次の薬草ポイントに向かってくれるようだ。


「わふ」

「おお、確かに薬草だ」

「わふぅ!」


 走り回って、そんなことを何度か繰り返したが、解毒薬の材料は見つからなかった。


「他にはないかな?」

「わふぅ~。ある」

「あるのか?」

「けど……。くまぁ」「わふぅ……」


 フィオは困った様子で尻尾を身体の前に持ってきて両手でつかむ。

 シロはそんなフィオを元気づけるかのように、顔を舐めていた。


「もしかして、その薬草が生えている場所は今は熊の縄張りってことか?」

「そ」

「そうか。熊の縄張りに近づきたくないなら大丈夫だ」

「んー」

「俺とヒッポリアスで探しに行こう。フィオたちは拠点で待っていてくれ」

「てお、ひっぽ、いく?」

『いく! ひっぽりあす、ておどーるといっしょにいく!』


 ヒッポリアスは尻尾をぶんぶんと振った。

 俺が通訳しなくとも、テイマーのフィオには意味は伝わるだろう。


 ヒッポリアスはフィオの従魔ではないから、明確な文章ではないはずだ。

 それでも単語の連なりという形で伝わる。

 並みの一流テイマーには難しいことだが、フィオは天才なのだ。


「わふぅ~。ふぃおいく!」

「来てくれるのか?」

「いく! てお、ひっぽ、いっしょ」「わふう!」


 俺とヒッポリアスが一緒なら、熊も怖くない。

 フィオとシロはそう思ってくれたのだ。その期待には応えねばなるまい。

 とはいえ、俺はあくまでも非戦闘職。戦闘は避けるに越したことは無い。


「一応、気配は消していこう」

「「わふ」」


 フィオとシロは揃ってふんふんと頷いている。

 すぐにフィオとシロの気配が薄くなった。とても優秀だ。

 狩りをしたり、もしくは強敵から隠れて行動する際に気配を消していたのだろう。

 子供なのにそういう機会が多かったというのは、フィオとシロにとって不幸な話だ。


 可哀そうになって俺はフィオとシロの頭を撫でた。

 フィオもシロも、前に来ていた尻尾が後ろに戻っている。

 とはいえ振っているわけではない。

 緊張気味だが、あまり恐怖を覚えているわけではなさそうだ。


 俺はヒッポリアスにも語り掛ける。

「ヒッポリアスは気配消すことはできるか?」

『できる! きゅお~』


 どうやらヒッポリアスは気配を消しているつもりらしい。

 鼻息を荒くして、どや顔でこっちを見てくる。

 だが、全然気配は消えていない。


「……そうか、あとで練習しような」

「きゅお?」


 気配を消して熊に見つからないよう薬草を探すことはあきらめよう。

 むしろ一般的な熊よけの技法を使うことにする。

 あえて音を立てることで、警告するという方法だ。


 熊が俺たちから逃げてくれればそれでよし。

 突っ込んで来たら、力でねじ伏せるしかあるまい。

 フィオとシロから聞いた情報から魔熊の性格を推測するに、恐らく突っ込んで来るだろう。


「ヒッポリアス。戦闘になったら頼りにしている」

『まかせて! きゅう~』


 俺はヒッポリアスを撫でる。それから、シロに言う。


「シロ。何かあったら、フィオのことを頼むな」

「わふ」


 そして、俺はフィオをシロの背に乗せる。


「攻撃よりもフィオの身の安全を優先してくれ。俺とヒッポリアスは基本的に大丈夫だ」

「わふぅ」


 それから俺たちはフィオとシロの先導で、さらに奥地へと進んでいった。

 俺は道中鑑定スキルを発動し続ける。


「食用にできる植物は沢山あるな……」

「きゅお」

「そうか、ヒッポリアスも食べたいのか」


 ヒッポリアスは肉や魚を食べるイメージがあるが雑食なのだ。


「今度、ヴィクトルたちの問題が解決したら、おいしい草も探そうな」

「きゅぅ~」


 ヒッポリアスは嬉しそうにぶんぶんと尻尾を振った。

 もしかしたら、肉ばっかり食べていたから植物も食べたいのかもしれない。


「それにしても、これぐらい食用に適した植物があると助かるな」

「きゅぉ」


 敢えて声を上げて移動しているのだが、熊が近づいてくる気配はない。

 高位竜ヒッポリアスがいるから、ビビっているのかもしれない。


 そんなことを考えていると、フィオを乗せたシロが足を止めた。


「ここ!」「わふ」


 そこには今までと違う種類の植物が繁茂していた。


「ありがとう」


 俺は鑑定スキルを発動させる。

 薬草の一種だ。胃腸薬の材料にできそうだ。

 だが、解毒薬の材料ではない。


「これは解毒が終わった後に役立ちそうだ。お手柄だぞ」

「「わふぅ!」」

 フィオとシロは尻尾を振って喜んでくれる。


 俺は胃腸薬の材料を採集して魔法の鞄に入れていった。

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