45 解毒薬を探そう

「ふう。これでよしと」


 建築を終えたところで、ヴィクトルが拠点の外から帰って来た。


「おお……まさか、これは」

「トイレと病舎だ。トイレの近くに病舎もあったほうがいいと思ってな」

「助かります。本当に助かります」


 喜んでもらえたようでよかった。

 他の患者にもトイレと病舎の存在を教えておく。

 皆喜んで、病舎に移っていった。トイレに近いというのが魅力だったのだろう。


「本当はベッドを作ってあげたいのだが……」


 資材が足りない。綿の代わりになるものを手に入れたいものだ。


 そんなことを考えていると、フィオに後ろから袖を引っ張られた。

 フィオは辛そうなヴィクトルたちの姿を見て、心配になったのだろう。

 シロもヒッポリアスも心配そうである。


「びくとう、だいじょぶ?」

「大丈夫だよ。でもしばらくは休まないとだめみたい」

「そか……」


 ヒッポリアスもシロも心配そうにしている。

 治療の指揮を執っているのは、司祭兼治癒術師とケリーである。

 ケリーは医者ではないのだが、生物に詳しいということで治療の指揮を手伝っているのだ。


 俺はケリーの手が空いた隙を見計らって声をかける。


「ケリー。解毒薬は飲ませたか?」

「飲ませたが……あまり効果はなさそうだな。キュアポイズンもな」


 治癒術師も最初に、回復魔法であるキュアポイズンをかけたようだ。

 だが、キュアポイズンは毒によってかけ方が違うので、効果があまりなかったらしい。


 司祭である治癒術師も冒険者。

 冒険者である以上、キュアポイズンも魔物毒に対応するものから習得するのが基本になる。


「テオ。毒赤苺ポイズンレッドベリーの毒についてなんだが……」


 恐らく毒赤苺という名はケリーが名付けたのだろう。

 特徴をよく表しているのでいい命名だ。


「鑑定してくれただろう? 何かわかったことは無いか?」

「俺たちの大陸だと、魔毒シイタケの毒に近いな」


 食用で有名なシイタケに似ているが、毒があるというのが魔毒シイタケだ。

 大量に食べなければ致命的な事態になることは少ない。

 腹痛と下痢、それに発熱がメインの症状だ。嘔吐が出ることもある。


「それならば体力があれば問題ないな。だから先ほど死ぬことは無いと言ったのか」

「そうだ。とはいえヴィクトルが動けない期間が長びくのは避けたい」


 農地の選定だけでなく、他にも色々とヴィクトルが指揮を執ってもらうべきことはある。

 それにいざ魔物と戦闘ということになっても、ヴィクトルはメイン戦力だ。


「毒赤苺向けの解毒薬を作りたい。何かないか周囲を探索してこよう」

「テオは、そこまでできるのか?」

「素材さえあればな」


 俺がそう言うと、ケリーは目を見開いて驚いていた。


 鑑定スキルで素材を探し、製作スキルで薬を作るのだ。

 製作スキルで薬を製作するのは非常に難しい。

 だが、熟練かつ規格外と呼ばれた俺の製作スキルならば可能だ。


「……ヴィクトルがテオを調査団に入れたかった理由がわかるというものだな」


 そしてケリーは毒赤苺を眺める。


「それにしても見た目は一緒なのに中身が全く違う植物とは」

「木の実や山菜を採集した後には鑑定スキルが必須だな。これからは俺が鑑定しよう」


 俺がそういうとケリーは深く頷いた。


「そうだな。テオ。あとで周知しておこう。だが、今は薬探しを頼むよ」

「ああ、任せろ」


 そして、俺はヒッポリアスに声をかける。


「ヒッポリアス、ついてきてくれ」

『まかせて!』

「ふぃお、いく!」「わふ!」


 フィオとシロもついてきてくれるようだ。

 拠点で待っていなさいと言おうか迷った。

 だが、薬草のある場所に、フィオやシロは詳しいかもしれない。


「フィオ、シロ、ヒッポリアス。朝ご飯はちゃんと食べたかい?」

「たべた」「わふ」「きゅお」

「ならよかった。じゃあ、行こうか」


 俺たちは簡単に準備を終えると、拠点を出て森へと向かう。

 いつも、はしゃぎがちなフィオとシロも真面目な顔をしている。


「フィオ、シロ、それにヒッポリアスも」

「わふ?」「あう」「きゅう?」

「何か薬草的なものを見たことがあれば教えてくれ。そちらに向かおう」


 この辺りで暮らしていたフィオとシロは当然この辺りに詳しい。

 そしてヒッポリアスはおやつを探しながら、散歩しているので詳しいかもしれない。


「あち!」

「お、フィオ、案内してくれ」

「わふ!」


 フィオがシロの背に乗って走り出す。

 俺は周囲の植物に鑑定をかけながら追っていく。


 通常、鑑定スキルは手を触れて、時間をかけて分析する必要がある。

 だが、時間がないので、薬効があるか、食用にできるかどうか。

 それだけに絞ることで、走りながら周囲を鑑定し続けることができる。


 こんなことができることも、俺のスキルが規格外と言われる理由の一つなのだ。

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