44 トイレを作ろう

 ヴィクトルは発熱のせいか汗だくで、とてもつらそうだ。


「大丈夫か?」「「わふぅ……」」「きゅお」


 フィオ、シロ、ヒッポリアスも心配そうだ。


「申し訳ない。情けない姿をお見せして……」

「食中毒は仕方あるまい。どうやら新大陸には――」


 新大陸には俺たちの知っている物と同じ外見で全く違う物がある。

 これまで蓄えた知識が通用しないので、こういうことはやむを得ない。

 本当に注意しないといけないようだ。とても恐ろしいことだな。


 そんなことを話そうとしたのだが、ヴィクトルは

「申し訳ない、少しお待ちを……」

 そういって、拠点から少し走っていった。


「トイレか……」

「そうだ。つらかろうな。まだトイレは作られていないゆえな。仕方のないことだが」

 ケリーがそう言って、ヴィクトルの後ろ姿を見送っていた。


「といれ?」


 フィオは首をかしげている。

 トイレはまだ作っていない。ということは、フィオはトイレの存在を知らないのだ。

 フィオも俺もみな拠点から少し離れたところに穴を掘ってしているのである。


「よし、急いでトイレを作ろう」


 俺はさっそくトイレ建設を開始することにした。


「といれ……?」

「フィオ、トイレというのはだな……」


 ケリーがトイレについて説明してくれる。

 シロもヒッポリアスも真剣な表情で聞いていた。


 俺はフィオやシロたちへのトイレ説明をケリーに任せて、材料を運ぶ。


「食中毒事件がなくても早めに作らないといけないものではあったからな」


 食中毒のせいで、トイレの頻度が多くなる。

 一日に何度も何度もトイレに行く羽目になるのだ。

 そのたびに家を出て、歩いて拠点の外に行き、穴を掘って……。

 それは、とてもではないがつらすぎる。

 体力の消耗も激しくなって、治りも遅くなるだろう。


 それに、いつかトイレは作らねばならないものだ。


「フィオ、シロ、ヒッポリアス。この肉を食べといてくれ」


 魔法の鞄から朝ご飯の肉を取り出して、フィオたちに手渡す。

 それだけではフィオたちが食べ始めないので、自分の分も取り出して急いで食べる。


「俺にはやることがあるから急いで食べたけど、みんなはゆっくり食べなさい」


 そして、俺はトイレを作る場所について考える。

 病人の出た宿舎から順にトイレを取り付けるのがいいだろう。


 宿舎の共有部に張り出す形でトイレを取り付けるのだ。

 そして水洗にして、汚物は専用の便槽に貯めることにする。


 パイプを作るのに金属を多く使うが、仕方あるまい。

 貯蔵分の金属は、全部使い切るつもりで整備する。


 そう考えて頭の中で設計図を描いていると、問題にぶち当たった。

 金属の消費量が当初考えていたより多い。

 漏れないようにするため、便槽までのパイプはあまり薄くできない。

 その上、詰まらないように、上水用のパイプほど細くもできない。

 便槽の位置も、あまり拠点の近くだと病気の原因になりかねない。


 そうすると、

「どう計算しても金属が足りないな……」


 こうなったら配置を変えるしかない。

 拠点の中央にトイレを固めることにした。

 便槽への配管は、個々のトイレから、すぐに合流させる形にすれば金属を節約できる。


 今宿舎は拠点の中央を囲む形で並んでいる。

 かまどや井戸などは中央にあるので、トイレは少し離すべきではある。


 かまどは中央の北にあるので、トイレは中央の南に配置しよう。


「便槽やそこにつなげる配管から、漏れが絶対ないよう気合を入れなければ」


 俺の製作スキルの精度が下がれば当然漏れが発生してしまう。

 そうなれば、井戸水が汚染され、悲惨な事態が引き起こされる。

 責任重大だ。


 俺は資材置き場から石材と木材、そして魔法の鞄に入れておいた金属を並べる。

 頭の中で製作物の構想を練る。


 便器とそれを覆う建物。弁槽に水洗のための機構も必要だ。

 そして井戸と便器、便槽と便器をつなぐパイプの整備もしなくてはならない。


 イメージが充分固まると製作スキルを発動させる。

 便槽に便器、パイプの整備。それが終わると建物を建設して終わりである。


「いいものができたと思うが……。金属が無くなったな」


 金属採集の優先順位を上げなければなるまい。



 俺は休まずに、新たに宿舎を作ることにした。

 今、患者たちはばらばらの宿舎に寝泊まりしている。

 同じ宿舎にいるのはヴィクトルと地質学者だけだ。


 ばらばらの宿舎から、トイレまで歩いていくのも大変つらい。

 一日に何度も何度も往復する羽目になるのだ。


 それに看病する方もまとめての方が楽である。


「といれ~」「わふぅ」「きゅおぅ」

「そうだ、これがトイレだ」


 フィオ、シロ、ヒッポリアスにケリーがトイレについて説明してくれていた。


「ヒッポリアスは身体が大きいから使うのは無理だな……」

「きゅぉぅ」

「そうへこむな。フィオ、この便座に座ってトイレをするんだよ」

「わふぅ」「わふ!」

「シロもトイレを使いたいのか?」

「わふう!」


 そんなことを話しながら、フィオとシロはトイレの使い方を教えてくれている。

 あとでお礼を言わねばなるまい。


 一方、俺は新宿舎というか、病舎の建築を進める。

 病舎の建築場所はトイレの近くだ。

 構造は簡単な方がいい。時間も資材も節約したいのだ。

 ということで、ヒッポリアスの家と同じく一部屋だけの構造にする。

 だが、大きさはヒッポリアスの家ほどは必要ない。


 俺は製作スキルを発動させ、イメージを固めて病舎を一気に建築した。

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