41 夕食とおふろ

「ありがとう、凄く助かったよ」


 俺は魔導師の冒険者にお礼を言う。


「気にすんな。テオには、俺たちの方がもっと助けられてるからな」

「ああ、昨日も野宿しなくて済んだし。今日は風呂にも入れるしな」

「風呂なんて数年入れないと覚悟してたぜ!」


 そんなことを冒険者たちが言っている。

 俺は冒険者にもう一度お礼を言って、毛布を取り込み家に入れる。


 家の中で毛布を畳んでいると、風呂場のほうがざわめいた。


「おお……」「すげえ」

「そうだろうそうだろう」


 ケリーがどや顔してそうな声まで聞こえてくる。


「フィオたちが、風呂から上がったみたいだな」

「きゅお」


 俺とヒッポリアスは風呂場の方へと走る。

 そこには身ぎれいにしたフィオがいた。

 もじゃもじゃの髪の毛もきれいに梳かされていて、耳も尻尾もモフモフだ。

 服も靴も、きちんと綺麗なものを身に着けている。

 やっとフィオは、ちゃんとした子供に見えるようになった。


「フィオ、似合ってるじゃないか」

「わふぅ」


 俺が頭を撫でると、フィオは尻尾をビュンビュンと振った。

 モフモフになった尻尾が揺れている。


「ケリー、ありがとう」

「あいあと!」

「気にするな! 服も靴も余りものだからな」


 ケリーとフィオは仲良くなったようだった。


「そして、シロは……」

「わぅ!」


 シロは行儀よくお座りして、こっちを見ている。

 冒険者たちがざわめいたのは、シロを見たからだろう。

 そうすぐに判断できるぐらい、シロは立派な狼になっていた。


「シロも毛並みが良くなって、見事なもんだ」

「わふぅ」


 まだ痩せているが立派な魔狼に見える。

 子狼だが、シロは体長一・五メトルはあるのだ。

 そして、薄汚れた白ではなく、白銀色の美しい毛並みになっていた。


 俺はそのシロの毛を優しく撫でる。


「シロの毛って、白って言うより銀色だったのか?」

「そうらしいな! 私も驚いたよ」


 シロの毛は根元が白く、毛先の方が薄い銀色のようだ。


「汚れていたせいで、白が汚れた灰色に見えていたのか」

「シロは魔白狼の亜種ではないかもしれない」

「ほう?」

「詳しくはまだ何とも言えぬが……。魔白狼より上位種かも知れない」


 シロの毛並みはとても立派なので、そんな気はする。



 その後、俺はヴィクトルや冒険者たちに風呂の使い方を説明した。

 俺の説明が終わると、早速女性陣が入るようだ。


 その間に俺たちは夕食の準備を始める。

 夕食準備の作業中、俺は地質学者に尋ねた。


「この辺りに金属を採掘できる場所はないだろうか」

「金属か。何がいるんだ?」

「パイプを作りたいんだ。だから鉄がたくさん欲しい」

「ふぅむ。鉄はポピュラーな物質だからな。量はともかく探せばあると思うが……」


 少量でいいならば、川で砂鉄を集めれば充分だ。

 だが、それでは量が全く足りない。


黄鉄鉱おうてっこう磁鉄鉱じてっこうみたいな鉱石が採集できる場所があれば、一番なんだが……」


 今のところ、この付近では見つかってはいない。


「やはり、川で砂鉄を集めるしかないか?」

「そりゃ砂鉄はあるだろうが、沢山集めるのは大変だぞ」

「ふむ」

「だが、まあテオのスキルを使えば、集めることは可能かもしれないな」


 そういって地質学者は色々と教えてくれた。

 鉄は比重が重い。だから、うまくやれば土砂と砂鉄を分けることができるという。


「砂鉄を多く含む花崗岩とかが上流にあればよいのだが……」


 花崗岩を砕いて、川に流し比重の差で砂鉄と土砂を分ける手法があるという。

 それに花崗岩が川沿いにあるならば、自然に川底や海岸に砂鉄はたまるらしい。


「砂鉄は重いからな」

「それはいいことを聞いた。明日、川をさかのぼって見に行ってみるかな」

「花崗岩は見分けられるか?」

「俺には鑑定スキルがあるから大丈夫だ」

「そうか。製作スキルとテイムスキルばかり目立っているから忘れていたよ」


 地質学者と相談をしている間に夕食の準備が終わる。

 そのころには女性陣も風呂から上がって来た。


 皆で夕食を食べた後、俺は着替えを持ってヴィクトルたちと風呂へと向かう。


「ヒッポリアス、すまない」

『いい』

「本当にすまないな」


 ヒッポリアスは身体が大きいのでお風呂に入れないのだ。


 俺は心苦しさを感じながら、身体を洗って浴槽に入った。

 すると、先に浴槽に入っていたヴィクトルが言う。


「ヒッポリアスも入れるようなお風呂を作りたいですが……難しいですよね」

「そうだな……。露天風呂を作れば……」


 だが、かなり広い面積を求められる。それにお湯の量も沢山消費する。

 いくら魔道具を使って熱湯をたくさん作っても、貯めている間に冷めてしまうだろう。


「なかなか難しそうですね……」

「そういえば、フィオとシロが少し離れたところに露天風呂があると言っていたな」

「そこなら、ヒッポリアスも入れるかも知れませんね」

「だが、そこはいま魔熊の縄張りらしい。下手に刺激してもな」

「ふむ。それは、厄介ですね」


 冒険者たちとお話ししながら、ゆっくりと入るお風呂はとても気持ちが良かった。

 充分に身体が温まった後、俺はお風呂から上がったのだった。

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