40 家の掃除

 冒険者たちが歓声を上げる中、若い冒険者の一人が近寄って来た。


「テオさん、毛布洗ったんですか? まだ乾いてませんよね」

「ダニを退治の必要があってな。脱水装置も作ったんだが夜までに乾燥させるのは無理だな」

「テオさん、脱水装置ってなんだい?」


 他の冒険者が脱水装置に興味を持ったようだ。

 そこで皆に脱水装置の使い方を教える。


「この石の板二枚の間に洗濯物を挟んで水を絞るんだ」

「この板大きいのに軽いな」

「俺の製作スキルで作った奴だからな。軽くて頑丈な板にしてある」

「きゅお!」

「ヒッポリアスの手が空いていたら、乗って絞ってくれるそうだ」

「おお、それは助かる」


 冒険者たちがヒッポリアスを撫でまくる。

 ヒッポリアスは満更でもないように、尻尾をゆっくりと振っていた。


 そんなことをしている間に、虫よけの香の煙がおさまった。


「ちょっと換気してくるから、ヒッポリアスは外で待っていてくれ」

「きゅお!」


 俺はヒッポリアスの家に入る。嫌な臭いがまだ漂っていた。

 そこで、俺はすべての窓を全開にする。

 気持ちのいい風が吹き抜けていった。臭いもどんどん消えていく。


「……この後処理の簡単さもこの虫よけの香の便利さだよな」


 俺は気持ちのいい風の中、濡らした雑巾で床を拭いていく。

 本当に風が心地よくて、雑巾がけも苦にならない。


 汚れたフィオとシロの泥でついた足跡なども綺麗に拭きとる。

 ヒッポリアスの足跡や尻尾の後もあった。


 これからは家に入る前にシロとヒッポリアスを拭いてやったほうがいいかもしれない。

 フィオには何か履物を用意すべきだろう。


 素材さえあれば、衣服も靴も製作スキルで作れるのだ。

 だが俺には衣服にも靴にも大した知識がない。

 技術あるものが丁寧に作った物には、俺の製作スキルでは勝てないのだ。


 実は家などもそうだ。

 熟練の大工が、いい建材を使い時間をかけて丹精込めて作った建物には勝てない。

 千年使える建物を作りたいなら製作スキルは向かない。


 俺の製作スキルの利点は、その速さと低品質の材料でもいいものが作れる点だ。

 冒険途中で使う分には全く問題がない。

 調査団においても最適なスキルと言えるだろう。


「フィオの靴……草鞋わらじなら、いけるかな」


 靴などは繊細な技術が求められる。

 ほんのわずかな差で靴擦れなどで、痛い思いをする羽目になる。


「うーむ……。冬までには何とかしないとな……」


 フィオの靴は後で作るものリストに加えておこう。


 他にはどんなものを作ろうか。

 各戸に照明を配りたい。

 冬までには暖炉と温水パイプを各戸につなげたい。

 それにキッチン機能を持たせた食堂も作りたい。


「それを考えると、各戸と食堂、それに風呂を廊下でつなげたいな」


 冬の日はもちろん、夏でも雨の日に屋外を移動するのは面倒だ。

 ヒッポリアスの移動を妨げない程度に建物と建物をつなげる方法を考えよう。


「なるべく急ぐか」

 まだ夏だが、油断していると冬はあっという間にやってくる。


「そういえば、近くに魔熊もいるしな……」

 拠点を柵、いや壁で囲いたい。真夜中に襲われたら危ないからだ。


「金属の採掘もしたいな……」


 夕食時にでも地質学者に相談しよう。

 そんなことを考えているうちに、拭き掃除が終わった。


「よし。きれいになったな」


 そして俺はヒッポリアスの家から出る。


「きゅお!」

「ヒッポリアス。臭いが消えたか確かめてくれ」

『わかった!』

「その前に足を拭こう」

『わかった!』


 ヒッポリアスの足を綺麗に拭いて、地面によく触れている尻尾も綺麗に拭く。

 大きいので少し時間がかかった。


「よし、いいぞ」

「きゅぉお」


 ヒッポリアスは元気に尻尾を振りながら、家の中へと入っていく。

 臭いかもと不安がる様子は全くない。

 臭いが消えると言った俺の言葉を心の底から信じてくれているようだ。


「きゅお~~」

「臭かったか?」

『くさくない!』

「そうか、それならよかった」


 ヒッポリアスは、ご機嫌に床をゴロゴロと転がる。


「よーしよしよし」


 俺はそんなヒッポリアスのお腹を撫でる。

 ヒッポリアスは転がるのをやめて、仰向けで尻尾をゆったりと揺らした。


「きゅおきゅぅお」

「ヒッポリアス、今日もおつかれさまだったな」

『ておどーるもがんばった!』

「そうか、ありがとう。そうだ。魔力を上げよう」

『まりょく! ひっぽりあす、ておどーるのまりょくすき!』

「そうかそうかー」


 俺はヒッポリアスに自分の魔力を分け与える。

 テイムしたときに、俺とヒッポリアスは魔力回路がつながっている。

 だから、気軽に魔力を分け与えることができるのだ。


 しばらくヒッポリアスと遊んで外に行くと、干してある毛布の横に冒険者がいた。

 そいつは魔導師の冒険者である。


「テオさん。この毛布、魔法で乾かそうか?」

「それは助かるが、いいのか?」

「ああ。一昨日から、ずっと魔法を使ってないからな。魔力が余っているんだ」

「そういうことなら、頼む」

「任せてくれ」


 冒険者は魔法で熱風を出して毛布にぶつける。

 炎魔法と風魔法の混合魔法だ。魔導師として、かなりの力量である。


「よし、これで乾いたな」


 あっという間に毛布は乾いたのだった。

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