39 ダニ退治

 ケリーは風呂の建物を見て、

「ほほう! これは立派だ」

 と褒めてくれた。


「ありがとう。ケリー、そちらの仕事は大丈夫だったか?」

「ああ、私の仕事は終わっていたからな。ヴィクトルたちもすぐに戻ってくる」

「それならよかった。ところで……」

「わかっている。フィオとシロをお風呂に入れればいいんだろう」

「そうなんだが、頼めるか?」

「もちろん構わない。少し待っていてくれ」


 そういうと、ケリーは自分の宿舎に走っていく。

 そして、すぐに荷物を抱えて戻って来た。


「よし、フィオ、シロ! 風呂に入るぞ!」

「「わふ!」」

「ケリー。道具の使い方を教えよう」

「頼む」


 俺はケリーとフィオとシロに風呂場の使い方を教える。

 お湯の出し方や温度調節の仕方などだ。


「ほほう。これは便利だな」

「すごい」「わふ!」


 ケリーはすぐに使い方を理解してくれたようだ。


「じゃあ、頼む。困ったことがあったら言ってくれ」

「ああ!」

「「わふわふぅ!」」


 フィオとシロは嬉しそうに尻尾を振っていた。

 よほどお風呂が楽しみだったとみえる。


 俺はフィオたちをケリーに任せて建物を出る。

 そしてヒッポリアスと一緒に家へと戻った。


「掃除をしよう」

『そうじ?』

「うむ。ダニが落ちてそうだからな」

「きゅおー」


 俺は魔法の鞄から、虫よけのお香を取り出した。

 そして五枚ほど皿をだして、皿の上にお香を乗せて家の四方と中央に置いて火をつける。

 煙がモクモクと上がり、ツンとした強い臭いが漂い始めた。


「臭いが虫よけにはこれが一番だからな……」

『くさい!』

「そうなんだ。臭いんだ。ヒッポリアス、一緒に外でしばらく待とう」


 嗅覚の鋭い動物にとってはきつい臭いだ。

 人間なら臭いと感じるが、我慢できなくはない程度である。

 人体には害はないのだが、結構きつい。


「煙すごいですね。どうしたんですか?」


 ヒッポリアスの家から煙が漏れているのを見て、若い冒険者が走って来た。


「虫よけだ。フィオとシロがダニを連れて来たからな」

「ああ、あれですか。噂で聞いたことあります。臭い奴ですね」

「ああ、臭い奴だ」


 この虫よけの香は冒険者たちの間では、その臭いで有名なのだ。


「俺の持っている香なら、そんなに臭いはきつくないですけど使いますか?」


 若い冒険者は、そんなことを言ってくれる。

 だが、ベテランがその若い冒険者の肩に手を置いて言う。


「臭いがきつくない奴はな、ダニたちにとってもきつくないんだよ」

「そうなんです?」

「ああ。その香は気休め程度だ。だがテオさんが使った香は本当に効果が高い」


 非常に臭いが、その効果の高さから未だにベテランたちの間では根強い人気があるのだ。


「久しぶりに嗅いだ気がする。懐かしいな」「ぶおおお」

「ああ、俺ぐらいになると、この臭いを嗅ぐと落ち着くぐらいだ」

「さすがに、それはおかしいだろ」「ぶおおおぅぅ」


 冒険者たちは笑いあっているが、ヒッポリアスは「こいつらおかしい」と鳴いていた。

 そのぐらいヒッポリアスにはあり得ない臭いなのだろう。


 それから、ヒッポリアスは「きゅうぅ」と不安そうに鳴きながら俺のもとに来る。

 俺はそんなヒッポリアスの下あごを撫でまくった。


「大丈夫。臭いはきついが残りにくいからな」

『ほんと?』

「うむ。煙が消えてから、換気すれば、大丈夫だ」


 人間なら換気しなくてもほとんど気付かないレベルで臭いは消える。

 嗅覚の鋭い魔物でも、換気さえすれば大丈夫だ。

 かつて従魔にした嗅覚の鋭い竜がそう言っていたので間違いない。


「一応換気した後、拭き掃除もするから臭いは残らないはずだ」

『わかった』


 かすかに臭いが残っていたとしても拭き掃除で消える。

 ダニの死骸もきれいにできるから安心だ。


 俺がヒッポリアスと数名の冒険者たちでモクモク出る煙を眺めていると、

「火事かと思ってびっくりしましたよ」

 そういいながら、ヴィクトルがやって来た。


 ヴィクトルは少し息が上がっている。

 煙を見て急いで駆けつけてくれたのだろう。


「ヴィクトル、驚かせてすまない。仕事の邪魔してしまったか?」


 事前に連絡すべきだったかもしれない。


「いえいえ。仕事が終わって帰っている途中で気づいたので問題はないです」

「それならよかった。でも驚かせたのはかわらんな。今度からはなるべく事前に言おう」

「お願いしますね。これは虫よけですね。私も持っていますよ」

「やっぱり効果は一番だからな」

「ええ。この煙の量、結構な量を炊いたのですね」

「ヒッポリアスの家は大きいからな」


 そんな話をした後、ヴィクトルは風呂の建物の方を見る。


「おお、思っていたより立派なものができましたね」

「ヴィクトルが魔道具を貸してくれたおかげだ」

「お役に立てたのなら何よりです」

「いま、ケリーにフィオとシロを洗ってもらっているんだ」

「それがいいでしょう。フィオさんとシロは衛生上あまり良くない状態でしたからね」

「フィオたちが出てきたら、風呂場の使い方を皆に教えよう」


 すると冒険者たちは歓声を上げた。

 みな、お風呂に入りたかったのだろう。やはりお風呂は気持ちいいのだ。

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