38 毛布の洗濯

「風呂に入りたいところだが……」

「はいる!」「わふぅ!」


 フィオとシロはぴょんぴょん飛び跳ねて尻尾を振っている。


「特にフィオとシロは、早くお風呂に入るべきだが……」


 フィオの替えの服がない。

 俺の荷物から適当な布を持ってきて加工するのは可能ではある。

 だが、ちゃんとした服をケリーは持っていると言っていた。

 せっかくなら、その服を着せてあげたい。


「ふぃおはいる!」「わふぅ」

「いや、替えの服がないからな……。ケリーに言って、服をもらってからだな」

「もらてくる!」「わふわふぅ!」


 フィオはシロの背にぴょんと飛び乗ると、走っていった。

 やはりシロはとても走るのが速い。あっというまに見えなくなった。


「さて俺は毛布でも洗っておこうかな」

『てつだう?』

「大丈夫だよ」


 昨日フィオとシロが使った毛布が、ヒッポリアスの家にある。

 フィオとシロにはノミとダニが結構ついているのだ。

 洗濯しておかないと、体を洗ってもまたノミダニがついてしまう。


 俺はヒッポリアスの家に行き、フィオとシロの毛布を回収する。

 そして俺の使った毛布もついでに回収した。

 それをお風呂の洗い場の隅に作った洗濯場にもって行って洗うのだ。


「ヒッポリアス、待っていてくれ」

「きゅぅ」


 ヒッポリアスがさみしそうに鳴く。

 早く、ヒッポリアスも入れるお風呂を作ってやりたいものだ。


 俺は毛布を持ったまま洗い場へ行くと、洗濯槽に毛布を放り込む。

 そして熱湯を注ぎこんだ。これでダニもノミも死ぬだろう。

 それから棒を突っ込んで、じゃぶじゃぶする。

 お湯がどんどん黒くなっていく。


「こんなに汚れてたのか……」


 この毛布は長い間洗濯もせず使い込んでいた。

 その長年の汚れだろう。


 お湯をいったん抜いて再びお湯を入れた。そしてじゃぶじゃぶする。

 それを二回繰り返すと、お湯がさほど汚れなくなった。


「このぐらいでいいか」


 熱湯を抜いてから、蛇口をひねって冷水を流す。

 栓はせずにそのまま排水しておく。


 その間に俺は裸足にになり足を洗ってから、洗濯槽に入る。

 足で毛布を踏んだ。踏むたびに汚れた水が流れていく。


「……なんか楽しくなってきたな」


 毛布を踏むのは楽しいのだが、水が冷たいので足が冷える。

 汚い水があまりでなくなったところで洗濯を終える。


 軽く足で踏んで水を絞ってから持ち上げる。

 それでも洗濯前に比べたら相当重くなっていた。

 重くなった分は水である。乾かさなければなるまい。


 お風呂の建物から、外に出るとヒッポリアスが待っていた。


「待っててくれてありがとうな」

「きゅお」

「ヒッポリアス、背中を借りていいか?」

『いい!』


 俺はヒッポリアスの背中を綺麗に拭いて、毛布を掛けた。


「きゅう~~」

「冷たかったか?」

『だいじょぶ』

「急いで物干し台を作るから待っていてくれ」

『わかった!』


 ヒッポリアスが集めて来てくれた材木を使って、物干し台を作ることにする。

 構造は単純なので、製作スキルを使えば一瞬で製作できるのだ。


「これでよしと。頑丈な物干し台ができたな」


 しっかりしたものを製作することができたので、これからも使えるだろう。

 俺はヒッポリアスの背中から、物干し台に毛布を移す。


「きゅおー」

「どした?」

『かわく?』

「……それは難しそうだな」


 今が午前中なら日没までに乾燥しただろう。

 だが、今は日没まで二、三時間と言ったところだ。乾かないだろう。


「脱水する道具でも作ろうか……」


 俺は余った石を持ってきて並べる。

 それを製作スキルを使って、二枚の大きな平らな板へと変形させる。

 さらに靭性をあげて、砕けにくいようにする。


『なにこれ?』

「洗濯物を絞る道具だよ」

「きゅお?」


 首をかしげるヒッポリアスの頭を撫でてから、二枚の毛布を板の間に挟む。 

 毛布は綺麗に折りたたんで、二枚を並べる。


「ヒッポリアス、そーっと板の上に乗ってくれ」

『わかった!』


 ヒッポリアスはゆっくりと板の上に乗る。

 重い体重に押しつぶされて、水が毛布から出てきた。

 結構な水がジャバジャバ出てくる。


「思ったより出るもんだな……。流石ヒッポリアス」

「きゅお!」


 俺が褒めるとヒッポリアスはぶんぶんと尻尾を振る。

 すると体重移動が起こるのか、水がさらに出た。

 しばらくすると、水が出なくなる。


「よし、ヒッポリアス降りてくれ」

「きゅ!」


 ヒッポリアスにどいて貰って、毛布を取り出す。

 持ち上げてみると、先ほどより大分軽くなっていた。


「うん。かなり絞れたな。ヒッポリアスありがとうな」

「きゅお!」


 改めて毛布を物干し台にかける。

 だいぶ絞れたと思う。それに今日は天気もいいし、風もある。乾きは早い方だろう。

 それでも、日没までに乾燥が間に合う気はしない。


「今日一日ぐらいなら、毛布なしでもなんとかなるかな」


 ダニ問題さえなければ、洗濯を明日に回せたのだが仕方がない。


 俺がヒッポリアスと一緒に毛布を眺めていると、

「てお!」「わふぅ」

 フィオとシロ、ケリーが帰って来た。

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