37 風呂づくり その3

 俺が魔道具を組み込む給水機構について考えていると、冒険者が言った。


「それにしても、ヴィクトルさんはそんな魔道具も持ってきているとは準備がいいですね」

「これは相当便利な魔道具だぞ」

「お風呂にお湯を張るには便利だけど、お湯自体は魔道具なしでも作れますし……」

「そんなことないぞ。これは凄く便利だ」


 風呂以外でも、お湯は生活で色々使う。冬になれば消費量も多くなるだろう。

 水を温めるのは魔道具じゃなくても出来る。

 火を起せば簡単だ。だが、火を起こすには燃料がいる。


 調査団の使うお湯全て分の燃料の量ともなると、かなりの量だ。

 大量の燃料を作る労働力も少ないものではない。


 木を倒して運んで、細かく切って乾かして燃料にしなければならないのだ。

 ヒッポリアスがいるから倒して運ぶという労力は楽になった。

 だが、出航前にはヒッポリアスが仲間になってくれるとは誰も思っていなかった。


「燃料と労働力の節約のために、これをヴィクトルは持ってきたんだろうな」

「なるほどー」「「わふぅ~」」「きゅお~」


 冒険者とフィオ、シロ、ヒッポリアスが感心した様子でこくこくと頷いていた。

 その後、冒険者は他の冒険者に呼ばれてどこかへ行くことになった。

 彼らにも彼らの作業があるのだろう。


「じゃ、俺はこれで!」

「ありがとう。助かったよ」

「あいあと!」「わふわふ!」「きゅおぅ~」


 俺がお礼を言うと、フィオたちもお礼を言う。


「いえいえ! いつでも言ってくださいよ!」


 冒険者は照れながらそんなことを言って、走っていった。 



 そして俺は作業に戻る。

 まずは鑑定スキルで地下の水脈を改めて調べる。

 川が近くにあるおかげで、拠点の地下には水脈は豊富なのだ。


 目星をつけて一気に製作スキルを発動。

 先ほどの井戸づくりと基本的に途中までは同じ。

 水を汲みあげる機構も、井戸づくりとほとんど同じだ。


 だが、水の汲み上げ量を井戸よりも増やしてある。

 井戸に比べて、パイプを太くして、ポンプも大きく作った。


「さて……。ここからが少し面倒だな」


 まず水が流れるラインを二つに分ける。

 一つは冷水用。もう一つは温水用ラインだ。

 冷たい水を風呂で使いたいときに、外の井戸から持ってくるのは大変だからだ。


「冷水はこの場で使う分だけだが……、温水は冬までに各戸に配りたいよな」


 かまどでも、温水を使えるようにしたい。

 それに今はかまどだけだが、そのうちキッチン兼食堂の建物を作りたいものだ。


「温水は拡張性を残さないとな……」


 今は加工用の金属の量が充分ではないので、拠点中にパイプを張り巡らすのは難しい。

 とりあえず、湯船と洗い場にパイプを通せばいいだろう。


「ついでに洗濯も出来るようにしておこうか」


 洗濯は川でやるのが一般的だが、川の水は夏でも冷たい。

 冬になったら、とてもではないが耐えられる温度ではなくなる。

 無理に洗濯したら凍傷になりかねない。


 身体を洗う場所で、ついでに洗濯も出来るようにしておこう。


 洗い場の端に蛇口を取り付けて、一辺二メトルほどの洗濯槽を取り付けることにする。

 金属を予定より多く消費してしまうことになりそうだ。


「あとで、地質学者に金属がありそうか聞いてみるか……」


 もし冬までに金属が集まらなければ、工夫して何とかするしかあるまい。

 それについては、後で考えよう。


 今は風呂の完成が最優先だ。


 まず温水用ラインにヴィクトルから預かった魔道具をとりつける。

 この魔道具を通った水は全て沸騰寸前まで熱くなるのだ。


「ということは、パイプの太さを魔道具以降は太くしないと破裂するよな……」


 熱膨張というやつである。太さも計算してどんどんパイプをつなげていった。

 温水パイプに並行させる形で、冷水パイプも敷設していく。


 魔道具の直後の位置でパイプを分岐させて栓をしておくのも忘れてはいけない。

 拡張性を維持するためである。


 パイプの敷設を終えると、動かして本当に流れているか確かめてみた。

 無事、計算通りにお湯と水が流れた。これで安心である。


「ついでに浴槽にお湯もためておくか」


 お湯を貯めるにはしばらく時間がかかる。

 その間に俺は建物を建築することにした。


 建物は特に珍しいことはしなくていい。

 大きさと構造を決めれば、あとは建てるだけだ。

 材料もヒッポリアスが獲ってきてくれた材木が充分にある。


「湿気を逃すために、風通しを良くするために窓もつけておかなくてはな」


 とはいえ窓にガラスは使わない。外から見えないようにするためだ。

 ガラスを作るのが一番大変なので、宿舎を建てるよりも楽なぐらいだ。

 冬のために暖房設備も取り付けられるスペースも準備しておくことにした。


「……さて」


 やることが決まれば、後は精確なイメージづくりだ。

 俺は集中してイメージを構築する。

 そして一気に製作スキルを発動し、建物を建築する。


 宿舎同様、下から上に積み上げるようにして建てていく。


「よし、完成だ」

「「わふぅ!」」「きゅおおきゅおおー」


 フィオもシロも、ヒッポリアスもとても嬉しそうだ。

 ヒッポリアスは入れないから可哀そうだ。あとで外の温泉に連れて行ってあげたい。


「ヒッポリアスごめんな、ヒッポリアスが入れるお風呂を作るのは難しかった」

『だいじょぶ!』

「今度、外にあるというお風呂に行こうな」

『いく!』


 予定より早く風呂が完成した。だから、まだ夕方まで時間がある。

 ケリーやヴィクトル達、農地調査班は、まだ拠点に帰ってきていなかった。

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