36 風呂づくり その2

「フィオ、シロの背に乗ったりするんだ……」


 フィオがシロの背に乗るのは初めて見た。


 フィオは五歳児並み。シロの体長は一・五メトルほどだ。

 狼の体長は頭からお尻までの長さ。尻尾の長さは体長には含めない。


 シロの方がフィオより大きい。そしてシロは力がものすごく強い。

 フィオを乗せるぐらいシロにとっては、大した負担ではないのだろう。


「さて……」


 俺はフィオたちを見送ったので、作業に戻る。


「給水設備はフィオたちが帰ってから考えるとして……」


 魔道具があるかないかで根本的に構造が変わる。

 あるかないか確認してから、考えた方がいい。


「とりあえず、排水機構を作っておくか」



 とりあえずは洗い場からの排水である。


「うーん。生活排水。調理場の排水とトイレの水なども処理する方法を考えねば……」


 とりあえずは大きな水槽を作って溜めればいいだろう。

 それに川に流せるぐらい綺麗な水へと浄化する機構を取り付けねばなるまい。


「とりあえず、下水槽だけ作って、浄水機構は明日作るか」


 俺はさっそく下水槽の製作に入る。

 構造も簡単だし、既に材料も全て集まっている。


 決めるのは下水槽を配置する場所だけだ。

 後々、トイレの下水も流す予定なので、拠点のすぐ近くではない方がいいかもしれない。

 臭いが漂ってきたら困る。


 そして流す以上、拠点より低い位置にある方がいい。

 あとで浄化機構を取り付けることを考えると、広めのスペースも欲しい。


「うーん、この辺りにするかな」

「きゅお」

「ヒッポリアス、申し訳ないんだが、材料を運ぶのを手伝ってくれ」

「きゅ!」


 俺とヒッポリアスは拠点へと戻る。

 俺は魔法の鞄に石をいれて、ヒッポリアスには大きめの石を口で運んでもらった。


 おかげで材料運びはすんなり終わった。


「ありがとうな、ヒッポリアス」

「きゅお!」


 お礼にヒッポリアスをたくさん撫でてから、俺は下水槽の製作に入る。

 構造も簡単なのでイメージも難しくない。


 材料を並べて一気に作る。

 ケイ素の多く含まれる石を使って、ガラス質の層を作って水漏れしないように気をつけた。

 開閉可能な広めなふたを取り付けて、メンテナンスも可能にする。


「あとはこの下水槽にパイプをつなげればいいな」

「きゅお!」


 ヒッポリアスと一緒に拠点へと戻ってパイプを作る。

 金属の在庫は無限ではない。節約しながら作っていく。


「大量の金属があれば便利なんだが……」


 いま在庫を気にせず使える材料は石と木しかない。

 基本はそれで何とかするしかないのだ。



 俺は洗い場と浴槽からの排水パイプを下水槽へとつなげ終えて拠点へと戻る。


 すると、ヴィクトルに聞きに行ってくれた冒険者が戻って来ていた。

 フィオとシロも一緒である。


「待たせたか。すまない」

「いえ、待ってないですよ!」「ただま!」「わふぅ!」

「それで、どうだった?」

「ヴィクトルさんが、これをテオさんに渡してくれって」

「おお、水を温める魔道具があったのか」


 それは一辺〇・五メトルの金属製の立方体だった。

 立方体の上下にはパイプを接続できそうな場所がついている。


「ヴィクトルさんは、渡すのを忘れていましたと言っていました」


 うっかりするとはヴィクトルらしくない。


「きっと、ヴィクトルさんは、魔道具作りのための材料がないことを忘れていたんでしょうね」

「説明したことはあるんだがな……」

「はい、ヴィクトルさんも知っていたはずですが、ついうっかりしたんでしょう」

「ヴィクトルは忙しいからな。決めることもたくさんあるし」

「たしかに!」


 俺と冒険者が話している間、フィオとシロは四角い箱をじっと見つめていた。

 ヒッポリアスもフィオとシロの横に並んで目を輝かせている。

 フィオもシロもヒッポリアスも好奇心が強いのだ。


 だから、俺はみんなにもみえるようにして、四角い立方体を観察する。


「持ってみると凄く軽いんだな」

「はい。だから走って来れました」


 軽いということは、中空ということだ。

 中に水を通すのだろう。


「とりあえず、鑑定スキルだな」


 俺は立方体に鑑定スキルを発動する。


「あ、なるほど。これは随分と高性能な魔道具だな」

「高性能っていうと、やっぱり高価なんですか?」

「ああ、相当高価な品だ。これ一つで王都に屋敷が建つかもしれない」


 俺がそういうと、冒険者は一瞬固まった。

 フィオたちは、屋敷の値段とかわからないので、首をかしげている。


 驚愕から立ち直った冒険者が言う。


「……水を温めるだけなのに、そんなに高いんですか?」

「同種の魔道具の中でも、ものすごく効果は高い。結構な量の水を一瞬で沸騰させられる」

「結構な量って具体的には?」

「この立方体と同じぐらいの量はいける」

「へー?」


 冒険者には凄さがわからないようだ。

 水をこの魔道具に通せば、熱湯になって出てくるのだ。

 風呂の水を溜めるのにもさほど時間はかかるまい。

 実際にやって見せれば、冒険者も凄さに気づくだろう。


 だから、俺はヴィクトルの魔道具を組み込んだ装置を作ることにした。

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