35 風呂づくり
風呂の製作と一言で言っても、やることは色々だ。
作らなければならないのは浴槽、洗い場、水供給機構といった直接的な風呂要素。
他には風呂に付属する脱衣所や、それらすべてを覆う建物もいる。
露天風呂もあったほうがいいかもしれない。
「まずは……浴槽からだな」
浴槽から作ったほうが、なんとなく作りやすい気がしたからだ。
すると、フィオが首を傾げた。
「よくそ?」
「あったかい水を貯める場所のことだ」
「おゆ!」
フィオは、お湯に触れたことがないかもしれない。
だから、お湯という言葉はわからないかもと思ったのだが杞憂だった。
「そうだ、お湯を貯めるんだよ。そこに入ると気持ちいいんだ」
「おゆ!」「わふぅ!」
フィオとシロは尻尾をばっさばっさと揺らしている。
どうやら、凄く楽しみにしているようだ。
「フィオもシロもお湯に入ったことあるのか?」
「ある!」
「ほほう? どこで入ったんだ?」
「あち!」
そういって、フィオは遠くを指さす。
方向は川や海と逆方向。山の方である。
「あっちにお湯が溜まっている場所があるのか?」
「ある!」「わふぅ」
フィオもシロも天然の温泉が湧き出ている場所を知っているようだ。
そして、フィオもシロもお風呂に入るのが好きらしい。
その割には、フィオもシロも、汚すぎる気がする。
「よく入るのか?」
「……ない」「……わぅ」
予想した通り、最近はお風呂に入れていないらしい。
シロが言うには、熊の縄張りになったから近づけないようだ。
「なるほどな。大変だったな」
「「わふぅ」」
「フィオは濡れた体をどうやって乾かしていたんだ?」
「わふぅ~。なめた。みなあたかい」
どうやら、温泉から上がったフィオを狼たちがぺろぺろ舐めたようだ。
そして、その後は群れのみんなが寄り添ってくれたらしい。
狼たちが暖めてくれたのなら、風邪もひくまい。
群れが全滅してからは、シロしかいない。
皆で団子になって温まるというのも難しい。
そのうえ天然温泉のあったあたりが魔熊の縄張りになってしまった。
フィオもシロもそれで汚くなってしまったのだろう。
「ぴゃ」
「おお、ヒッポリアス戻って来たのか」
『もどった。ておどーるてつだう?』
「んー、今は大丈夫だ。ありがとうな」
そういうと、ヒッポリアスはフィオとシロを舐めたりしはじめた。
面倒を見てくれるつもりなのだろう。ありがたいことだ。
おかげで俺は浴槽づくりに集中できる。
材料を並べて、浴槽の形をイメージしていく。
なるべく大きい方がいい。
本当はヒッポリアスも入れるぐらいの大きさにしたい。
だが、それは流石に、資材的にもスペース的にも難しい。
十人は楽に入れるぐらいの浴槽のイメージする。
五メトル四方もあればいいだろう。深いところと浅いところを作る。
形が決まれば使う材料の量も決まる。
集めた素材の量も考えながら、何を使って浴槽を作るか決める。
熱が冷めにくい素材がいい。たくさんのお湯を温め直すのは大変だからだ。
「耐久性は石の方が高いが……。木の方が熱伝導率が低いんだよな」
ならば木で浴槽を作るといいかもしれない。
だが、木の場合、耐久性には不安が残る。
毎日、水を抜いてきちんと洗って、乾燥させたらそう簡単に痛んだりしない。
そう昔、風呂作り職人に聞いたことがある。
だが、大型の浴槽だ。毎日お湯を抜くのも大変だ。
「中空の構造にするか」
身近な物質の中では、空気の熱伝導率の低さは圧倒的だ。
中空にすると一気に冷めにくくできる。
「中空構造の石で浴槽を作ればいいか。底面補強は木でやろう」
浴槽の底面の面積は五メトル四方ほどになる。
中空構造だけだと、割れやすいかもしれない。
底面を支えるために、中空構造の中に木を加工して適度に並べればいいだろう。
純粋な中空よりは熱伝導率が上がってしまうが、強度を重視したほうがよい。
石の中にケイ素で一枚のガラス状の板を挟み込めば水も漏れまい。
製作スキルをつかえば、継ぎ目の全くない物を作れる。
中の木が腐ることも防げるだろう。
形と素材と構造が決まったので、イメージ構築に入る。
できるだけ精確にイメージした後、一気に製作スキルを発動させた。
見る見るうちに浴槽ができていく。
構造に少し複雑にしたので、多少時間はかかったが、無事完成した。
「うむ。いい感じだ」
「わふぅわふぅ!」
フィオは興奮気味だ。どんどん浴槽が完成していくさまは面白かったのだろう。
「次に洗い場を作って、給水機構と排水機構だな……」
洗い場は難しくない。一気に作る。
石を素材にして床を作る。そこに少し傾斜をつけて水はけをよくした。
滑らないよう、あまりつるつるにしないように気を付ける。
「次は給水機構か……」
給水機構だが、途中までは先ほどの井戸とほぼ同じだ。
だが、大切なのは水を温める機能だ。
「一気に水を温めることができる魔道具でも作れたらいいんだが……」
俺の製作スキルで魔道具を作ること自体は出来る。
だが、魔道具ともなると、特殊で高価な材料が沢山必要になる。
そして、その材料は手持ちにはない。
魔道具なしで、一旦、水を溜めて加熱させる装置を考える必要がある。
「……ヴィクトル、何か持ってないかな?」
「ふぃお、きてくる!」
「いや、大丈夫だ、ありがとうな」
フィオの言葉はたどたどしいので、俺じゃないと正確に読み取るのが難しい場合がある。
「じゃあ、テオさん、俺が聞いてきますよ」
近くで作業していた冒険者がそう申し出てくれた。
「すまない。頼む」
「いえいえ。お安い御用ですよ」
だが、今ヴィクトルがどこにいるのか、探すのに手間取るかもしれない。
「フィオ、シロ、ヴィクトルのところまで案内してあげてくれ」
「わかた!」「わふ」
シロは鼻がいい。ヴィクトルの位置も正確に見つけ出すだろう。
そして、フィオは、シロの通訳だ。
「いく」「わふ!」
フィオはシロの背に乗って走り出す。その後を追って、冒険者は走っていった。
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