42 二日目の夜

 お風呂の建物から出ると、ヒッポリアス、フィオ、シロが待ってくれていた。

 ヒッポリアスの背中にフィオとシロが乗っていた。

 仲良くなったようでよかった。


「きゅお」「「わふぅ」」

「待っててくれたのか、ありがとう」


 俺はヒッポリアスとフィオとシロを順番に撫でまくる。

 そんなことをしていると、俺はふと下水槽を確認したくなった。

 全員が風呂に入り、排水機構が使用された。

 稼働初日ということもあり排水機構がうまく機能しているか俺は確認したくなったのだ。


「ちょっと、下水槽を見てくる。留守番していてくれ」

「いく!」「わふぅ」「きゅお」

「ありがとうな」


 フィオ、シロ、ヒッポリアスがついて来てくれるようだ。

 拠点より少し低い場所にある下水槽に到着すると、俺はふたを開けて中を確認する。


「うむ。きちんと流れてきているようだな」


 三日後、いや四日後にはあふれるだろう。

 下水をそのまま川に垂れ流すわけには行かない。

 急いで下水を川に流せるレベルまで処理する槽を作り上げなければなるまい。


「最優先で作らないといけないかもな」


 俺は処理槽をどう作るかについて考える。

 複雑な機構になりそうだ。


 そんなことを考えていると、「わふぅわふぅ」というフィオの声が聞こえて来た。

 声の方を見ると、ヒッポリアスの尻尾にフィオがしがみついていた。

 そしてヒッポリアスは尻尾をぶんぶんと振っているのだ。

 フィオもヒッポリアスもすごく楽しそうである。


 楽しそうで何よりだと思ったのだが、ヒッポリアスの尻尾の速度が少しだけ早くなった。

 ヒッポリアスも楽しくなってはしゃいでしまったのだろう。


 フィオはすっぽ抜けて、声を上げながら飛んでいく。


「わふぅぅうう」


 俺はフィオを受けとめるために走るが間に合いそうもない。

 だが、フィオの近くにいたシロが走る。シロも速いが間に合わない。


 俺はフィオが怪我をするのを覚悟した。

 だが、フィオは「わふうううぅ!」と言いながら、両足で着地する。

 そのまま、ズサーっと靴を滑らせて止まる。転びすらしなかった。

 なかなかの身体能力だ。


「……すごいな」

「きゅお……」


 ヒッポリアスはしょんぼりと尻尾をたらす。反省しているようだ。


「フィオ、大丈夫か?」

「だいじょぶ! わふぅ!」


 フィオは走って戻ってくると、ヒッポリアスの尻尾にしがみつく。

 また、ヒッポリアスに尻尾をぶんぶんしてもらいたいらしい。


「……危ないからほどほどにしなさい」

「わふ」

「それにもう日が暮れるからな、家に戻ろう」

「わかた」


 そして、俺たちは拠点へと戻る。

 フィオは尻尾にしがみついたまま「きゃっきゃ」と喜んでいた。


「さて、そろそろ寝るか。フィオたちは眠たいか?」

「だいじょうぶ!」「わふー」


 フィオはヒッポリアスの尻尾にしがみついたままだ。


「ヒッポリアスは?」

『ねむくない!』


 どうやら、ヒッポリアスたちは、まだ遊びたいようだ。

 だが、既に太陽は沈み切っている。

 照明はあるが、燃料がもったいないので、日没後は寝るに限る。


「とりあえず、家に戻ろうか」

「きゅお~」「もどる!」「わふ」


 ヒッポリアスの家に入るまえにヒッポリアスとシロの足を拭く。

 ヒッポリアスの尻尾はフィオが拭いてくれた。


 それが済むと、俺が教えていないのに、フィオは靴を脱いで部屋に上がる。

 ケリーに教えてもらったのだろう。


「ベッドができるまでは土足じゃない方がいいよな」

「うん」


 ベッドができるまでは、床がベッドのようなものである。


「そういえば、ベッドも作らないとな」

「ベド?」

「寝るための台みたいなやつだ。そういえば、臭いはどうだ?」

「におい?」

「フィオたちがお風呂に入っている間に、とても臭い虫よけの香を焚いたんだよ」

「だいじょぶ!」「わふ」


 どうやらフィオもシロも臭いとは思っていないようだ。

 何よりである。


「フィオ、シロ。毛布も洗ったんだ。どうだろうか?」

「もふ!」「わふぅ」


 フィオとシロは畳んであった毛布を広げて、その上で転がった。


「きもちいい」「わふわふ!」


 フィオもシロも上機嫌だ。


「それはよかった」


 俺も自分の毛布を床に敷く。

 するとヒッポリアスが顎の先を毛布端に乗せてきた。

 大きな毛布だが、ヒッポリアスが全身を乗せるには狭い。

 だから、ヒッポリアスは顎の先だけで遠慮しているのだ。


「ヒッポリアスのためにも大きな毛布作ったほうがいいかな」

「きゅお」

「夏とはいえ、夜は少し冷える。寒くはないか?」

『だいじょぶ』

「そうか。寒く感じたら言うんだぞ」

『わかった~』


 俺が横たわると、ヒッポリアスはあごの先を俺の方へと寄せてくる。

 子供だから甘えたいのだろう。だから、たくさん撫でてやった。


「きゅお~」

 口を開けるので、口の中や舌も撫でる。

 そんなことをしていると、ヒッポリアスは寝息を立て始めた。

 ヒッポリアスも、一日働いたので疲れていたのかもしれない。


 俺はフィオたちの方を見る。

 フィオたちはすでに眠っていた。

 昨夜と同じく、フィオはシロに包まれるような形で気持ちよさそうに眠っている。


 ヒッポリアスもフィオもシロも眠くないと言ってはいた。

 だが、やはり疲れていたのだろう。


 フィオとシロは久々に風呂に入って温まって綺麗になったのだ。

 眠くなっても仕方ない。


「俺も眠るか」


 そして俺はヒッポリアスを撫でながら、眠りについた。

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