26 井戸とおふろの材料集め

 そして、俺は調査団を見送るとすぐに上水設備を整えることにした。


「さて、ヒッポリアス手伝ってくれ」

「きゅ!」

「おれは?」「わふ」

「フィオとシロは見学だ」

「わぅ……」「わふ……」


 フィオとシロが、なぜかしょんぼりする。

 もしかしたら、なにか手伝いたかったのかもしれない。


「フィオもシロも、ゆっくり遊んでいていいんだよ?」


 過酷な環境でサバイバルしてきたのだ。しかもフィオもシロもまだまだ子供。

 お兄さんぶっているシロも群れが健在なら兄弟姉妹たちと遊んで暮らしていたはずだ。


「やる」「わふ!」

「そうか……。やる気は充分か。なら、警戒を頼む」

「けいかい?」「わふぅ?」

「俺とヒッポリアスは色々作業がある。その間、敵が来ないか見張っていてくれ」

「わかた」「わうぅ!」


 フィオとシロは嬉しそうに尻尾を振った。

 そんなフィオとシロをヒッポリアスがぺろぺろ舐める。

 ヒッポリアスはフィオとシロの兄貴分的な立ち位置のつもりなのだろう。


「じゃあヒッポリアスは昨日と同じく木を集めてくれ」

『わかった!』


 ヒッポリアスは元気に走り出す。

 そして、俺は周囲を回って石を拾っていく。

 石は重い。集めるのは重労働だが、魔法の鞄を使えば効率化できる。


 フィオとシロが俺の周囲を回って警戒してくれているなか、俺は石を集めていく。

 だが、付近のめぼしい石は大体拾ってしまっている。


「河原に行ったほうが早いな」

「わふ?」


 俺はフィオとシロを引き連れて、近くの河原まで移動する。

 川幅は七メトルほど。さほど深くもなく、流れも緩やかだ。

 そして、河原には大小さまざまな石が転がっていた。


「さて、大きめの石を拾うか。滑らかな石もいいな」


 井戸を作って風呂も作るのだ。石はいくらあってもいい。

 俺はどんどん魔法の鞄に石を放り込んでいった。

 するとフィオとシロが目を輝かせて、じっと見つめてくる。


「どうした?」

「いぱいはいる」「わぅ」

「ああ、この鞄か。これは魔法の鞄っていうんだ」

「まほのかばん」「わふぅ」

「そう、魔法の鞄。魔法をかけた特別な鞄なんだ」

「まほ」

「そうそう。見かけ以上に沢山入るし、重い物を入れても重くならない。そして……」


 俺は魔法の鞄から、焼き立ての肉の塊を出す。


「はう!」「わう!」

 フィオとシロは、肉を見てびっくりしている。


「品質保持機能もあって、冷めたり腐ったりしないんだ」

「すごい」「わぁう」

「見張りを頑張ってくれているからな。これ食べていいよ」


 フィオとシロに肉をあげると、バクバク食べる。

 フィオは相変わらず口で受け取る。

 そしてシロと一緒に手を使わずに、地面においてバクバク食べる。


「フィオは手を使うと便利だぞ」

「がふがふ……て?」

「そう、手だ。こうやると色々便利だよ」


 俺も魔法の鞄から肉を取り出して、実際に手で肉を持って食べて見せる。


「ふむぅ」


 フィオも見よう見まねで手を使って食べ始める。


「な。意外と便利だろう? 土がつかないからジャリジャリしないしな」

「ん」


 フィオは手を使うことを覚えてくれたようだ。

 今度はフォークやスプーンの使い方も教えてあげなければなるまい。


 石を大量に拾うと、一旦拠点へと戻る。

 するとヒッポリアスは、すでに大きな木を五本ぐらい積み上げてくれていた。

 どや顔で木の横に座って、尻尾をゆったりと揺らしている。

 褒めて欲しいのだろう。だから俺はヒッポリアスを撫でまくる。


「さすがはヒッポリアスだ! すごく早いな!」

「きゅぅ!」

「立派な木ばかりだ! 助かるよ」

「きゅっきゅ!」

「木を採ってきた場所もいいな! あの辺りは地質はともかく場所的には畑に最適だ」


 地質は今調査中である。

 だが、ヒッポリアスが木を伐採してきた場所は、拠点から程よく近い。

 畑を作れたらすごく便利だろう。


「えらいぞ、ヒッポリアス!」

「きゅっきゅ!」


 俺がワシワシ撫でていると、ヒッポリアスが言う。


『あとどのくらいあつめればいい?』

「そうだなぁ。とりあえずはあと三本位かな?」

『いしは?』

「石もまだ欲しいかな。木を三本集めたら一度、俺のところに来てくれ」

『わかった!』

「ありがとう」

「きゅっきゅ」


 ヒッポリアスは、元気に尻尾を振りながら木を伐採しにいった。

 俺も集めた石をヒッポリアスが積んだ木の横に置いて、もう一度川原へと向かう。

 フィオとシロも一緒である。


 俺が石を拾って魔法の鞄に入れていると、フィオも石を入れてくれた。


「おお、フィオありがとう」

「あふ」


 するとシロまで口で石を咥えて持ってきた。

 その石を俺は受け取って鞄に入れてから、シロをワシワシ撫でた。


「シロ。ありがとうな。でも無理はしなくていいよ」

「わふ」

「シロは危ない奴がいないか見張っていてくれ」

「わふっ!」

「うん、シロはいい子だな」


 シロは嬉しそうに尻尾を振った。

 それからは俺とフィオが石を拾っている間、尻尾をピンとたてて、見張りをしてくれた。

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