27 石集め

 俺は石を拾う合間に、シロに指示を出していく。


「シロ、あっちの方を警戒してくれ」

「わふ」

「ありがとうな」

「わふぅ!」


 魔狼と仲良くするには、人がボスになった方がいいのだ。

 通常はテイムした人間がボスになる。だがシロをテイムしたフィオは子供である。

 そしてシロはフィオの兄貴分、もっといえば保護者だった。


 いくらテイムされたとはいえ、その関係を逆転させるのは難しい。

 シロにとってもフィオにとってもストレスになる。


 魔狼に限らず、狼はボスの保護下にいると安心する。

 だが、ボスがいない場合、自分がボスになって皆を保護しなくてはならなくなる。

 今までのシロのようにだ。それはかなりの重圧で、ストレスにもなりうる。

 特にシロのような幼狼ならなおさらだ。


 だから、俺はシロのボスとして、あえて振るまうことにしたのだ。



 順調に石を集めていると「きゅおきゅおぅ」と鳴きながら、ヒッポリアスが走って来た。

 俺は駆け寄って来たヒッポリアスを撫でる。


「おお、ヒッポリアス、木は集め終わったのか?」

『おわったー』

「ありがとう。助かるよ」

「きゅ」

「こっちももう少しで終わるから、待っていてくれ」

『ひっぽりあす、てつだう』

「助かるよ」

「きゅぅ!」


 ヒッポリアスは嬉しそうに鳴くと、ジャバジャバと川の中に入っていく。

 それをみてフィオがおろおろして、こちらを見る。


「ておっておっ!」


 フィオは「あれ大丈夫なの?」と尋ねているのだ。

 フィオは、濡れたら死にかけない暮らしを送ってきた。

 それに川の水は夏でも、非常に冷たい。心配するのも無理はない。


「大丈夫だよ。ヒッポリアスは海カバだからね」

「うみかば」

「そう。海カバ。水の中で暮らしてたりもするから濡れても大丈夫なんだ」

「わふぅ~」


 フィオは感心したようだ。

 尊敬の目で、川でバチャバチャしているヒッポリアスを見つめている。


 一方、ヒッポリアスは、フィオの視線には全く気づいていない。

 ヒッポリアスのテンションはどんどん上がっていた。

 海カバなので水に入ること自体、好きなのだろう。


 川は一番深いところでも、水深一メトルちょっとだ。

 雨次第で水深は大きく変わるのだろうが、平時は歩いて渡れる程度の可能性もある。

 それを確かめるためにフィオとシロに俺は尋ねる。


「フィオ、シロ。前回、雨が降ったのはいつごろか分かるか?」

「「わふ~」」


 フィオとシロは、揃って首をかしげる。思い出しているのだろう。可愛らしい。

 俺は思わずフィオとシロの頭を撫でる。


「はっ! はっ! はっはっ!」


 シロは尻尾を振って、舌を出し息をしながら、「結構前」に雨が降ったと教えてくれた。


「わむぅ……。はちひがでた」

「雨が降ってから、八回太陽が昇ったってことか?」

「そ」

「そのときは、沢山降ったのか?」

「すこし」

「そっか。ありがとう」


 あとで気候学者にも教えてやろう。

 八日前に少しの雨ならば、この川は別に増水しているわけではないのかもしれない。


 俺たちがそんなことを話している間、ヒッポリアスは浅い川でバチャバチャしていた。

 石集めを手伝うことを忘れて遊んでいるようだ。


 ヒッポリアスは木を集めるのを頑張ってくれた。

 それにまだまだ子カバ、いや子海カバ。遊びたいときは遊んでいいのだ。


 だから、俺は石集めをする。

 子供が遊んでいる間に働くのは大人の務めである。


「本当はフィオとシロも遊んでいいんだけどなぁ」

「あぅ?」「わふ?」


 フィオは石を拾いながら、シロは周囲を警戒しながら首をかしげていた。

 魔狼のシロは仕方ない面もある。

 遊んでいるより仕事をした方が精神的に安定するなら、その方がいい。


 だが、あくまでもフィオは魔狼ではなく人なのだ。


「……あとで遊んであげないとな」


 その時にはシロも一緒に遊んであげよう。


「あ、そうだ。フィオ、シロ、散歩に行きたくないか?」

「わふぅ!」


 シロは行きたそうだ。やはり魔狼にとっては散歩は大切なのだ。

 だが、フィオは「さんぽ?」と首をかしげる。

 シロはテイムスキルが通じるので、何をするのか言葉がわからなくても理解できる。

 だが、人のフィオにはテイムスキルは通じない。

 フィオは知っている言葉しか知らないのだ。


「そうだなぁ。散歩っていうのはみんなで歩くことだ」

「あるく?」

「縄張りに異常がないか確認しないといけないからな」

「なわばり!」

「どうだ? フィオ、シロ」

「する!」「わふわふぅ!」

「じゃあ、石を集め終わったら、散歩しよう」


 そういうと、フィオもシロも嬉しそうに尻尾を振る。

 散歩をすることを決めたらさっさと石集めを終わらせたい。


 俺はどんどん石を魔法の鞄に放り込んでいく。

 フィオも一生懸命石を集めてくれた。シロの周囲の警戒っぷりも中々だ。


「さて、そろそろいいかな。石を置いてから……」

 散歩に行こうと、言葉を続けようとしたら、

「きゅおおおお」

 ヒッポリアスが大きな声で鳴いた。


「おぉ? どうした、ヒッポリアス」

「きゅお」


 ヒッポリアスがどや顔で、とても大きな石、いや岩を持ち上げていた。

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