24 シロの種族
ケリーは目が血走り、鼻息が荒かった。非常に興奮しているようだ。
「ケリーだ。ふんふんふん、何か困ったことがあったら言え、ふんふん」
「こわい」「ゎぅ」
「ケリー落ち着け。怖がっているだろう」
「ああ、すまないな」
ケリーを落ち着かせると、俺は聞きたかったことを尋ねる。
「シロのことなんだが新種か?」
「とりあえず、よくみてみたい。フィオ。シロに触ってもいいか?」
俺ではなくフィオに許可を取るのは、シロをテイムしたのがフィオだからだ。
フィオは俺に目を向ける。
「ケリーは変な奴だが、悪い奴ではないよ」
そう言ってほほ笑んでおく。
すると、フィオはシロの首にそっと抱きつきながら言う。
「……ぃぃ」
「ありがとう」
ケリーは微笑むと、ゆっくりシロに近づいた。
警戒されないように、ゆったりした動きで手を伸ばす。
そして優しく撫で始めた。
ケリーは魔獣学者だけあって、獣の取り扱いはうまいようだ。
「ヒッポリアスのときと比べて、なんというか……配慮できているじゃないか」
「ヒッポリアスにも私は配慮していたが?」
「ぶぼ」
ヒッポリアスが変な声を出した。
ちなみにヒッポリアスは俺がフィオとシロを紹介している間、ずっとついてきていたのだ。
「ヒッポリアスは配慮が足りないと思っているみたいだぞ」
「そうか? そんなことは無いと思うが」
ケリーはまったく気にした様子もなく、シロを撫でまわしている。
恐らく非常に珍しい竜種、それも高位竜種の取り扱いは魔獣学者でも不慣れなのだろう。
「ほうほう?」
ケリーはシロを調べながら、多少乱暴に見えるぐらいわしわしと触りはじめた。
だが、ケリーの手はシロにとって心地よいらしい。シロは大人しくしている。
「俺はシロは子狼だと思うだが、ケリーはどう思う?」
「そうだな、テオの言うとおりだ。幼体だろう」
「やはり」
「うむ、そしてシロは新種だろう」
「お、新種なのか」
「まあな。だが新種とは言っても、ヒッポリアスのような完全なる新種ではない」
「完全なる新種?」
初めて聞く言葉だ。魔獣学の言葉なのだろうか。
俺が疑問に思っていると、ケリーは続ける。
「ヒッポリアスの海カバは他に類似の種族がいない」
「カバがいるだろ」
「カバと全然違うだろう?」
「そう言われたらそうだが……」
ヒッポリアスは顔は確かにカバに似ている。
だが、巨大な尻尾が似ても似つかない。角も生えている。
それに何より海で暮らしていたというのがカバとは違う。
「ヒッポリアスは顔がカバに似ているだけで、カバではなく竜だ」
「そうだな」
「そして顔がカバに似ている竜は、今までの魔獣学では確認されていない」
ヒッポリアスには、類似する種がいない。
そういう意味で完全なる新種と、ケリーは呼んでいるのだろう。
「だが、シロと似ている種族は沢山確認されている」
「ほう。それで一番似ている種族はなんだ?」
「そうだな……」
ケリーはシロの体毛を全身のいたるところを、根元まで調べていく。
「シロは白いだろう? しかも毛の根元から毛先まで白い」
ケリーはシロの毛を手で広げて見せる。
だが地肌は見えない。
「他の狼と同じく、シロはダブルコートなんだが下毛の方まで白い」
「ダブルコート?」
「狼には太くて長い上毛と、柔らかくて細かい下毛が生えているんだ」
「ほほう」
「この方が寒さに強いからな。それに水がかかっても、そう簡単には肌まで濡れない」
「確かにあったかそうだな」
無毛なヒッポリアスと比べれば、段違いの温かさだろう。
「で、シロは上毛も下毛も真っ白なんだ。そういう魔狼は魔白狼と呼ばれる」
「じゃあ、魔白狼って言う種族なんじゃないか?」
「だが、マズルが、つまり口の部分が一般的な魔白狼よりも少し短い」
「ふむ?」
「だから、私は魔白狼の亜種だと判断した」
「幼体だから口が短いんじゃなくて?」
「当然幼体であることも考慮しているさ」
ケリーがそういうのなら、そうなのだろう。
「魔白狼っていうのは、どういう種族なんだ?」
「魔狼の中でも、特別に強力だ」
「そうか、シロ、お前強かったのか」
俺はシロの頭を撫でた。
「わふぅ」
シロは誇らしげに尻尾をぶんぶんと振る。
「幼体一頭で人の子供を連れて生き延びられたのは、魔白狼だったからだろうな」
その話を聞くと、確かめなければならないことができた。
「シロ。聞きたいんだが、群れの仲間も白かったのか?」
俺はテイムスキルを使って尋ねた。
先にフィオがシロを従魔にしたので、テイムスキルを使っても従魔にはできない。
だが、テイムスキルを使えば、意思疎通することは可能なのだ。
「……わぅ」
「そうか、仲間も白かったか」
「わふ」
「何頭ぐらいの群れだったのだ?」
そう尋ねたのはケリーである。
ケリーの言葉を聞いて、シロは少し考えた。
「わふ」
シロは十三頭と教えてくれた。フィオと子狼を入れて十三頭。
成狼は八頭だったとのことだ。
シロは人の言葉をかなり高い水準で理解している。
恐らく天性のテイマーであるフィオと人の言語を使って意思疎通をしていたからだろう。
だが、シロは人の言葉を話せない。
だから、シロが何か言っているのかは、俺とフィオにしかわからない。
俺はシロの言っていることをケリーに伝えた。
「……ということだ」
「ありがとう。魔白狼の成狼八頭の群れを狩った魔熊か。これは危険だな」
ケリーは真剣な表情で考え始めた。
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