23 朝食と仲間入り

 俺は一通りフィオ、シロ、ヒッポリアスの互いの挨拶が済んだのを確認して声をかける。


「さてさて。朝ご飯を食べながら、みんなにも挨拶だ」

「わふ」「きゅ」


 シロが尻尾をぴんと立てて張り切っている横で、ヒッポリアスも尻尾を立てている。

 ヒッポリアスも張り切っているのだろう。

 ヒッポリアスは別にみなと初対面でもないし張り切る必要はないのだが。


「みんな仲間だからな。警戒しなくてもいいぞ。フィオもわかったか?」

「わかた」


 フィオは真剣な表情でうなずく。

 フィオは促音、つまり「っ」を発音するのが苦手なのかもしれない。

 意味は伝わるので、問題はない。


 俺はヒッポリアスとフィオ、シロを連れて家を出た。


 早速冒険者の一人に声をかけられる。


「お、テオさん、おはよう! その子が昨日の子だな?」

「ああ。昨日は見守ってくれてありがとうな」

「いや、俺は寝てたんだよ。酒のせいでな! ガハハ!」

「そうだったのか」

「みんなが噂していたから、知ってるってだけだ」


 冒険者たちの中でも、気づかなかったやつもいるらしい。

 酒とは恐ろしいものだ。


 そんなことを考えていると、ヴィクトルが来る。


「テオさん、朝ご飯の準備は出来てますよ。食べながら新しい仲間を紹介してください」

「わかった。フィオ、シロご飯だぞ」

「ごはん!」「わぅ」


 拠点の中央に向かうと、皆が揃っていた。

 かまどを使って昨夜の残りを温めなおしてくれたようだ。

 俺は自分たちの朝ご飯を受け取ると、フィオとシロの前に置く。


「がう」「ぁぅ」

 ひと声鳴いて、フィオとシロはご飯をじっと見つめる。


「ヒッポリアスにはこれだ」


 ヒッポリアスには特別メニューだ。

 なにせ猪を狩って来た、この食事における最大の功労者で、体も大きい。

 俺は、魔法の鞄に入れておいた焼いた内臓の残りをヒッポリアスの前に置く。


「きゅ!」


 ヒッポリアスはむしゃむしゃ食べ始める。

 だが、フィオとシロは食べ始めない。じっと俺の方を見ている。


「どうした? フィオ、シロ。食べないのか?」


 そういいながら、俺も自分の分を食べ始める。

 すると、フィオとシロも食べ始めた。


「がふがふがふがふ」

 すごい勢いだ。

 フィオもシロと同じように四つん這いになって食べている。

 あとで人にとって食べやすい姿勢とやり方を教えてあげなければなるまい。


「ゆっくり食べなさい」

「がふがふがふ」

「さて……」


 フィオとシロが食べている間に、俺はみなに説明することにした。

 冒険者たちは食事しながら、こちらを興味津々な様子で見ている。


「聞いてくれ。みんな未明に騒ぎがあったのを知っているだろう?」


 昨日の騒ぎに気付かず朝までぐっすりだった奴らもいるが、この際おいておこう。


「この子がフィオで狼がシロだ。昨日保護した。仲間にしたい」


 当たり前の話だが、仲間にするとなれば皆の同意を得なければならない。

 俺は冒険者と学者を見回す。

 反対なものはいなさそうだが、事情は説明しなければなるまい。


 俺はフィオたちに気付いて、交渉し、家に連れ帰ったことを説明する。


「フィオさんは人ということでいいんですよね?」

 そう尋ねて来たのはヴィクトルだ。


 俺たちの大陸にも魔族の大陸にも、獣の耳と尻尾を持った人はいない。

 疑問に思うのは当然だ。


「がうがう言うことが多いが、人の言葉を話せるからな。フィオ?」

「あぅ?」

「おいしいかい」

「うまい」

「お腹いっぱいになったか?」

「たりない」

「そうか、これも食べなさい」

「あいあと」


 俺が肉をさらに足してやると、フィオはお礼をいって「がふがふ」食べる。

 俺とフィオが会話している様子を冒険者たちは真剣な目で見つめていた。


「それから、フィオはテイマーだ。このシロを従魔にしているのだからな」

「なんと。それは本当ですか? まだ幼く見えますが……」


 魔狼は魔物の中でも、かなり強力で高等な部類である。

 一般的に幼い子供がテイムできるような魔物ではないのだ。


「驚きだがな。それも――」


 俺はフィオがシロをテイムした経緯を説明する。

 冒険者たちはみな驚いた。


 詠唱せずに魔狼を無意識でテイムするなど、普通はあり得ないのだ。


「驚くだろ。俺も驚いた。これほど才能にあふれたテイマーには俺も初めて会った」

「テオさんがそうおっしゃるなら、そうなのでしょうね」


 一通り説明が終わるころには、フィオもシロもご飯を食べ終わっていた。

 そこで改めて、皆に尋ねる。


「フィオとシロを仲間に加えてもいいだろうか」

「俺は賛成だ」「テイマーなら助かるぜ」

「魔狼も仲間になってくれるなら、心強い」


 みな賛成してくれた。


「ありがとう」

「あいあと」「わぅ」


 そして俺はフィオとシロを、仲間たちへ順番に紹介していく。

 紹介の最後に待ち構えていたのは魔獣学者のケリーだった。

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