14 上陸祝賀会

 ヒッポリアスが捕まえてくれた猪はとても大きい。

 成人男性の十人分ほどの体重がある。

 内臓や骨を除いた肉の重さだけでも相当にある。

 健啖家けんたんかの冒険者二十人がかりでも食べきれる量ではない。


 俺は、ヒッポリアスに内臓を食べさせながら自分もゆっくりお肉を食べる。

 すると、ヴィクトルがやってきた。


「テオさん、余った肉は、明日以降でいいので加工お願いします」

「明日でいいのか? 鮮度が落ちない方がいいし、今からやろうか?」

「いえいえ、お疲れでしょうし、ゆっくりで構いません。それに魔法の鞄がありますから」


 高級な魔法の鞄の中には品質保持の魔法がかかっているものがある。

 ヴィクトルの魔法の鞄にはその魔法がかかっているのだ。


「そういうことなら、ゆっくり余裕のある時にでも加工させてもらおう」

「お願いします」


 肉は毎日獲れるわけではない。特に冬は食糧が不足すると予想できる。

 保存食にできれば、何かと安心だ。

 干し肉に加工すれば、携帯食にもできる。

 本格的な調査が始まれば、冒険者たちがしばらく拠点を離れることも多くなる。

 やはり、干し肉は沢山必要になるだろう。


「どういう加工がいい? 全部干し肉って言うわけにもいくまい」

「そうですね……。ハムなども食べたいですね」

「ハムか。悪くない」

「干し肉ほどカリカリにしない程度の燻製にするのもいいですね」

「ああ、あれも美味い」


 だが、ハムも燻製も、おいしく作るには、色々な材料が必要だ。

 材料を採取できるかが鍵になる。


「まあ、加工は材料が集まるかどうか次第だな。ゆっくりやろう」

「ですね」


 品質保持機能のある魔法の鞄さまさまである。

 食肉加工の道具を作るよりも井戸堀りや家具製作の方が優先かもしれない。


 そんなことをヴィクトルと話しながら肉を食べているとお腹いっぱいになった。

 冒険者たちも、みんなお腹がいっぱいになったようで、ゆっくりしている。

 冒険者たちと学者連中は、楽しそうに船から運び出したお酒を呑んでいた。


 長い航海をする際は、お酒を沢山船に積むのが普通である。

 真水は腐りやすいので、水の替わりに酒を積むのだ。


 魔法の鞄に水を入れればいいと思うかもしれないが、容量は無限ではないので仕方がない。


 ヴィクトルが皆に優しく言う。


「あまり呑みすぎないようにしてくださいね」

「わかっているさ!」

「だけど、上陸して最初の夜なんだ。少しぐらい羽目を外してもいいだろう?」

「ヴィクトルの旦那もどうだい?」

「めでたい夜ですぜ? 呑みましょうや」


 冒険者たちに勧められて、ヴィクトルは微笑む。


「じゃあ、もらいましょうか」

「そう来なくっちゃ」


 ヴィクトルは冒険者たちにお酒を注がれると、美味そうに呑みほした。


「やはりうまいですね」

「さすが旦那。もう一杯どうぞ」


 ヴィクトルはドワーフである。

 ドワーフには大酒呑みが多い。そしてヴィクトルも例外ではない。

 航海中は他の冒険者の範となるよう酒をあまり呑まないようにしていたのだ。


「ヴィクトルは本当に美味そうに酒を呑むんだな」

「まずそうに呑むのは酒に対する冒とくです」

「テオさんもどうだい?」


 すると冒険者の一人が酒を持って俺の方に来る。

 普段俺はあまり酒を呑まない。だが記念すべきめでたい夜だ。


「一杯だけもらおうか」 

「遠慮せずに、たくさん飲んでくれよ!」


 そして、改めて皆で乾杯する。


 夜が更けて、徐々に宿舎へと帰っていく。

 部屋割りは、俺が建築作業をしている間にヴィクトルが済ませてくれていたらしい。


 冒険者たちは皆沢山お酒を呑んだようだ。

 ふらふらしている者がほとんどだ。

 とはいえ、皆一流の冒険者。正体を失うほど酔った者は一人もいない。

 皆、自分の足で歩いて宿舎に向かう。


 一番酔っていたのは地質学者だ。

 自分で歩けない状態で、ヴィクトルに支えられて宿舎に戻っていった。

 ちなみに部屋割りはヴィクトルと三人の学者が同じ宿舎になっている。


「さて、俺たちもそろそろ寝るか」

「きゅ」


 俺はヒッポリアスの家へと向かう。ヒッポリアスは尻尾を振って先導してくれた。

 宿舎には俺用の部屋もあるが、当面は使うことはなさそうだ。

 物置にでもすればいいだろう。


「きゅう!」


 ヒッポリアスは口で扉を開けると、どや顔でこっちを見てくる。

 自分でしっかり扉を開けられたとアピールしているのだろう。


「お、開けてくれてありがとう」


 俺はヒッポリアスを褒めて、頭を撫でてから家へと入った。

 家の中は真っ暗だ。

 ランタンはあるが、今日は寝るだけ。つけたら燃料がもったいない。


「きゅっきゅ」


 ヒッポリアスは家の隅っこに行くと横になって丸くなる。

 そして、ゆっくり尻尾を揺らしながらこちらを見た。

 早く一緒に寝ようと言っているのだろう。


「じゃあ、寝るか」

「きゅ!」


 俺はヒッポリアスの横で眠ることにした。

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