13 猪肉パーティ

 肉は大した調理はしていない。

 ただ塩と胡椒をかけて焼いただけである。


 それでも肉に飢えていた冒険者たちは美味しそうに食べていた。


「うまいな!」

「ああ、塩と胡椒だけでうまいな!」

「最近は胡椒も安くなりましたね」


 ヴィクトルがしみじみという。

 魔族の大陸で栽培されていた胡椒は、平和になった今では安く手に入るようになった。


 胡椒は肉の保存にも役立つし、調味料としてもすぐれている。

 それゆえ、冒険者たちの必須装備となったのだ。


「ヒッポリアス。ありがとうな」


 俺もお礼を言ってから猪の肉を食べる。

 独特の匂いはあるが、脂身も甘くてとてもうまい。

 脂身に塩がよく合っている。


「この辺りの猪は、いいものを食べてるんだな」

「ああ、テオの言うとおりだ。餌が豊富なんだろう」


 そう言いながら、ケリーもうまそうにバクバクとイノシシ肉を食べていた。


「ヒッポリアス、ありがとな! とてもうまいぞ」

「ああ、ヒッポリアスのおかげで、凄く助かるぞ」


 冒険者たちもヒッポリアスにお礼を言う。

 航海の途中から、今までヒッポリアスは大活躍だった。

 それをみんなわかっているからヒッポリアスは仲間として認められている。


「きゅ」


 ひと声鳴いて、ヒッポリアスは尻尾を振る。

 冒険者たちにお礼を言われて、ヒッポリアスもまんざらでもなさそうだ。


「ヒッポリアスも食べるといい」


 俺がそう言うと、ヒッポリアスは口を開ける。

 口の中に焼いた猪の肉を入れてやる。


「熱くないか?」

『あつくない、うまい』


 さすが竜種。口の中も頑丈らしい。猫舌ではないようだ。


 そんなことをしていると、内臓の方にも火が通った。


「ヒッポリアス内臓も焼けたみたいだぞ」

『たべる』


 そういって、ヒッポリアスは尻尾を振って大きく口を開ける。

 俺は猪の内臓をヒッポリアスの口の中に入れていった。


「うまいか? ヒッポリアス」

「きゅっきゅ」


 とても、おいしそうだ。

 ヒッポリアスは口の中に食事を入れてもらうことが、とても好きらしい。


 そんなヒッポリアスの口にケリーが肉を入れようとすると、

「ヒッポリアス。これもくえ」

「きゅ」

 ヒッポリアスは口を閉じた。


「え? お腹いっぱいなのか?」

「きゅう」


 そして俺の方を向いて口を開く。


「ケリー。どうやらヒッポリアスは俺に食べさせてほしいらしい」

「……そうなのか。なるほどなぁ」


 ケリーはがっかりするでもなく、メモを取りながら言った。


「親から餌をもらうひな鳥のようなものかもしれないな」

「そんな習性があるのか?」

「カバにはないが、一部の竜にはある」

「なるほど」


 海カバはやはり竜なのかもしれない。

 俺はヒッポリアスの口に肉を入れながら尋ねる。


「焼いた内臓と生の内臓どっちがうまい?」

『やいたの』

「焼いた肉と生の肉は?」

『やいたの』


 どうやら、ヒッポリアスは焼いた肉の方が好みらしい。


「じゃあ、焼いた内臓と焼いた肉は?」

『ないぞう』


 段々ヒッポリアスの好みがわかって来た。

 分かったことを、ケリーに教えてやると、肉をもぐもぐしながら、メモを取っていた。


「もちゅもちゅ。きゅう」


 それにしてもヒッポリアスはおいしそうに内臓を食べる。

 そんなヒッポリアスを見ていると、内臓がうまそうに見えてきた。

 ケリーはこの種類の猪の内臓はまずいと言っていたが、毒がないとも言っていた。

 よく火は通っているし、食べても害はないだろう。


「ちょっと、食べてみるか」


 俺は猪の内臓をぱくっと食べてみた。


「きゅ!?」


 ヒッポリアスが、びっくりした様子で内臓を食べた俺を見る。

 まるで「え、それぼくのなのに……」と言いたげである。


「すまないな。ヒッポリアス。ちょっと食べてみたくて」


 俺はなだめるために、ヒッポリアスの頭を撫でた。


「……意外とまずくない。いやうまいのでは?」

「きゅ?」


 まずいというのは間違いだったのかもしれない。

 魔獣学者であるケリーとはいえ、全ての獣を知っているわけではないのだ。


 俺はじっくり猪の内臓を味わう。


「……ふむふむ、うっ!」


 いきなり強烈な臭みが来た。しかもものすごく苦い。

 そして、えぐみが凄い。


「まっず、凄くまずい」

「きゅぅ~」


 ヒッポリアスは「言わんこっちゃない」と言いたげにこちらをジト目で見ていた。


「やっぱり、これはヒッポリアス専用だな」


 この猪の内臓は人族が食べるにはきつすぎる。

 だが、一度口に入れたのだから、しっかりと食べきらねばなるまい。


 俺が頑張って飲み込もうとしていると、ケリーが笑う。

 ケリーは俺が猪の内臓を食べはじめたときから、じっと見ていたのだ。


「こいつの内臓はまずいだろう?」


 ケリーはどこかどや顔に見える。


「……そうだな、確かにまずかった」


 俺は猪の内臓を何とか飲み込んだ。

 そして、ヒッポリアスに内臓を食べさせながら、自分は肉の方を食べる。


「だが、自分で食べるのは良いことだ。何事も実際に確かめないとな」

「そういうことを言うってことは、ケリーも食べたのか?」

「もちろんだ。毒がないことがわかっているのなら、食べぬわけがない」

「そんなもんか」

「それが学者だ。そういう意味ではテオも学者の素質がある」

「それはどうも」


 そんなことを話しながら、楽しい夜は更けていった。

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