12 夕食の準備

 俺は今日一日すごく頑張ったヒッポリアスを労わることにした。

 ワシワシ撫でながら、魔力を少し分けてみる。


「どうだ、ヒッポリアス」

『まりょく、おいしい!』


 俺は定期的にヒッポリアスに魔力を与えている。

 テイムしたときは半分ほど魔力を持っていかれた。

 だが、日々の補給はテイム時ほど大量の魔力は必要ない。


 大体、テイム時の十分の一から二十分の一でいい。

 だから製作スキルを何度も行使した後でも、分けるぐらいのことは出来る。


「ヒッポリアスはどのあたりを撫でられるのが好きなんだ?」

『あたま! おなか!』

「そうかそうか」


 俺は両手を使って、頭とお腹を交互に撫でる。


『くちのなかも!』

「口の中か……」


 俺の知っている川の近くにいるカバは口の中を鳥に掃除させたりしていた。

 海カバにも、そういう共生相手の鳥がいるのかもしれない。

 いや、海カバだから、共生相手は魚の可能性もある。


 とりあえず、鳥も魚もいない現状では、俺が共生相手になるしかあるまい。


「ヒッポリアス、口を開けて」

「きゅおーん」


 ヒッポリアスが素直に口を開けたので、俺は手で口の中をごしごし磨く。


「きゅぅ」


 ヒッポリアスはとても気持ちがよさそうだ。目を閉じて、うっとりしている。

 人間でいう歯磨きのようなものかもしれない。


「ヒッポリアスは口が大きいな。今度牙を磨くためのブラシみたいなのを作ってもいいかもな」

「きゅう」


 ヒッポリアスが気持ちよさそうにしていると、俺も嬉しくなる。

 そうして、俺がヒッポリアスと戯れていると、ヴィクトルがやってきた。


 ヴィクトルは俺とヒッポリアスを交互に見る。


「テオさん。ヒッポリアスは先ほどの猪の内臓を食べるのでしょうか?」

「どうなんだ? ヒッポリアス」

『たべる。すごくおいしかった』


 ヒッポリアスは植物も食べるが、基本的に肉食なのだ。

 肉も内臓もバクバク食べる。比較的小さな動物ならば、骨まで食べる。


「食べるそうだ。それがどうかしたのか?」

「ケリーが、ヒッポリアスが狩って来た猪は、珍しい猪だと言いまして」


 一般的な猪の内臓は、きちんと処理すれば人族が食べてもおいしい。

 だが、ケリーが言うには、ヒッポリアスの捕まえた猪の内臓はものすごくまずいらしい。

 毒ではないので、頑張れば食べられるが、できれば食べたくない味がするとのこと。


「ヒッポリアス。肉と内臓どっちが好きなんだ?」

『ないぞうのがおいしかった』


 過去形でいうということは、既に一頭食べたのだろう。

 ヒッポリアスは狩りが凄く上手なのだ。


 猪を捕まえて食べておいしかったに違いない。

 だから俺やみんなにもおいしい物を食べさせるために生け捕りにして持ってきてくれたのだ。

 心優しいカバである。


「今度食べるときは毛皮や素材を採りたいから、食べる前に持ってきてくれないか?」

『わかったー』


 猪の毛皮はいい材料になる。

 骨も同様だ。軽くて丈夫なので、製作スキルを使えば色々な物が作れるだろう。


 俺とヴィクトルがヒッポリアスを撫でていると、さらに冒険者の一人がやってくる。


「そろそろ焼きはじめるぞ! 内臓はどうするんだ?」

「ヒッポリアスが食べるそうですよ」

「内臓も焼くのか?」

「ヒッポリアス、生と焼いたのどっちが好きなんだ?」

『やいたのー』

「焼いたのが好きらしいから、内臓も焼いてくれ」

「わかったぜ!」


 そして、俺とヴィクトル、ヒッポリアスは家を出る。

 すると、肉の焼ける、とてもいい匂いが漂ってきた。


「肉は久しぶりだな!」

「ああ、魚もうまいが、肉は肉で格別だからな」


 冒険者たちも久しぶりの肉にテンションが上がっているようだ。


「簡易のかまどを作ったのか。言ってくれれば、しっかりしたものを作ったのに」


 冒険者たちは大きな石を積み上げて、簡単なかまどをいくつか作って、肉を焼いていた。

 冒険の途中で、かまどを作ることも多い。

 冒険者たちにとっては、かまどを作るなど手慣れたものである。


「いやいや、テオさんは家建てたから疲れてるだろう?」

「そうそう。かまどは俺たちでも作れるしな!」

「気を使わせてすまなかった。だが、かまどぐらいなら、大した手間じゃない」

「そうなのかい?」

「ああ。今度から遠慮しなくていいぞ。大変なら断るからとりあえず言ってみてくれ」

「わかったぜ!」


 石を積み上げた簡単かまどの上に、平たい岩を置いてその上で肉を焼いているのだ。

 猪の内臓は専用のかまどで焼かれていた。

 混ぜると、内臓独特の臭みが肉に移ってしまうからだろう。


「きゅっきゅう」

「ヒッポリアス。焼けるまでもう少し待て。内臓は火が通るまで時間がかかるんだ」

「きゅ」


 ヒッポリアスは待ちきれないのか、よだれをこぼしている。



 そんなことを話している間にもどんどん肉がいい感じに焼けてくる。


「そろそろ食べごろだ! みんな食え!」


 肉を焼いていた冒険者がそう言うと、冒険者たちが一斉に食べ始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る